第6話


「そんなにすぐに冒険に出たいの?」


「はい!」


私はそんな聞かれて当然の質問に、食らいつくように返事をする。

すると当たり前だが、受付のおじさんから、至ってシンプルなこんな質問をされた。


「なんで?」


なんでと言われても……

どうしよう、こんなに突っ込んで聞かれるなんて思ってなかったから、言い訳何にも考えてなかった。

変に急ぎの用事とか、ここをすぐに出たいとかいうと、追手が万一ここにきた時怪しまれるかもしれないし。

私はこっそり肩にいるうさぎに相談すると、こんな提案がなされた


「国境付近に住んでる両親が危篤だとでもいえば?」


「冒険家になりたいって言っちゃった後に、その嘘つうじる?」


「だから、親を看護して病気が治ったらすぐに冒険者として出発できるようにとか、説得の仕方はいろいろあるじゃん?自分でも考えなよ!」


叱られてしまった。

でも確かに、隣国王子との結婚を蹴ってまでここまできたんだから自分でなんとかしないと。

嘘でもなんでも言って、怪しまれず自然に急いで国境までいかなければ……

ええい、ままよ!

 

「国境付近に出稼ぎに行った親が病気になって……見舞いに行きたいんです。

でも、国境まで行く旅費がなくて……それなら幼い頃から憧れていた冒険家になって、その道すがら国境に行くことができれば……と」


どうだろう、ほとんどウサギのアドバイスを取り入れて、さっきまでの主張と矛盾がない理由を作ってみたんだけれど……

私は両手で顔を覆って、さめざめとなくふりをして、指の隙間から受付のおじさんの様子を見る。


するとおじさんはため息を吐いて、「冒険家として旅に出るのは無理だけど…」といいながら

さっきのコルクボードをもう一度指差した。


「お使いクエストこなしながら、いろんな街経由してなら……国境まで行けなくもないよ」


「お使いクエスト?」


私がそう尋ねると、おじさんは一例としてとある果物採集のクエスト求人票を私に見せてくれた。

内容は『ベリー1キロ分を3日後までにアサリア町まで届けること』と書かれていた。

アサリア町は、ここにくる前に馬車で通ってきた隣にある町。


「これは……アサリア町にベリーを届ければいいってことですか?」


「そういうこと。

当たり前だけど、村によって出現するモンスターも採取できる素材も違うでしょ?

だからよその村のギルドと提携して、各々の村や町で採取して近隣の村のギルドに素材を持っていくの。

それがお使いクエスト、国外に出る許可は出せないけど、国内なら移動可能だ。

それでもよければ、ギルドの登録はできるけど」


「なるほど」


「どうする?」


どっちにしても、この村からは一刻も離れた方がいいわ。

ひとまずここから逃げられるなら、国内でも構わないし、

冒険家になったところで、どうせ歩かなきゃいけないのは変わらないしものね。


「わかりました、それで結構です!」

「じゃあギルド登録ね」


私の決断に了承した受付のおじさんは、一枚の書類を取り出して私に手渡すと、

名前と、やりたい役職を書くようにと指示をしてきた。


だから私はその紙に『ジェニス・トラベルト』と記入して、役職のところには『剣士』と記入した。


それを見たうさぎが私にこそっと耳打ちする。


「なんで『ジェニス』?」


「本名書くわけにはいかないでしょ」


私は小声でうさぎにそう返すと、記入用紙をおじさんに提出する。

しかし、ここでもおじさんからストップがかかってしまった。


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