第5話 ギルドの制限

「なるほど、だからあのお妃様、この先のことがわかったってことね」


私の話を聞き終えたうさぎは、納得したようにうんうんと頷いた。


「まぁ、本当に前世のことを覚えてるかどうかは知らないけど、

予言を当てた以上、信じるしかないわよね」


「なるほどな……それはそれで大変だけど、

複雑だな、戦争回避した皺寄せがジュリアナにきたようなもんじゃん」


「それでも戦争を回避した功労者だもの、感謝しないわけにはいかないじゃない」


確かに、その皺寄せは理不尽極まりないけれど

その代わりに逃亡に関する手助けや資金調達を無償でやってもらうことになったわけだし。

この話はこれでチャラにしようじゃない。

それより、過去のこと恨んでる場合じゃない、早く逃げないと実家とゼズム公爵の魔の手が差し伸びているのだから


「明日から忙しくなるわ、見送りも終わったし、いい加減宿の中に入りましょう」


「そうだね、でも中に入る前に、魔法で髪と目の色ちゃんと変えなよ

ジュリアナの銀髪と青い目は目立つんだから」


「わかってるわよ」


私たちはそんな話をすると、準備してもらった宿の中に入って明日の準備をすることにしたのだった。

夜明けと共にギルドに行って、どこかのパーティーに入れてもらい国外へ脱出するために。

それはもう、やる気満々でしたわ。


でも、計画というのは予定通り行くものではありません。

わかっていたのに……

それを翌日、まさかのギルドで身をもって思い知ることになりました。





ーーー






「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか!?」


ギルドの受付でで私は大な声が響いた。


翌朝、村娘に扮し、うさぎのぬいぐるみのふりをした妖精を肩に乗せギルドへ登録しに行ったところ

まさかの冒険に出るチームへの参加を拒否されたのです。


ギルド登録において、魔法でレベルチェックを行ったのですが、そこで何かの項目が引っかかってしまったようなのです。


理由はというと...


「しかたないだろ、君のレベルが冒険に出るのに達してないんだ」


「そんなまさか…腕は確かですよ!」


こちとら、万一後継が生まれなかった時のことを考えて剣術を幼い頃から習ってきた。

先生からは、そこらの兵士よりも腕がいいとお墨付きをもらっている。

なのにレベルに達していないなんて、実力を見てもらっていないのに理不尽だ


「嘘だと思うなら、テストしましょうかテスト!!」


だから受付のおじさんにそう詰め寄って言ってみた。

おじさんは首を横に振ります。


「それは見ればわかるよ、今魔法でレベル確認したから。

剣豪としての腕も、魔法使いとしての頭脳も、癒しの力も完璧だ」


おじさんは私の手にリングをかけると、その上に数字が浮き上がった。

そこには『剣LV:25 魔法LV:17』と表示されていた

これは、このギルドが掲げている『冒険出立可能レベル』に達しているらしい、


「じゃあ何がダメなんですか!?」


そう聞くと、おじさんは申し訳なさそうに口を開く。


「クエスト達成率が非常に少ない、致命的に」

「クエ……スト………?」


私は聞き馴染みのない言葉で繰り返して答えてしまう。


「クエストって……なんの事ですか?」

「え!?冒険に希望者なのに、そんなことも知らないの!?」


受付のおじさんは呆れたように、コルクボードに貼り付けられている紙を指差す。


「あそこに求人票が出てるだろ

モンスター退治から、素材集めまで色々な依頼があるけど

一定数以上こなさないと冒険家として認めらんないの」


私は自分の世間知らずさに心底絶望した。

今まで勉強はしてきたけれど、一般市民のことを知ろうとしたのはどれほどあっただろうか。

その後悔を、私の肩で人形のふりをしている妖精もそのことを責める。


「ちょっと!!事前に調べなかったの!?」


「貴族は傭兵になることはあっても、冒険家になることはないのよ

だからそんな無駄なこと、家庭教師は教えてくれないわ」


「箱入りお嬢様め!!」


その言葉には返す言葉もない。


ここで冒険に出られない、なんて言われたら、絶対に追ってに捕まる!!

なんとしても、冒険に出ないといけない。

何とか無理してでも頷かせないと


「そ…そうだ!傭兵が冒険者に転職して

すぐに冒険に出たって話を聞いたことがあります!

クエストなんて話は」


「傭兵は戦地の経験者かそれ相応の訓練を受けてるでしょ

君はそういう訓練をしてるの?剣の稽古程度以上の訓練を」


確かに……そこまではない。

許されたのは剣の実践演習まで、練習を始めた頃弟が生まれたから後継問題も解消して、

それ以上の特訓は許されず、戦地で戦うための訓練は受けさせてもらえなかった。


いくらなれもしない夢だと思っていた冒険家の夢とはいえ、

下調べをしないなんて、自分の勉強不足を嘆いた。


「どうする?すぐにこの国出ないと、追手が来るんじゃない!?」


うさぎが小声でそんなことを言う。

確かに、どのくらいのレベルで出立できるんだろう……

低いレベルでいいなら話は別だけど、ある程度のレベルだったら……

そんなに経験値なんて一気に積めないし


「あの……それって……どのくらい……?」


「そうだね……冒険出立レベルが25くらいかな?」


「25!?」


さっきのリングを見る限り、私のレベルは当たり前だけど0。

ここから25になるまで、一体どれだけの時間がかかるだろう……

だめ、そんなに待ってられない。


「あ、そうだ!ここのギルドではってだけよね?」


それなら、このままもう少し国境近くの町まで歩いて向かって、そっちのギルドでパーティーに参加すれば……!


と思ったけれど、世の中そんなに甘くはない。

私の独り言を聞いたおじさんはこんなことを忠告してきた。


「言っとくけど、他の村でも条件一緒だし

レベルがないのは大きな町言っても雇ってもらえないよ」


撃沈である。


どうしよう、こんなところでもたもたしてる間に追手がくる。

もうきっと今頃、屋敷に私がいないことはバレてるわ。


この村くらいなら、1日もあれば捜索隊が来てしまう。

頭を抱えてその場に突っ立っていると、少しイラついてきたおじさんがこんなことを聞いてきた。

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