第3話 回想 ー結婚式の謝罪ー

皇太子様の結婚式の後、私は皇太子妃になったばかりのフェリアナ様の部屋に呼ばれました。


「急に呼び出して申し訳ないわね」


入室すると彼女から謝罪を受け、近くのテーブルの席に着くように促された。

そのテーブルには、彼女付きのメイドが手際よくお茶と茶菓子の準備をしていく。

ローズの香りのする紅茶と、香ばしいクッキーが並べられていたのだけれど

呼び出された時の『あの言葉』のおかげで、私はそれらを食べたいと思える精神的状況ではなかった。

そんなことよりも話の続きが気になった私は、席に着くことなく、彼女の方に顔を向け話しかけた。


「驚きました、かつてのライバルでもあるあなたに結婚式の後に呼び出されるだなんて。

一体『あの話』はどういうことなのですか?」


そう質問すると、どうも話を他の人には聞かれたくないらしく、室内にいるメイド達に下がるように命じた。

そして最後のメイドが部屋を出ていくのを確認すると、私の先ほどの質問にようやく答えた。


「どこからお話しするべきか、いまだに悩んで流のですが……

まずは、ジュリアンナ様に謝罪をさせてください」


そう言って皇太子妃であるフェリアナ様が私の前に来ると、深々と頭を下げた。


「ふぇ……フェリアナ様いけません!!

……事情は存じませんが皇族になったあなたが、下の身分のものに頭を下げるなんて!」


私は彼女のその行動にギョッとして、必死にその行為をやめさせようと肩を掴んだ。

しかし、彼女はそれをやめようとはしなかった。


「いいえ、このくらいしてもあなたへの償いには足りませんわ」


「つ……償い……?」


「そうです、だって私は卑怯な手を使って、あなたの未来を潰したのですもの

物語の内容は変えないつもりだったのですが、こうなってしまってはあなたの運命に関わりますもの」


「物語?」


私は彼女が何を言っているのか意味がわからず、首を傾げることしかできなかった。

何をもって未来を潰したというのか、そして彼女はなぜ未来を知ってるような物言いをするのか理解ができない。

そんななんとも言い難い表情で彼女を見て数分が経った頃、ようやく彼女は重い口を開きました。


「私……前世の記憶がございますの」


そう言った彼女の表情は、真剣そのものでした。

でもいくら魔法があるこの世界でも、前世の記憶を持っているものなどほとんどいないし、

そう言ったものは信じられてはおりません。

燃えるような赤髪に、キリッとしたお顔立ちでスレンダーで、いかにも現実主義そうな彼女が

まさかこんなおとぎ話のようなことを言ってくるとはおもわず


「前世……ですか……ロマンチックですわね」


そう言い返すのがやっとでございました。

きっと彼女は私がそんな反応をするであろうことは、予想済みだったのでしょう


「今からいう話は、理解できなければ、予知夢や予言のたぐいだと思って聞いてください」


だからこのような枕詞を置いて、私に話し始めました。


「私の前世は、この世界とは全く別の世界の至って普通の庶民でした

そこで、とある小説を読んだのです」


彼女が言うには、その小説では、エスフィード伯爵令嬢である私『ジュリアンナ・エスフィード』が主人公で、私が色々あって皇太子の寵愛を勝ち取り幸せになる話だったらしい。

そして彼女、『フェリアナ・ビリアン』は、主人公に嫉妬して色々画策をする悪役令嬢という役回りで

皇太子と結ばれるために、裏であの手この手をつくした結果、戦争が勃発し、責任を取るために処刑されると記されていたそうな。

自分の処刑もだけれど、自分のせいで無意味な戦争を起こし、多くの関係のない市民の命を失わせるわけにはいかないと

前世を思い出したその日決意をしたそうなのです。


「私は記憶を頼りに、その日以来あの小説と同じ末路にならないように、回避行動をして参りました。

そして当初の予定では戦争を完全回避が確認できた後、あなたと皇太子様を取り持つつもりでおりました」


「じゃあ、なんであなたが結婚してるんですの?」


一応、正々堂々と戦って負けたと思っているから、心から祝福しておりますけれど……

私だって皇太子様のことは本気でお慕いしておりましたわ、負けて悔しくないわけじゃありません。


それを聞かされる私の身にもなっていただきたいものですわ。


「回避行動をすることで、国の未来を平和なものに変えることには成功いたしました。

しかし、一部分だけ歴史を改変する……というのは難しくて、結果あなたの運命を曲げてしまいました」


「それは……まさか、さっき言っていた『売られる』ということですか?」


私は彼女にそう詰め寄ると、彼女はこくりと頷いた。

でも、心当たりはない、だって私はちょっと前まで皇太子妃候補だったのですもの、お金に困っているわけでもないのに売られる意味もわからない。

そんな私の様子を見て、彼女はずばりこう言う


「あなた、生児なのでは?」


その言葉にドキリとする。

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