第2話

「妖精!?ダメよ!!あなたの友達でしょ?連れていけないわ!

これからのこと考えたら、この子たちの力が必要でしょ?」


私が彼女に渡したそれは、一見それは掌サイズの黒うさぎのぬいぐるみなのだけれど、私が施した妖精を憑依させるための魔法陣が書かれたペンダントをかけていた。


それがわかったから、彼女は私にそのぬいぐるみを押し返した。


でも、私は首を横に振って、今度は彼女の手をとって手のひらの上に乗せた。


「いいの、この子温室育ちだから旅には向かないタイプの子だし、

その子も、あなたの元へ行くことは、事前に了承してくれてるわ

それに心配いらないわ、私には他の子がついてるもの」


そう言って、私は同じ形の白色のウサギのぬいぐるみを出して彼女にそう言った。

すると彼女は、ようやく納得をしてくれたようだ。


「あなたの才能に、本当に惚れ惚れしてしまいますわ。

さすが……皇太子妃候補になっただけのことはありますわね。

そう言うことでしたら、この子をお預かりいたしますわ」


あそれ安心したような表情を浮かべてようやく素直に受け取った。


「フェリアナ様、そろそろ」


私たちのやりとりを見て、一区切りついたと判断した馬車の御者は、彼女にそう言った。


「お気をつけて、幸運を祈ってるわ」


そして、彼女を乗せた馬車は暗闇の中に消えていった。

私はそれを見送ると、さっき自分の掌に乗せたウサギのぬいぐるみの頭を

指でぐりぐりと軽く撫でると


「お疲れ様、よくここまでじっとできたわね」


そう声をかけた。

するとウサギのぬいぐるみは、ピコンと体を揺らした後、

私の掌の上をぐるぐると動き回った。


「脱出できた?」

「えぇ、これで明日ギルドに入れたら、念願の冒険家よ」


私がニコリと笑ってそう答える。

しかし、ウサギの方は『信じられない』とでも言うようにため息をついた。


「あの妃様も言ってたけど勿体無い。もう一回玉の輿チャンスあったのに」


「いいのよ、恋に敗れたなら夢に生きるわ」


それに、何も私は玉の輿になりたかったわけでもなければ、王族になりたかったわけでもない。

強いて言うなら、皇太子候補だと言われたその日から恋心は抱いておりましたので、

皇太子妃になって添い遂げられたら素敵だなって思っただけ。


だから、自分が助かるために、隣の国の王子との結婚だなんて……裏切ってるような気分になってしまって、了承する気分にはなれなかった。


だったら、ずっと好きで習っていた剣を使える仕事につきたいと思うのは、自然なことです。

しかし、ウサギはやっぱり理解できないと首を横に振った。


「せっかく貴族に生まれたのに、夢が冒険家ってよくわかんない」


「わかってもらわなくても結構よ、どっちにしろ明日にはもう冒険に出てるんだから」


「そうだね、だったら早く宿の中に入ろう。

体力勝負の仕事をするって言うのに、こんな夜中まで起きてたら明日もたないよ」


「そうね、今日は早めに寝支度をしないと」


だって、早くここから国境近くの街に行って国外へ出ないと、

追ってがここまで追いついてしまう。


「まだ、彼女に未来の話を教えてもらえたのが不幸中の幸いよね」


「それにしてもあのお妃さん、なんでわかったんだろう」


「前世の記憶があるんだって」


「前世?」


「そう、こことは別の世界で平和に過ごしてたらしいんだけど、

その時に読んだ本がこの世界のことに酷似してるんですって」


この話を聞かされたのは、『フェリアナ・ビリアン』が『フェリアナ・スタイン』に名前が変わった日、つまり皇太子妃になった日のこと。


それも、結婚式の直後だった。


私は彼女に控室に連れていかれ、こんな話を聞かされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る