第1話

 深夜0時の鐘が鳴る。

月明かりしかない、真夜中の真っ暗な森を駆ける馬車。

その馬車には私、ジュリアンナ・エスフィードが乗っていました。


「明日になったら大騒ぎね、置き手紙でも書いてこればよかったかしら」


憎たらしいくらいに丸い満月を見ながら、私がポツリとそう呟くと、

同乗者はこう言いました。


「足がつくのはまずいわ」


思いの外真面目に返答をされて、私は苦笑を浮かべることしかできなかった。

でも、彼女が真面目にいうということは、私が思っている以上に楽観的状況にはないらしい。


私はこの後の足取りを頭の中でシミュレーションしていると、今度は彼女の方から声をかけてきた。


「ありがとう、こんな馬鹿げた話を信じてくれて」


本来、私はこの言葉に対して『お礼を言うのはこちらの方だ、おかげで早く逃げられた』と言うべきなのでしょう。

しかし、今回のそもそもの発端が彼女にある、と思うと素直にそう伝えることができなかった。


だから、代わりに素直じゃないこんな言葉を送る。


「信じるしかないじゃない、『鉱山事業が大赤字で撤退』と言う予言をあてたんだもの」


やはり、欲など出してはいけなかったのよ。

元々うちの領地は農作物が盛んな地域だったのですが、天候によって収穫量が左右させられることから、一山買って、鉱物を当てて利益を安定させるつもりだったのです。


結局、買った山からは高山は一つも出てこず赤字だけが残ったのですけれど。


「確かに今なら、資金援助のために老耄公爵に売られる可能性は十分あるわね

今逃げなければ、手遅れになるとことだったわ」


それは、私なりの感謝の言葉だった。

しかし、それでは気が済まなかったのだろう、

同乗者の彼女は、私の手を握ると私をまっすぐ見据えてこう言った。


「ねえ、本当に私の提案を採用するつもりはないの?

それならこんなことをしなくても済むし、元皇太子妃候補なら向こうも……」


これは最初から彼女に持ちかけられていた提案でした。

確かに魅力的ですし、彼女になら縁談を組むことは本当にできることなのでしょう。

しかし、私は首を横に振りました。


「隣の国の王子との縁談?魅力的ですけれど遠慮しておきますわ。

どこかでお会いして恋に落ちれば考えますけど」


「でも、だからって国外逃亡目的で冒険家にならなくても……」


彼女は心から心配してくれているのだろうけれど、これは私が決めたこと。

もし、貴族に生まれなければやってみたかったことだったのだ。


「自由になりたかったんだもの、それに腕試ししてみたかったしいい機会です」


元々、護身術の延長で剣を習っていた私は、どこかで実践したいと考えておりました。

恋に敗れたなら、夢に行きたいと思うのは人間の常。

だから、大丈夫だという意味を込めて彼女の手を強く握りしめた。


それでもまだ止めようとする彼女だったけれど、

走行しているうちに目的地に着いてしまったようで、それ以上説得するのを諦めた。


「私が送れるのはここまで、

あとは早めにギルドに入ってパーティー作って、この国から脱出して」


「ありがとう、十分助かりました」


私はそう告げると、ちょうどそのタイミングで馬車の扉が開いたのでエスコートに従って降りる。

馬車はどこかの村の宿の前で泊まってくれていた、今日の宿……と言うことなのでしょう。


私は最後にと振り返り彼女にお礼を言う。


「かつてライバルだった私にここまでよくしてくれてありがとう」


「償いには到底足りないわよ、これを選別に持っていって」


すると彼女は、首にかけていたペンダントを私に渡す。

親指くらいの大きさの正円で、開閉ができるロケット型のペンダントだった。


開いてみると、片側には彼女の実家の紋章が、もう片側には結界の魔法陣のマークが書かれていた。


「今後、あなたは自分の家の家紋は使えないでしょ?

元皇太子妃候補で、ライバルの私の家紋を持ってるなんて誰も思わないでしょうから」


少しでも逃亡がうまくいくようにと言う気持ちがよく伝わる選別だ。


「ありがとう、じゃあ私は代わりにこの子を」


そう言うと私はカバンの中から、ある物を取り出した。

それを見て、彼女は大慌てでこういった

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