エリンを殺した男①
※作中に、性的、残酷な描写が含まれていますので、ご注意下さい。
――不覚にも過呼吸を起こして倒れてしまった翌日。
【エリンの秘密の日記帳】を発動させた私は、アレンが登場するシーンから読み返していた。
リーリエが神聖力を使ってくれたお陰で、身体の方はすこぶる元気である。……そう。身体の方は。
流石のリーリエの力でも、精神的な問題はどうにもならない。
敬虔な信者であれば、神に祈ることで少しでも楽になるのかもしれないが、日本人だった前世の記憶の影響もあってか、今の私は信仰心が薄い。
神頼みをしても願いは叶わないと、前世で経験しているからだ。
ミアの説明によれば、私が倒れている内に既にアレンは来訪し、客室に滞在してしまっている。
神頼みしている時間があるのなら、この事実を受け止め、どう対処するかを考える方が堅実的だ。
幸いにも、昨日の今日なので、部屋でしっかり休んでいるようにとリーリエ達から言われているので、それに存分に甘えることにする。
アレンが滞在している客室と、エリンの部屋は離れているが、部屋から一歩でも外に出たら、どんな形でバッタリ出会ってしまうか分からない。
それならば出歩かないに越したことはない。
今日はまだしも、明日からはどうするべきか……。
この際、ずっと体調不良だということにしておいて、アレンがいなくなるまで領地内の別荘ででも静かに過ごせたら良いのだけれど……リーリエがいる以上は不可能だ。
『元気になった』とエリンが言うまで、リーリエが神聖力を使い続けてしまう可能性が高いし、リーリエに力を使わせた上に、『実は仮病でした』なんてバレようものならば……ルークが黙ってはいないだろう。
……あーもう、どうしてこんなに早く現れたりしたのよ!!
エリンがアレンと初めて会うのは、三年後の――エリンがアレンの元に嫁がされた時じゃなかったの!?
今の私は十歳で、三年後は十三歳。
十三歳で結婚させられるのも有り得ないが、その年に殺されるなんて、もっと有り得ない……。
思わず机の上に突っ伏した私は、必然的に【エリンの秘密の日記帳】を顔の下に敷いてしまうことになった。
近過ぎて見え難くなった文字をぼんやりと眺めていると、プルプルと微かに日記帳が振動し始めた。
まるで私が枕代わりにしていることが気に入らないとでも、抗議しているようだ。
「ごめん、ごめん」
苦笑いしながら日記帳から顔を上げると、振動はピタリと止まった。
え、本当に抗議だったの……?
つくづく不思議な日記である。
改めて日記帳に視線を落とすと、アレンの元に嫁いだエリンが、酷い扱いを受けている場面だった。
紅茶を入れれば、『不味い』とカップを投げ付けられ、少しでも反抗的な態度を取った時には、殴る蹴るの暴行を受け。腕に火傷を負った時には禄に治療もせずに、ケロイド状になった傷跡を指差しながら『醜い』と、嘲笑った。
エリンの大切な髪をナイフで短く切り、泣き叫びながら逃げるエリンを地下室にまで追い詰めると、怯えるエリンの顔に興奮したアレンによって、無理やりに行為に及ばれた挙げ句、顔以外をナイフで滅多刺しにされてエリンは絶命する。
絶命したエリンの首を切り落としたアレンは、ホルマリンの入った瓶に首を入れ、地下の棚に飾るのだ。
エリンがリーリエにしたことは決して許されることではないが、だからといってエリンがされたことは、十三歳の少女が受けるべき仕打ちではない。
エリンは法の下で裁かれるべきだったのだ。
改めて読むと――加虐的嗜好の持ち主というよりも、エリンに対する並々ならぬ憎しみと、エリンの顔への執着を感じる。
……この世界はモブすら病んでるの!?
小説の中では、アレンの容姿や年齢に特に触れてはおらず、私は勝手なイメージでふた回り以上離れた変態ロリコン男かと思っていた。
それが、ルークと同い年の友達とか……。(ミア情報)
『類は友を呼ぶ』
故に、ヤンデレはヤンデレを呼ぶ。
こんなの、少しも笑えない展開だわ……!(涙)
ルークが二十歳なので、アレンも同じく二十歳ということになる。
エリンが殺される予定の三年後、アレンは二十三歳で……………はい、アウト!
思ったよりもアレンが若かったとしても、十三歳の少女に手を出すのは犯罪で、妹を嫁がせたルークも同罪だ。
例え、この世界の常識が日本とかけ離れていたとしても、私の中の倫理観がそれを許せない。
――余談だが、リーリエは十八歳である。
あー、もう。
小説にはなかったこの展開を私はどうすれば良いの……。
また机の上に突っ伏した私は、日記帳に頰を乗せた。
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