偶然の再会①
「お義姉様……!わ、
「……地面に寝転がって?」
リーリエが困惑した顔で首を傾げる。
一般的な貴族の令嬢は、芝生であったとしても地面には寝転がらない。ましてやエリンは公爵令嬢なのだ。リーリエの困惑は最もである。
「あ、あの、それは……結果。そう!結果ですわ!」
私は急いで起き上がった。
「結果……」
「結果です!」
押し切ればいける!そう確信した私は、笑顔で言い切った。
「……そ、そう。結果なのね」
若干引き気味だったが、リーリエは笑顔の私に押し切られてくれた。優しすぎる彼女は押しに弱いところがある。
「お義姉様はどうしてこちらに?」
数日振りに見たリーリエは、少しやつれているように見えた。――その理由は他でもない。ヤンデレ執着系あたおかルークのせいだ。
可愛くて愛らしいリーリエをこんな風にするなんて――あたおかヤンデレめ!……っと、口が悪くなりましたわ。ふふふ。
「ちょっと、外の空気を吸いたくて」
「なるほど」
数日間も部屋に閉じ込められていたのだ。
外に出たくもなるだろうと、私は内心で何度も大きく頷きながら同意する。
リーリエの周囲へ視線を巡らせると、彼女の側には珍しくルークの姿もなければ、侍女が控えている様子もない。
公爵家の敷地内とはいえ、ここは人も来ないような奥地だ。だからこそ私は魔法を試す場所に選んだのだが、フォレスト公爵家にまだ慣れていないリーリエが一人でいることには多少の不安を感じる。
「お義姉様は、ここまでお一人でいらっしゃったのですか?」
「ええ。一人になりたくて」
リーリエは控えめに微笑んだ。
おかしい……。
例え敷地内だとしても、あのルークがリーリエから目を離すはずがない。ましてや一人切りにするなんて有り得ない。
絶対どこかに見張りがいるはずだ。
ふと空を見上げた私は、上空を旋回する青色の小鳥に気付いた。
……やっぱりいたわね。
アレはルークが魔法で作った水の小鳥だ。
時と場合に応じて蝶にも猫にもスライムにだって変容させることができる。
盗聴機能までは備わっていなかったはずだが、ルークからすれば、水の小鳥の瞳を通してリーリエの行動を監視するだけでも十分なのだろう。
この場面がルークに見られていると思うと、何とも複雑な気分になる。一度気付いてしまったら気になって仕方がない。
気になって仕方がないのは、目の前にいるリーリエにも言えることだ。
リーリエは先ほどからずっと気まずそうな顔で、もじもじと手を合わせている。
……そんな態度になるのも無理はないわね。
初めて出会った時から、
助けてもらったことへのお礼は言ったが、正式な謝罪はしていない。今までの私の失礼な態度が無かったことにはならないのだ。
偶然にも久し振りに会えたのだから、このチャンスを逃さずに仲良くなりたいと思ったが……時期早々だったようだ。
ここは大人しく引き下がるのが得策である。
「お義姉様。改めてお礼とお詫びを申し上げます。先日は助けていただきありがとうございます。そして、今までずっと嫌な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
最大限の敬意を示すために、リーリエに向かってカーテシーをする。
「そして、お兄様とのご婚約おめでとうございます。お二人が幸せになるように、私は陰ながらお祈り申し上げます」
後は静かにこの場面から立ち去るだけ。
顔を上げて微笑むと――リーリエの大きな瞳からボロボロと涙が溢れ出した。
……何で!?
「お、お、お、お義姉様!?」
私と一緒にいることがそんなに泣くほど嫌だったの!?
「お義姉様、申し訳ありません!私はすぐにこの場からいなくなりますので!ね?泣かないで下さい!」
「……っ」
オロオロとしながら宥めようとするが、リーリエの涙は止まらない。
そうこうしている間に、遂には両手で顔を覆って泣き出してしまった。
サーッと全身から血の気が引いていく。
……これ、私の死亡ルート確定じゃ……?
私達の頭上にはルークの放った監視用の水の小鳥が旋回し続けている。
リーリエの泣いている姿が、はっきりと映し出されて、ルークの元に届いているはずだ。
あああ……!どうしてこういう時に限って、盗聴機能が付いていないの!?勿論、普段なら必要ないのだけれど……!
私はただお礼と謝罪を言って、リーリエ達の婚約を祝っただけだ。
素っ気なくあしらっていなければ、嫌味も言ってない。
……死んだ。
前世よりも若くして死んでしまうなんて、私は何て不幸なのだろう。
私は何もかもを諦めた顔で空を見上げた。
焼き鳥にして食べてしまえば、証拠隠滅になるかしら……。
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