エリンの魔法
「フレイ厶バレット!」
「ウォーターバレット!」
「ウインドバレット!」
「サンダー!!」
「アイス!!」
「ヒール!!!」
杖を振りながら、思い付く限りの詠唱をしてみたけれど――結果、全て反応なし。
「……やっぱり使えない」
ゼーゼーと荒い息を吐きながら、その場に座り込んだ私は、両手を広げて芝生の上に仰向けで寝転んだ。
……澄み切った青い空が何とも恨めしい。
流れる雲も、爽やかな風も、何もかもが恨めしくなる。
――兄のルークは水や氷系の魔法を使えるのに、妹のエリンには魔法の適性がなかった。
青葉というイレギュラーな存在が混じったことで、何かしらの変化があると思ったのだが、魔法に影響は及ばさなかったらしい。
残念ながら、これでは魔法チート作戦は実現不可能である。
「そんなに甘くないのね……」
深いため息を吐いた私は、流れる雲をぼんやりと眺めながら手を伸ばした。
この世界においての魔法の源は『魔素』というもので、空気のように当たり前に存在している。
しかし、当たり前のように存在していても、魔素を体内に留めることができなければ、魔法は使えない。
魔法を使えない者は、息を吸った時に魔素を体内に取り入れるが、息を吐き出す時に魔素が体外に放出されてしまうので、体内に魔素を溜めることができない。
それに対し、魔法を使える者の体内には、フィルターのようなものがあり、通常は放出されてしまう魔素を体内に溜め置くことができる。
そうして体内に溜まった魔素が、適合者の血や内蔵といった身体に馴染むことではじめて、魔法を発動させることができるのだ。
属性に関しては詳しく解明されていないが、環境や性格が少なからず影響を及ぼすらしいと、魔法の専門家が言っていた。
魔素を取り込むフィルターを有しているのは人間に限らず、植物や動物の中にもいる。
それらは魔植物や魔獣と呼ばれ、貴重な薬品や素材として重宝される。
この世界において、魔法使いと、魔植物、魔獣は貴重であるが――一歩間違えば最悪な脅威に成りうる存在でもあった。
魔法使い達は、取り込んだ魔素を魔力として体外に放出することで、体内の魔素のバランスを保っている。(魔素を溜め込む量には個人差がある)
だが稀に、何らかの原因によりフィルターの
魔王化したものは皆理性をなくし、この世の全てを破壊したいという衝動に駆られる。
魔法使いが魔王化する可能性があるという情報は、国や人々を混乱させるだけでなく、魔法使い狩りを引き起こし兼ねない。
国防においては、魔法使いが多ければ多いほど国を守る力になる。その戦力を無駄に失うことがないようにと、王が直々に情報統制をかけている。
――情報統制されているはずのことを知っているのは、青葉がゲームの方で情報を得ていたからだ。
世界を蝕む穢れを払うという名目で、定期的に行われる聖なる乙女による『浄化の旅』。
その真の目的は――魔法使いや魔植物、魔獣達が魔王化するのを永遠に消し去ることで未然に防ぐためのものだ。
浄化によって世の中の穢れを救えると思っている聖なる乙女一行は、旅を進める内にそれが叶わないことだと知り、絶望することになる。――魔王化が始まってしまえば、その命を奪うことでしか魔王化を止められないからだ。
ゲームの中では、最終的に一番好感度の高い攻略対象者が魔王化してしまう。それをリーリエが命をかけた愛の力で止め、ハッピーエンドとなる。
因みに、リーリエの力は魔力ではない。
神から賜った力で『神聖力』というものに分類される。
空気中に漂う魔素は、聖なる乙女の体内に取り込まれると、浄化されて神聖力へと変わる。
魔法使いとは違い、身体の中に無限の神聖力を蓄えることのできる聖なる乙女は、神そのものの力にも匹敵する。聖なる乙女は、この世界においてのチート的存在なのだ。
――寝転がったまま、ぼんやりと空を眺めていた私の顔に、ふと影が下りた。
何気なく影ができた方を向いた私は、瞳を大きく見開いた。太陽を背にしながら現れた人物が、私の顔を覗き込むようにしていたからだ。
今の今まで全く気付かなかった私は、ギクリと身体を強張らせた。
「……こんな所で、何をしているのですか?」
――だけど、躊躇いがちに話し掛けてきたその人の声を聞いた瞬間に、強張っていた身体が弛んだ。
私を覗き込んでいたのは、数日振りに見るリーリエだったからだ。
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