2022/12/06 図書室

「残りのテストを赤点とらずにいくには、今日も勉強だ」

 俺がそう宣言すると、図書室に集められた武装集団がこくこくとうなずく。

 その数3人。

 集団の武装は――本。

 一人目、英語の教科書を大事そうに抱えている女の子――飯田。

 二人目、真っ白なノートを抱えている大男――武雄。

 三人目、手ぶらで何も持たずに眠たげな目を擦る――美羽。

 そして俺、教科書や参考書を鞄一杯に入れて席に着く。

「では赤点のとりそうな武雄には頑張ってもらおう」

「いや、普段勉強をしていないのは実沢さねざわも一緒だろ?」

「美羽はなぜか成績がいいんだ。まるで未来視でもできるかのように」

 そう。俺が教えた内容を瞬時に理解するし、基本的な単語や公式などは軽く目を通すだけで覚えられるらしい。

 だからテスト前の休み時間でも十分に高成績を納めてしまう。

 学校の異端児――《ブック・マスター》とは彼女のことをさす。

「あー。だりぃ。勉強して意味あんの?」

「あるわよ」

 飯田が珍しく武雄に近寄る。

「例えば、法学部を出ていると警察に絡まれたとき、対応が違うとか」

「それはいいな! おれ法学部に入る!」

 武雄の進路が決まっちゃったよドバシカメラ。

「それには勉強をたくさんしないとね?」

 飯田の笑みが怖い。

 それを察した武雄もすごむ。

「おう。教えてくれ!」

「そ、そう?」

 飯田は髪をくるくると巻き、ほんのり頬を染める。

「仲良くなって良かったな」

 俺は美羽に小声で話しかける。

「うん。良かった~」

 甘い香りのする美羽にもっと近づきたいと思った。

 もっとこうしておきたい、と。

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