2022/12/04 飯田早苗の家

「明日からテストよ、やるっきゃないでしょ」

 テンション高めの飯田が、武雄を睨む。

「わかった。分かったって。そんな睨むなよ」

 武雄は引きつるような笑みを浮かべ、教科書とにらめっこを始める。

「そこ、テスト範囲じゃないわよ?」

 飯田の指摘はごもっとも、だが……。

「あー。その前に上下逆さだぞ?」

 俺が指摘すると、乾いた笑いを浮かべ武雄は教科書をひっくり返す。

「だー。わかんね!」

 武雄は仰向けになり、床に倒れ込む。

「しかし、飯田の家ってなんかフツーだな」

 武雄がぐるりと周りを見渡し、告げる。

 ローテーブルに座布団、一般文芸の入った本棚、ベッド、ドレッサー。全体的にピンク色でまとまっており、女の子らしくぬいぐるみも並べてある。

「うっさい」

 飯田がぶすっとした顔で睨む。

「ま、まあ。落ち着いて。早苗ちゃん」

 美羽がたはははと乾いた笑みを浮かべる。

「勉強を始めるぞ」

 俺はちゃっちゃと終わらせるために、声を上げる。

「おう。やるぞ」

「むぅ。納得いかないわ」

 飯田は諦めたようにため息をつく。

 勉強を始めると、飯田に教えてもらっている武雄は困ったように対応している。

 勉強嫌いはすぐに直らないらしい。

「美羽はどこが分からないんだい?」

 俺は美羽のノートを見つめると、その髪をはらりと払う彼女。

「ここ。なんで位置エネルギーと運動エネルギーは足すと同じになるの?」

 難しい質問だ。

「まあ、理解よりも覚えるのが大事だな! うん」

 そう言って美羽の頭を撫でると、嬉しそうに頭を寄せてくる。

 明日からテストだ。

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