あたらしいせかい
目を開いたゼロキは意志の無い瞳をしていた。
無垢な無邪気な、ただ慕うだけのやわらかな眼差しは、ない。
レプシナも同じ、
二人は無言で立ち上がり、互いの姿を確認するとゆっくりと手を握った。
そして二人は同時に発声する。
「「アズルは目が醒さめたぞ」」
手をつなぐ二人は、すでに人格を失っていた。
そこに宿るのは、一つの人格。
まさか……。俺は気付く。
三位一体とは、このことを指すのか?
ゼロキとレプシナの仲に分かたれた人格こそが『アズル』で…もともと二つだったのでは、ないか。
じゃあ、ジェードは……?
気がそれる。その一瞬の隙に、手を繋いだ二人が俺の前に立っていた。
その威圧に、俺は息をのむ。
「「アズルはやめるために眠ったのに、なんで
大きくなっても分かるぞ、お前は『父さん』と一緒にいた奴だ」」
困惑して言葉につまる。と、横から泣きそうな顔で立ち上がったウォル。
「アズル…僕が、喚んだんだ」
力ない声で、ウォルはアズルを動かそうとしていた。改革という戦争の為に。
「お願いだ、アズル…僕と一緒に戦ってくれ」
辛いんだろう、絞りだすような声をしている。
もっと他の解決策はなかったのだろうか。
俺がもっと早くにウォルと会っていたら、一緒に救えただろうか。
都会のラボにいたときに会っていれば…、
俺が家を出なければ、
ウォルを救えただろうか。
レプシナが、…ゼロキが、悲しまずにいられたろうか。
「「どーしたんだ、おとうと。おとうとのほうが、あの時のこいつみたいな目をしてるぞ」」
アズルは驚いたような口調で、ウォルの方に二人で向き合う。
彼の悲痛そうな表情を読み取り、レプシナだった機械から、涙が流れた。
「「人殺しはあんまり好きじゃないけど、アズルのできることがそれなら…」」
俺は、叫んだ。
「やめろ、レプシナ!!
そんなこと、こいつにさせたら死んじまうぞ!
一号、戻ってこい…もう殺すな…!」
涙を流す二つの機械人形。瞳は空のままだが、奥底に残るプログラムが僅かに反応してるのかもしれない。
でも。
「「…命令は
アズルに拒否はないぞ」」
アズルとなった二つは、涙を流したまま答える。
手遅れだった。もはや俺の言葉も届かない。
もう二つを繋ぎ止めていた物は、失われてしまった。
俺は膝をつき、床を拳で殴る。力なく。
もう、だめだ……。
「命令は拒否しない、か…やっぱり『アズル』らしいな」
絶望に満ちた瞬間、ジェードの言葉が響く。
今までいるのかいないのかも分からないくらい、存在が希薄だったのに。アズルもようやくジェードに気付いたようだ。
「「なんだ、お前は」」
「嘘ついて潜り込んだ甲斐があったよ。
『あの人』に気付かれる前に…あ、接触しないとダメなんだっけか。
とりあえず、よろしく」
さっと右手を出すジェードに、二人は一瞬沈黙し、それぞれ右手と左手を…
「…………ち、だめか」
さ、と俺の前に『赤い何か』が現れた。
「なぜ歴史に干渉した、ジェード。
もうここまできてしまったら、修正は効かない。
もう一度、やり直す」
目が覚める。
天には星が上がっていた。
俺は眠っていたのか。
「兄さん」
誰かが横に寝転がっていた。俺と同じように。
知っているような、泣き顔だった。でも初めて見るような心地もした。
そいつは少し驚いたようにしばらく黙っていた。ただ見つめ会うだけの時間が流れる。
誰なんだろう…でも、『今度こそ』こいつの言葉を聞かなきゃ…と、どうしてか感じる。
そして意を決したように、そいつは言った。
「…どこにもいかないで」
だから俺は言った。
「俺はお前の味方だ…」
起き上がり、俺たちは手を繋ぎ合う。
不思議と懐かしい感じがした。どこかで見た光景みたいに、感じた。
後々、荒廃した都市を別々の分野で救う三人の研究者が現れる。
一人はしばらくして外国に拠点を移すが、二人の兄弟はそのまま都市に貢献した。
お互いに似せた、幼い機械人形と暮らしながら……
ちなみに後日談。
「またですか…『緑の傍観者』には苦労しますね」
「上は後始末で大変だそうだ。
まったく…シヴァ様の歴史を歪めて何が楽しいんだか」
ジェードはしばらく謹慎処分に処されましたとさ。
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