エピローグ
気がつくと、そこはベッドの中だった。隣にはパフィーラがいつも通りに無垢な顔をして眠っている。
ジャムも今まで眠っていたらしく、まぶたがうまく開かない。
(あれ? 俺……)
ついさっきまでパフィーラ主催のサバイバルゲームをやっていなかったか?
いつ、部屋に戻って来たのだろう。
(夢だったのか……?)
ぼーっとそう考え、あぁそうかもなと納得する。そもそもジャムは、ケツァールと酒場にいたはずだ。なのに瞬きの間に総合病院の地下に移動していたなんてあり得ない。
しかしそもそもそれが夢だったとしたら? 場所が一瞬にして変わるのは、夢ではむしろ自然なことですらある。
そして、ゲームクリアしたらベッドの中。つまり目が覚めたということだ。
「なんだそっかー」
ふわあぁぁとあくびをして、壁かけ時計に視線をやる。
午前七時三十分。朝だ。やはり夢だったらしい。
(総合病院の地下かぁ)
総合病院はジャムの住む集合住宅のすぐ向かいである。
一応念のため。ベッドからそっと抜け出し、総合病院の見える窓辺へと歩く。もちろんその前にパフィーラに布団をきちんと被せてやることも忘れない。
朝の光がまぶしい。
総合病院は今日もやはり部屋の前に建っている。その病院の出入り口を見下ろしジャムは絶句した。
そこには多勢の治安警備隊がいて、忙しそうに立ちまわっていたからだ。
まさかとは思うが、まさかとは思うがあのサバイバルゲームは……。
(マジだったのかっ⁉︎)
本当に<黒蝶>という組織があの地下にいて、都に違法麻薬をバラまいていたのか⁉︎
その組織をサバイバルゲームにかこつけて潰させた? だから命がかかっていたのか?
そう言えば違法麻薬は実際に都に出回っていて、何人かは診たとケツァールが言っていた気がする。
やはり本当のことなのだろうか。それともケツァールの言ってたことも夢?
「ははっ、まさかね……」
そうだ、こんな夢みたいなことがあるわけない。これは、そう、寝ぼけていて治安警備隊の幻覚を見てしまったにすぎないのだ。
さっと視線を窓の外からそらす。
「いやぁ昨日の夢、よっぽどインパクトあったんだなぁ〜こんな幻覚見るなんて……。っていうかそーだよなぁー、インパクト強かったよな。 ハッキリ覚えてるもんなぁ」
ブツブツ、ブツブツ。
「あんな幻覚見るなんてきっと睡眠が足りてないんだな、俺……。いや、きっとそうだよなははははは……」
引きつった笑みをうかべて、ジャムはベッドへと引き返した。そこには相変わらず愛らしい子どもの顔でパフィーラが眠っている。
眠っているところは、あどけなく年相応の幼さが感じられる。その姿に笑みが浮かんだ。
「寝よ……」
再び、ジャムはパフィーラの隣にもぐり込み、彼女の方を向いて丸まった。
こつんとお互いの額が軽くふれ合う。
やがて、二人分の寝息が重なった。
朝の光が窓から降りそそぐ中、パフィーラとジャムは眠る。
二人の朝は、まだ長い。
【第四話 幻想遊戯 完】
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