4. 地下四階〜五階 雰囲気大事!
「この向こうですかぁ?」
「嘘をつかれたんでなければね」
またしてもバズーカを構えてパフィーラが頷く。ただし、今度の目標は壁だった。少し開けている場所から狙いを定めている。
その壁の向こう——いや、正しくは壁二枚向こうにあるのは自動昇降機だ。
先ほどのバズーカでやられた男を一人起こし、バズーカを突きつけながら笑顔で丁寧に話を聞いたのだ。おかげで麻薬のありかとボスの居場所、自動昇降機の位置をつかめた。
「ちょっと胡蝶、バズーカの威力上げたんだからちゃんと障壁張ってんのよ?」
「はぁい、オーケーです」
胡蝶の魔術の腕は知っているが、そこはかとなく不安な気持ちになるのは彼女の性格のせいだろうか。
「んじゃ、行くわよぉー」
軽く言って、再びトリガーを引く。
一瞬あとには、壁に大穴が
「ほええ〜。すごいです」
「まぁね。さ、行ってみましょ」
大穴から中へと入る。中へ入ると狭い部屋だ。その部屋の壁も、ある程度は貫通し向こう側が見えている。
「ああ、これね」
その穴からは自動昇降機が見えている。
それは簡単にに言うと鉄板だった。四方をコンクリートにかこまれた空間に、鉄板が横向きにはめ込まれているような感じである。
その鉄板の上になにやら機械らしきものが乗っている。おそらくあれで操作するのだろう。
「壁壊しちゃいます?」
「そーね」
「はーい、じゃあやるですよー!」
にへっとした笑みを浮かべた胡蝶が崩れかけた壁に手のひらを向けた。途端に、手のひらから炎が吹き出し壁へと向かった。
炎に衝撃があるのか、はたまた高温のためか。壁はあっけなく壊れ、向こうへ出入り可能な穴が開く。
熱を取るためか辺りを霜で覆い出した胡蝶に、そこは冷静なんだなと変な感心をしてしまう。
彼女の中では、早くからサバイバルゲームというのは普通に魔法も使ってよしの認識に変わったようだ。それを突っ込むのも面倒なので黙っておく。障壁がなくては自分も汚れてしまうからまあ、いいだろう。そもそも彼女はもう丸腰だ。
「んもぅー、内側に壊したから瓦礫だらけー」
自動昇降機に乗りつつぼやく。瓦礫のせいで足元が不安定だ。
後ろから、こちらは空中に浮かんでいて不安定もなにもない胡蝶がやってくる。
「ああっ、発見ですよ! 扉です」
胡蝶は自動昇降機に乗るなり、右を指差した。そこには、この自動昇降機に乗るためだろう扉が設置されている。
「そりゃあ、扉がなきゃ作った意味もないでしょうけど」
「ですよねえ。壊さなくても良かったかも……」
「いーのいーの。さ、下行くわよっ。こういうのは雰囲気だから」
適当にそう言って、四角い機械の上に並ぶボタンをプッシュする。
ガゴン。ガ、ガガーッ。
少々情けない音を出しつつ、二人を乗せた自動昇降機は下へと降りはじめた。
「なんか古臭いですね?」
「人ってより荷物用とかなのかしらねー」
遺伝子工学などを扱っているなら、もっと立派な自動昇降機が別にありそうなものだ。秘密裏に作ったから大ががりな設備は作れなかったのかもしれない。
やがて自動昇降機が止まる。地下五階だ。
右手に四階と同じく扉がある。
「ん……胡蝶、ここを出て左に進んで、途中の横道は無視して突き当たりをまた左に行って。そこにジャムとケツァールがいると思うわ」
「はーい!」
魔法が世にあふれていた時代の人間なだけあって、胡蝶はパフィーラの能力にあまり疑問を持たない。そこが胡蝶のいいところだ。なにも考えていないだけかもしれないが。
ジャムとケツァールは少し苦戦している様子だ。助け舟を出した方が良いだろう。
「わたしはちょっと寄り道するから。二人と合流したら地下六階へ降りなさい。よろしくね」
「パフィーラさんは行かないですか?」
「ドレス汚れちゃうから任せるわ」
「なるほど!」
さっきまでバズーカを派手にぶちかましていた事はもう忘れたらしい。
やはり、胡蝶はなにも考えていないだけのようだ。
「じゃあ、出陣するですッ」
なぜか威勢のいい敬礼を決めた胡蝶は、扉を勢いよく開けて右へと曲がった。
「胡蝶! 左だってば‼︎」
「ひょう!」
よく分からない奇声を発し、胡蝶が引き返して左へと浮かびながら消える。
「あの子大丈夫かしら」
自分の外見は高い棚に上げた。そんなことよりも、こちらはこちらでやる事がある。
瓦礫まみれの自動昇降機から降り、右手へと向かう。
ゲームの参加者とは一旦別れたのだから、もういいかとバズーカをぽいと捨てた。
そのまま複雑な通路を迷いもなく進む。遠くから聞こえる爆発音はジャム達だろう。そちらに人員が割かれているのは幸いだ。
「おいそこの子ども! どこから来た!」
「さぁね〜」
背後からかかった野太い声にふり返り、そこにいた男にべえっと舌を出す。
拳銃を構えていたその男は、そのまま固まってしまった。
「あら、動けなくなっちゃった? 心配しないで、三分後に解いてあげるわね♡」
にっこりして投げキッス。
顔色が変わった男にひらひらと手をふって先を急ぐ。
やがてたどり着いたのはなんの変哲もない扉の前。
一応ノックをしたものの、返事を待つことなく扉を開く。
部屋の中は薄暗い。その中に光を放つガラス状の板が複数設置されている。よく見るとその板には、ジャム達の姿が映し出されている。
そしてその板——モニターの前には一人の若い男がいた。外見的な年齢は二十代後半といったところだろうか。
ほおが少々こけていて、角張った頬骨が目立つ。無造作に伸びた褐色の癖っ毛は、それでも不潔感などはない。その中に埋もれるようにして二つの瞳が仄暗く輝いている。
全体的に細くひょろっとしているが背筋は伸びていて、妙な威圧感を放っている。
「ハァーイ」
「お嬢さんを呼んだ覚えはないが」
「でもそれで見てたでしょ?」
パフィーラがモニターを指差すと、男の口が歪む。どうやら笑ったようだった。
「魔石を上手く使ってるのね。外の世界じゃまだオーバーテクノロジーよ」
「褒めてもらってるなら嬉しいね」
「その技術を外に広めようとか思わないの?」
「愚かな者どもは賢くない頭を絞って国取りごっこでもしていればいい」
その辛辣な言い方に苦笑する。
「まあその考えは今はどうでもいいわ。あなたここのセキュリティ扱えるでしょ。全部切ってここから消えてくれる?」
「なぜだ」
男が口を歪めた瞬間、暗がりの中から一筋の光線がパフィーラを撃ち抜いた。
否、撃ち抜いたと思われたのに、パフィーラは無傷だった。それに男が少しだけ驚きの表情を浮かべる。
「そんなものでわたしを傷つけられるとでも?」
「ふむ。魔法か? お前は神子だな?」
「まぁそんなモンよ」
頷いてにやりと笑う。
「言っとくけどあんたに拒否権はないわ。魔法で操るなんてわけないのにわざわざ頼んであげてるのよ」
「傲慢な子どもは嫌いだ」
「嫌いで結構よ。で、どうなの? ずっと見てたなら拒否出来ないと思うけど?」
「そうだな……あんな餌を見せられてはね……」
男の口角が上がる。
そうだ、彼がパフィーラのことを信じようが信じまいが、彼はきっと言う通りにしてくれるだろう。その理由が彼にはある。
「だが、こちらも命懸けでね。組織への裏切り行為はリスクが大きい」
「あんたが今後わたしたちに敵対しない限り、命は保証するわ。その程度のことわたしにはワケないわよ。あんたがどこにいてもわかる。わたしからは逃げられないわよ」
「敵対しないかは約束しかねるな。目の前に餌を撒いたのはお嬢さんだ」
「その時は命を捨てることね。とにかく今はここから消えて。あんたがここにいると都合が悪いの」
今はまだその時ではない。
「もうあと一刻くらいで治安警備隊が踏み込むからそれまでに出てちょうだい」
「なるほど、そのためのセキュリティの無効化か」
「わかったらさっさとやってどこかへ行って」
心底邪険そうにそう言ったパフィーラに、男はおかしそうに笑った。その中に多少の嘲りが混ざっていることに苛立つ。
「またいずれ会おう。私はサエバ」
「わたしはパフィーラよ。二度と会わなくて良いことを祈ってるわ」
言いたいことは伝えた。だからこの男にはもう用がない。
さっと背を向けると、片手でひらひらと手を振りながら部屋を出る。
ひとまずは、これでいい。あの男の存在がここから消えて会わないで済むならそれが一番だ。
サエバは信じただろうか、パフィーラのはったりを。パフィーラから逃げることは出来ない。それは間違いのないこと。だが、パフィーラは万能ではないのだ。出来ないこともある。
「ま、いいわ」
どちらでもいい。今がなんとかなればチャンスはある。それよりもこのサバイバルゲームを早く終わらせよう。
背後で控えめな爆破音がした。サエバがさっきの部屋を破壊しているらしい。技術は外に出さないつもりなのだろう。それはそれで構わない。世界の技術力がどうなろうと知ったことではないのはパフィーラだって同じだ。
それよりも、自分のやることをやらなければ。
「ジャム、今行くわよ!」
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