1. 地下三階(1)突然の銃撃戦⁉︎
通路のド真ん中。ケツァールとジャムは十人はいそうな人数の敵と対峙していた。
相手は実弾を次々と撃ち込んで来ている。その敵に対して、自動小銃をぶっぱなしているのはケツァールだ。
「ほほう。これがカービン銃というやつですか」
しみじみとした口調でそんなことを言う彼に敵の実弾が一発も当たらないのは、彼が正義の味方だからなどでは決してない。ジャムの力が障壁を作りケツァールを守っているのだ。ゆえに、弾は全てケツァールに当たる前にはじかれ、まわりの壁に穴をうがっている。
そしてそのケツァールを守っているジャムはといえば、彼の背に隠れていた。
多少情けない姿だが自分を守る能力が皆無なのだからこれもまた致し方ない。誰だってわざわざ自ら危険には飛びこみたくなどないだろう。
「なんだよそれっ⁉︎」
「ぎゃあっ」
「うっ!!」
次々と敵が倒れてゆくのを背後からうかがいつつ、ジャムは声を張り上げる。心の中で敵に謝り倒しながら。
「なにがです?」
「その、カービン銃ってやつ!」
「ああ。知らないんですか? カービン銃っていうのは自動小銃のことですよ」
「知らない知らない知らないっ。っていうかなんでケツァール知ってるんだよっ⁉︎」
銃の使い方は知らないとさっき言っていなかったか⁉︎
「たまにそういう人を診ることもあります」
「……え?」
銃創を診る?
そういうのは平和なこの国では皆無なのかと思っていた。だが、セレンの件もある。そして今現に銃撃戦をしている。もしかしたらジャムが知らないだけなのかもしれない。
治安警備隊だって銃剣で武装しているではないか。
「お話した事がありませんでしたか?」
「ないない」
「おや、それは失礼しました」
そう謝りながら、ケツァールは自動小銃を床に捨てた。ケツァールの両手が肩ごしに後ろに伸ばされる。
「ケツァールなにやって——ぐふっ」
そのジャムのうめき声は、彼のあごにバズーカがヒットしたせいだ。
ケツァールは背に担いでいたバズーカを、てこの原理で肩上に引き上げたのだ。その動きが突然すぎて、すぐ後ろにいたジャムは避けきれなかったのだ。
「おや? すみません、ジャム。後で診てあげます」
ふり返りもせずに、ケツァール。その指がトリガーにかかり————。
バァァン。
「うわっ、バカっ‼︎」
腹にこもるような轟音とともにパフィーラの魔力の塊が飛び、その衝撃でケツァールの身体が後ろに吹っ飛んだ。
もちろん、その被害を受けたのはジャムである。吹っ飛んだケツァールのクッションとして床に潰されてしまったのだから。
「い、いた……重ぃいいっ」
「意外と衝撃があるものなのですね。下半身に重心を起きつつも上半身の力も必要だ」
「いっ、いいからどけっ、早くどけよっ。重い、痛いっ‼︎」
ケツァールの身長は百八十センチ以上ある。ジャムと比べると二十センチほどは大きいだろうか。その分、体重もそれなりである。
「ん? ああ、すみません。大丈夫ですか?」
そう言ってケツァールがジャムを助け起こした頃には、もう通路は静まり返っていた。先ほどのバズーカの一撃が効いたらしい。
バズーカの威力はあんなにあるのだろうかという微かな疑問は考えなかったことにする。
「いたた……大丈夫じゃないけど大丈夫……」
そう返したジャムは、あごばかりでなく右ほおまで真っ赤になっている。怒りや羞恥心のためではない。それも少しはあったかもしれなかったが、その大部分はぶつけた衝撃のためだった。
「どれどれ。ちょっと見せて下さい。ふむ、大丈夫でしょう。大したことはありません」
見事にバズーカがヒットしたあごに手を触れ、彼は頷いた。
対するジャムの方は涙目だ。
「そうかもしんねぇけど。痛かった……」
「それはすみませんでした」
しれっとそう言ってケツァールはバズーカを背負いなおし、自動小銃を拾う。
「さ、行きましょうか」
そう言ってスタスタと歩き出してしまうケツァールにジャムもしぶしぶ従う。静かになった敵の皆さんを乗り越え、左手に伸びる通路は無視して直進。
「ジャム。ここ、入ってみましょう」
「楽しんでるだろ……」
「おや、そう見えますか?」
眉一つ動かさない友人にため息。本日四度目である。
「見えるよ。まぁいいや、行こう」
どの部屋になにがあるのかわからないのだから、入って調べる必要はあるだろう。
「じゃ、開けるよ」
「どうぞ」
片手に自動小銃をかまえて、扉の左右の壁に身をよせる。そして、そうっとドアノブに手を伸ばした。
静かに回して、一気に開く。銃口を先にして部屋へと一歩踏み出すも、中は無人だ。
「ふう。誰もいないな。よかった」
小さな部屋だが、中はかなりごちゃごちゃしている。入ってすぐ向かいと右手に机。その上にはなにかの書類が散らばっている。その他の空間にはファイルやら書類やら本のつまった本棚やダンボール箱などが所狭しと並べられている。そして、右手前方にはまたしても扉。
「ケツァール、あそこの扉も開けるぞ。ケツァール?」
反応なし。
「なぁケツァール」
そのケツァールは、散らかった机の上の書類に釘付けになっている。
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