002 妖刀と会話するですか?

せっかく秀頴と2人でいるというのに個室とはいえ屯所だし、絶対誰かが俺達の様子を伺ってるだろからイチャイチャも出来ないのは残念だ。


そう思ってるのは俺だけの様で秀頴は目の前にある大好物に目移りして話どころではないらしい。


「宗さん、この味付けいいねぇ。やっぱりさ京の料理はどことなく品があっていいやね。」


確かに秀頴の好みのものばかりを選んでいるから仕方ないけどさ、

ちったぁすこしは俺の心配でもしろってんだ!

すっかり妖刀の話はぶっ飛んで料理の話が続いている。

酒も進んでいるようで時々言葉の呂律ろれつが回ってない。

こりゃ知らない間に、そうとう飲んでるな…。


たしか秀頴が観察するって話じゃなかったか?

もしこのスキに俺が妖刀に乗っ取られて辻斬りに行ったらどうすつもりだよ。


「アナタは妖刀伝説をどうとらえてますか?」


おぃおぃ秀頴。酔っぱらって口調までおかしくなってるじゃねぇか…。

せっかくだしな、妖刀について話すのもまぁいいか。


「村正は徳川に仇なす刀だと思いますか?」


仇なすも何もさぁ刀だろ?

刀が1人で歩いて徳川家を探して斬りに行けないだろうさ。

結局は持ち主の問題だろう。

それに村正は一振だけじゃないし、短刀も脇差も含めたら村正は山ほどあるだろ。

それが持ち主なしで徳川向かって攻めるなら武士なんざいらねぇだろう。


「妖刀ではないと?」


妖刀にしてしまったのは人間だろ。刀に罪はないさ。


「優しいですねぇ」


優しいも何もさ本当に妖刀だったとしても、その妖気に飲み込まれるようなら剣術使いとしては修行が足らねぇんだよ。


「では妖刀と言われる所以は何でしょうか。」


あぁそれか。ちっと確認しなきゃ分からないねぇ。

目線を落としてさっきから置いたままになってる村正を掴んだ。


「抜きますか?」


そりゃさ抜いてみないと本当の姿は見えないさ。

刀に触れてみると手にしっとりつすいつく。鯉口を切って刀身全体を見る。


こりゃ間違いなく人をとりこにする妖刀だ!


「人を斬りたくさせる刀ですか?」


いや、さすがにそれはないけどさ。

この刀身と地文の美しさを見たら、どれほど切れる刀なのか試したくなるのは間違いない!

そういう意味では人を魅了する妖刀の名にふさわしい逸品だね。


「あら、ありがと。アナタいい人ですねぇ。」


いやさ、礼を言われることじゃねぇけどさ、魅入られたと言っても納得の美しさだぁねぇ。


「もう本当にいい人なんだから~。ささ、もっと飲んで飲んで!」


京に来て鬼と呼ばれることはあっても「いい人」と言われることに慣れないから照れるねぇ。

こうなったら照れ隠しに飲むしかないよなぁ。でもこの空間は居心地いい。

今宵は酒のまわりが早くなりそうだな。


「村正を自分のものにして斬りたいですか?」


あ~どんな切れ味なのか試してみたいのはあるけど何の罪もない人を斬る気はないよ。


「斬りたい相手ならいいんですか?」


斬りたい相手かぁ…。まぁいないわけでもないけど、個人的に斬りたい奴。1人いるなぁ。

一生…いや死んでも許さねえ。あいつなら斬ってもいいなぁ。

いかん、今日は酒がまわってきて余計なこと言ってるなぁ。


「その人を探して斬りますか?ワタシが …ト…ヌギマショウカ?」


ん?いやここで脱がれてもさ…。


「そうではなくて、ヒトハダヌギマショウカ?」


脱ぐ?あぁ人を斬りに行くことか…。でもなぁ今は元の鞘に収まったしもういいさね。

それにさ、俺が人を斬ってしまうことで、こんなに良い刀を妖刀とは言わせたくないなぁ。


「もういいのですか?」


あぁもう誰にも邪魔されない様になったしな。

ほらその相手がここに…

えっ… あれっ?今まで話てたのは秀頴じゃなかったのか?

秀頴!秀頴!!本当に寝てやがる…

じゃ今こうして話をしてるのは だ…れ…?


「ふふふっ。ひ・み・つです!」


その声を聞いてしばらく後、いつのまにか俺は深い眠りについた様だった。

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