妖刀伝説ってあり?なし?

001 妖刀がやってきた。おぃおぃ…

ここに一振の刀がある。ん…ある。確かにあるんだが…。

業物だ。それがタダで手に入ったんだからいいとするべきか?


「宗さん、刀を睨んで四半刻30分ほど経ってるけど、どうしたのさ。」

「ん?ん… あ…刀ね、それだよなぁ…」

「触っていい?」


横から刀に手を出そうとしたのは秀頴ひでさと

俺の想い人。新選組よりも遥かに身分は上のお旗本。そして試衛館しえいかんなんざ比較にならない江戸で有名な四大道場の次期跡取りの予定。

名を伊庭八郎秀頴いばはちろうひでさとという。俺にとって全てが理想の美丈夫イケメン


「ん~秀頴今日もキレイだねぇ」

「もう!宗さん、それはいいから!この刀触っていい?」

「あーーーっ!それに触るな!」

「なんでさ?」

「そいつぁ妖刀・村正だ!」

「へっ?徳川家に災いを招く、いわくつきの刀じゃないか。」

「そうなんだ、、、」

「それが何で宗さんのところにあるの?」


倒幕を企てる連中が好んで求めていると言われてる村正。そんな刀が新選組にあるんだから秀頴の疑問も当然だよねぇ。


「そのことなんだけど、まぁ話を聞いてくれよ。」


それは半刻一時間ほど前、久しぶりに歳さんの自室に呼ばれた。

自室だからちょっとした内緒話かと思って気楽に襖をあけたら、

見廻組みまわりぐみの今井さんがいるし。

それも、物凄く真剣な顔してて驚いたね。


真顔で刀を差し出してさ

「沖田君、すまないがこの刀預かって貰えまいか?」って言うんだ。いきなり意味のわからねぇ話で返事できないでいたら、今度は歳さんが説明しはじめてさ…。


どうやら見廻組のすっとこどっこいが斬り結んだ後、何を思ったか現場に残ってた刀を持ち帰ったらしくて、それから様子がおかしいんだと。


その刀を持って夜な夜な歩きまわる様になったんだって。

幸い人を斬ることはなかったみたいだけど、徘徊しながら

「ヒト、ギ…」いって意味不明な言葉を呟いてるんだってさ。

その行動の原因が妖刀・村正らしいんだよ。


「村正って徳川家に災いをもたらす不吉な刀なんじゃないの?

それをどうして宗さんに?」


それだよ。そこなんだよ。村正は妖刀って言われてるよね。

まだ銘は見てないけど今井さんが村正だって言ってたから確かだと思うよ。

まず徳川家にとって不吉な刀かどうかは置いといて、

今井さんと歳さんが俺に預ける理由…

その言いぐさが呆れる。


今井さん曰く

「新選組なら夜な夜な人斬りに出ててもおかしくない。まして沖田君なら皆が納得するだろう。」


歳さんに至っては

「総司は昔から妙なものに縁があるから、きっとお前のところに来たかったんじゃないのか。」

だとさ。


要するに今井さんは厄介なことを新選組に押し付けて、歳さんは言いやすい俺に振ったってところか。

さすがにさ、素直に受け取るのが腹立たしいから今井さんにカマかけてみたんだ。


「で、佐々木は刀を手放したら元に戻ったんですか?」

「あぁそうなんだ、いつもの佐々木… ん…? なぜ佐々木と分かった?」

「そんなことする すっとこどっこいは佐々木以外いないでしょ。」

「総司!失礼だろ」

「歳さん… 佐々木には散々っぱら迷惑かけられてんだから仕方ねぇよ。」


今井さんに刀を持ち帰った時の佐々木の様子を聞いたんだけど、

あの野郎 全然覚えてないんだとさ。


「辻斬りしようとしたのも覚えてないの?」


そうみたいだな。


「でもさ、そんな刀を宗さんに押し付けて、もし宗さんが辻斬りになったらどうしてくれるのさ?」


そこで秀頴の登場だよ。


「へ?おいら?」


そうそう。もし俺が夜中に目が覚めても秀頴がいりゃ行こうとしないだろうし、

いざとなったら秀頴が止めてくれると踏んでるわけさ、歳さんはね。


「それでいきなり呼ばれたのか。」


そういうことだ。だから今日は寝ずの番してくれよ。


「えっ?宗さんも起きてるんでしょ?」


そのつもりだが、相手は妖刀だからね。

妖力で眠らされて操られるかもしれないから、頼むわ。


「頼むってさ…。それなら、それなりの準備が必要なんじゃないの?」


秀頴が来ると知った時から、そうくると思って秀頴の好きな料理と酒、さらに秀頴が大好物の菓子も準備しておいた。

襖をあけて用意されたものを見ると秀頴はとびきりの笑顔で俺の方を振り向いて言った。


「承知!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る