第121話:変わる環境3

「ほ、本当に大丈夫なんですか? 兄貴」

「俺達、神痕もないんですよ?」

「そんなの誰だって同じだ。俺とサズがいるんだから少しは安心しろ」

 

 現在、俺は裏世界樹ダンジョンの地下一階にいる。一緒にいるのは俺とゴウラ、それと仲間二人だ 思う所あって、指名で依頼を出して、受けてもらった。イーファは留守番だ。職員二人がギルドに不在というのはまずい。


「装備をつけるのも久しぶりだな。精霊魔法はよく使ってるけど」


 浮かんでいる光の精霊を見上げる。浮かび上がる景色は普通の洞窟だ。入口付近に広場があるのが特徴だけれど、今の所をそれを上手く利用するすべは思いついていない。

 ゴウラの仲間二人は怯えている。これまで、一階の入口広場まで荷物を届けに来たことがあるくらいで、本格的なダンジョン探索は初めてだからだ。


「目的地は植物部屋。そこでの採取と、俺の調査に付き合って欲しい。採取品はギルドでしっかり換金するんで」

「おう。期待してるぜ。せっかくだから、この二人にもダンジョンを体験して貰わないとな」

「いやでも、ここで裏世界樹なんでしょう? 俺達じゃ足手まといにならないか?」


 ゴウラの仲間、小さいほうが怯えながら聞いてきた。


「地下一階なら神痕無しの冒険者でも大丈夫。そのようにギルドで判断していますから。それに二人共、冒険者としての戦闘経験はしっかりあるから、声をかけたんだ」

「ゴブリンみたいな獲物なら何度も相手にしてるだろ。それに、去年は魔物討伐も参加してた」

「俺らはそれほど役立ってませんけどね」


 ゴウラの仲間、大きいほうが卑屈な感じで言った。身近に神痕持ちのゴウラやイーファがいるからか、必要以上に警戒しているな。それに自分を過小評価している。

 出会いこそゴブリンに苦戦していたけれど、彼らだって全く駄目なわけじゃない。落ち着いて戦えれば、地下一階での採取位はこなせると俺は踏んでいる。


「とりあえず、行ってみよう」


 今日の装備は遺産装備の盾と普通の剣だ。精霊の矢は流石にない。一応、いくつか材料を王都で貰ってはあるけど、温存だ。


 前を俺とゴウラ、後ろを二人という隊列で洞窟内を進む。光に照らされて岩や地面が現れる様子は、実に冒険者らしい景色だ。不安と恐怖、少しの高揚感。いつだってそれが一緒だった。


「俺も初めて来たんだが、静かなもんだな」

「今日は二つのパーティーが地下二階に潜っているからな。見かけた魔物は倒してくれてるはずだ」


 ジリオラ達は地下二階の攻略中だ。こちらは慎重に進めてもらう方針を継続中だ。


「二階か、そっちは厳しそうなのか?」

「そうだな……ちょっと硬い魔物と待ち伏せが……」


 話そうとしたところで立ち止まる。通路の先に違和感がある。『発見者』が反応した。現在地は植物部屋までもう少しなはず。何もないはずだけど、何かある気がする。


「…………」


 ゴウラが無言で大剣を抜くと、仲間二人もそれに続いた。俺も剣と盾を構える。


「何がいる?」

「わからない。でも、出るのは小動物系の魔物のはず」


 光の精霊を先行させると、ぬっと、いくつかの影が現れた。

 膝くらいまでの大きさのあるネズミっぽいの魔物と、尖った爪が目立つウサギ。数はネズミが三匹。兎が二匹だ。どちらも濁った赤い目が不気味に輝き、可愛らしさを感じない。

 かつて世界樹でも目撃されていた魔物、ラウドマウスとスラッシュラビだ。まとまって出てくるのはちょっと珍しいな。 


「ほら、小さい魔物だ」

「どこがだ! あんなでかい兎とネズミ初めてみたぞ!」

「きょ、凶悪そうな面構えしてやがる……」


 ゴウラはともかく、他二人共びっくりしている。外で遭遇するゴブリンの方が組織的に動くから危険なくらいなんだが。初のダンジョンで雰囲気に飲まれてるな。


「二人とも落ち着け! 大丈夫だ。しっかり対処すれば負けやしねぇ。サズの援護をあてにしろ」

「わ、わかりました!」

「お、おう。やってやる」


 一喝を受けて表情が変わった。やれそうだな。魔物たちは様子見。だが、見逃してくれる雰囲気はない。


「チッ。生意気にも様子見してんじゃねぇ!」


 ゴウラが大剣を掲げると魔物が動こうとした。

 その瞬間を逃さない。


「土の精霊よ! 動きを阻害してくれ!」


 精霊魔法が発動。魔物たちの足元が陥没して転ばせにかかる。


「跳ねやがった! 兎は任せた!」


 マウス達は上手くはまったけど、ラビットは上手く反応して飛んだ。一匹は後ろ、一匹は俺を狙っている。

 跳躍した勢いそのまま、鋭い爪が正面から来る。


「遅い!」


 『発見者』は発動している。俺は攻撃を躱しつつ、空中にいるうちに遺産装備の盾で叩き落とす。

 そのまま地面に落ちたラビットへ剣を突き刺す。手応えはあったけれど、一撃とはいえない。ラビットはしぶとく後ろに下がった。


「うわぁああ!」


 追撃しようしたら、後ろの二人が苦戦しているのが目に入った。二人がかりで動き回るラビットに苦戦している。いや、マウスも一匹来ているな。間をすり抜けてきたか。


「風の精霊よ! 刃で切り裂け!」


 一瞬だけ、洞窟内に風が吹く。それらが合わさり、鋭い風の刃が二人の周りを動く魔物をちょっとだけ切り裂いた。洞窟型ダンジョンだとあまり力を発揮できないが、牽制には十分だ。


「今だ! 硬い相手じゃないから傷つければ倒しやすくなる!」

「おう!」

「く、この!」



 二人が反応して、斧と槍、それぞれの武器で魔物を攻撃する。少し落ち着いたのか、ちゃんと当たってる。

 今度は振り返りゴウラの方を見る。


「うおおおおお!」


 そこには大剣を高速で振り回すゴウラがいた。まるで、嵐のような剣の振りだ。それに巻き込まれたマウスが一匹、既に事切れている。

 ゴウラの神痕『加速』によるものだ。その力で、大剣を木の棒のように振り回すことが出来る。出会った頃は上手く使いこなせてないと言う話だったけど、この一年で大分慣れたみたいだ。


「サズ! 見てないで加勢しろ!」

「風の精霊よ! 敵の足元に刃を!」


 風の魔法マウスを切り裂いて動きが鈍ったところをゴウラの大剣が仕留めた。

  

「よしっ。あいつらの方はどうだ?」

「大丈夫みたいだ」


 俺達が揃って振り向くと、肩で息をしながらも、無事に勝利をおさめた二人がいた。

 良かった。何とかなった。

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