第117話:サズの出張6

 予定外の出張をこなした俺は、ようやくピーメイ村に帰ってこれた。道がよくなって、馬車がちょっと増えているから前より大分楽だ。


「お疲れ様。サズ君。君だけでも先に帰ってこれて良かったよ」


 ギルドに顔出しすると、ちょっと疲れた様子のドレン課長が迎えてくれた。さっそく部屋の隅で報告が始まる。


「ルグナ所長は領主様の所に行くと言っていましたし、色々やりそうだからしばらくかかりそうですね」

「そうだね。思いついたら凄い早さで決断する人だからねぇ。おかげでこちらにも仕事が沢山やって来そうで嬉しいやら、大変やらだよ……」


 言いながら、自分で用意したお茶をすすり始めた。今更だけど、ドレン課長が村長も兼任してるのに無理が出始めてるんじゃないだろうか。この村が発展するほど、課長の仕事は通常の二倍のペースで増えるわけだし。


「課長もいっそ誰かに仕事を引き継いで村長に専念したほうが良さそうですね……」

「その場合、サズ君が第一候補だよ……」

「それは……無理ですね……」

「だよねぇ……」


 これは良くないな。早急にドレン課長の後釜候補を探さないと。俺に仕事が回ってくる。最悪、攻略支部との兼務にでもなったら俺の手に負えない。他の職員といえばイーファもいるけど、まだ経験年数が浅いし。どこからかベテラン職員を呼ぶよう、働きかけるべきだろうか。


「とりあえず、報告をしようか」

「そ、そうですね。すいません、色々考えてしまって」

「いいよ。賑やかになるのは良いことだけど、忙しくなるのは大変だよねぇ」


 課長の大きなため息を聞いてから、俺は出張の成果を一通り報告した。


「そうか。クレニオンからの応援に買い取りの商人。それは良かった。大手柄だよ、サズ君」

「ありがとうございます。殆どルグナ所長のおかげですけどね」

「そんなことはないよ。特にベルお嬢様の方は、君が直接話しにいったのが大きいと見たね。しばらくはコブメイ村に商人が常駐するとして、そのうちこちらに引っ越して貰わないとだね。建物……どうしようかなぁ」

「そうなんですよね。少し冒険者が増えたくらいなら、ギルドで受け入れられるんですが、建築関係で今後賑やかになるとどうなるでしょうか?」

「……明日、コブメイ村の村長に相談してみるよ。もしかしたら、向こうのほうが賑やかになるかもしれないね。資材や人が集まるのは、まず向こうだし」


 ああ、そうなるのか。コブメイ村は村としては結構しっかりしている。魔物の心配もないし、まずはあちらが先に発展していくのか。俺からすると見えていなかった情勢だ。


「そのうち、コブメイ町になるかもしれないってことですね」

「案外、早いかもしれないよ。向こうの村長はやりてだからね」

「俺達にとっては、頼もしい話ですよ」

「間違いないね。さて、こちらからサズ君への報告だ。ルグナ所長からは特に連絡も指示もない。後が怖いけど、とりあえず良しとしよう。問題は裏世界樹ダンジョンの方でね」


 話がダンジョンに及んだところで、ドレン課長の表情が少し陰った。出張といっても数日だけなのに、何かあったんだろうか。


「問題って……危険個体でも現れましたか? 今は発見した地下一階の中枢を様子見しているはずですけど」

「うん。その中枢だけどね、倒しちゃったらしい」

「え?」

「イーファ君が冒険者と組んで、調査に行ったらそのままなんか、勢いでやっちゃったって……」

「勢いで……」


 地下一階とはいえ中枢だぞ。そう簡単な相手じゃないはずだ。……いやでも、今攻略支部に集まっているのはベテランの冒険者だ。それに、イーファは戦闘に関しては王都でかなり腕前を上げている。可能性のない話じゃない……か?


「不可抗力とはいえ、地下二階への道は開かれた。実はイーファ君がそれで困っていてね。助けてあげて欲しい」

「わかりました。急いで戻ります。向こうで方針が決まったらすぐに連絡を入れますので」

「今日は荷馬車があるから同乗するといいよ。帰りにダンジョンの採取品を乗せてきてね」


 慌てて立ち上がると、ドレン課長がありがたいことを教えてくれた。荷馬車とはいえ、歩くよりも早い。


「悪いね。帰ってきて早々に」

「いえ、大丈夫です。向こうで温泉に入って少しゆっくりしますよ」


 本当は資料室から来たフリオさんにも会っておきたかったんだけど、こればかりは仕方ない。大事な仕事だ。

 俺は職員に挨拶をして、慌ててギルドを後にした。

 中枢退治に、地下二階攻略か。思った以上に忙しくなって来たな。

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