第114話:サズの出張3

 クレニオンの賑やかさは相変わらずだった。国外の人も多いため、王都とは違う賑わいがある。

 冒険者ギルドに到着するなり、ルグナ所長の顔に気づいた人がいて、あっという間にギルド長との話の算段がついた。

 会議室に通されると、そこにはギルド長と以前お世話になった副ギルド長が待っていた。


「突然の訪問にも関わらずこのような席を設けて頂いたこと、感謝致します」

「ああ、いえいえ。ルグナ様のことですから、なにか理由があったことかと思いまして。同行されているのがサズ君ですしな」


 ギルド長が鷹揚に受け答えする横で、副ギルド長が柔和な笑みを浮かべている。態度には出さないけど、迷惑だったろうに。本当に申し訳ない。


「はい。実は裏世界樹ダンジョン攻略で動きがありまして……」

「ピーメイ村内で相談した上、早急に動くべきと判断したというところです」


 ルグナ所長の視線を受けて、本題を話す。今日の所長は少しいつもと口調が違う。声音もしゃべり方も優しく、淑やかな雰囲気だ。いつもの親しみが持てる話し方とは、かなり印象が違うな。さすがは王族、相手によって自然に態度を変えられるのだろう。


「動き……ですか?」


 副ギルド長がこちらを見た。よし、説明の時間だな。


「現在、地下一階の中枢を発見。それとは別に、多種多様な植物が群生する部屋が発見されています。採取した植物は鑑定中ですが、ピーメイ村周辺で採取できないものが多いように見えました」

「それはつまり、サズさんが見て……というわけですね。どのようにお考えなのでしょうか?」

「かつて、世界樹では希少な薬草が多く産出したといいます。それに近いことが起きる可能性があると、俺は見ています」

「私も同意です。既に、王都から資料室の職員が派遣され、過去の資料を精査し始めている」

「資料室とは……また、大きなところが動きましたなぁ。これはまさか……」

「お察しの通りです。結果はどうあれ、必要な態勢を整える必要があると思われます」


 ギルド長が言葉を濁したのを、ルグナ所長も暗に肯定した。資料室の名前が出るだけで、裏で暗躍してる大臣の存在に気づいたわけか。ギルド長ともなると、そのくらい常識なんだろうな。


「と、すると、実務的なところをまとめるのはサズさんになるわけですね。どのような対応策を?」


 この人は『癒し手』だ。できれば来て欲しい。でもきっと、無理なんだよな。いや、ここで必要以上に要求すべきじゃない。


「職員の一時的な派遣をお願いできればと考えています。現状、攻略支部にいるのは俺……自分とイーファだけでして。地下一階を突破後、収益が見込めるダンジョンとして評判が広まった場合、対応しきれません」

「設備面の対応も必要になりますな。そちらはルグナ様が?」

「はい。ダンジョンの収益性が上がり、冒険者が集まるようになる頃にはそれなりの規模にしたいと考えています」

「ふむ……」


 ギルド長が顎に手をやって難しい顔をしている。なにか、おかしなことを言ったかな?


「なにか問題が?」


 ルグナ所長が心配げな顔をして聞くと、ギルド長は身振りで示して、慌てて口を開く。


「いえいえ、方針としては問題ありません。職員の派遣も長期間でなければクレニオンも協力致しましょう。しかしですな、場合によっては地域全体に影響がある、と思いまして」

「かつての全盛期のように、ピーメイ村が地域の経済における要になるかもしれませんね」


 その言葉に、俺は息をのんだ。まだ地下一階も突破していないのに、そこまで考えるべきだったか。


「なるほど。では、巻き込む相手を増やしますか」


 事も無げに言ったのは、ルグナ所長だった。なんか、微妙に悪い顔をしている。後ろの護衛の子の顔が引きつっているのも気のせいじゃないだろう。


「それが宜しいかと。さしあたって、職員派遣の準備をしましょう。人選はサズ君に手伝ってもらえばいいですかな?」

「それでお願いします。ギルド長、この後少々、詳しい話をできますか?」

「もちろんです」


 悪い顔の人が一人増えた。柔和な笑顔の副ギルド長に「サズさん、人選は私たちでやりましょう」に言われ、俺はすぐに部屋を出た

 なので、その後二人が何を話したのか、俺には皆目見当もつかない。地域全体のことまで把握して動くとなると、まだまだ実力不足だ。

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