第113話:サズの出張2

 イーファに事情を説明した後、フリオさんと一緒にピーメイ村に向かうことにした。

 幸い、今日は物資を乗せた荷馬車が来る日だ。朝のうちに来た荷馬車に二人で同乗することにした。乗せる荷物もあるので、俺だけ徒歩になったけど。


 ピーメイ村に到着したら、すぐに事情を説明して、ルグナ所長とドレン課長を交えて会議になった。


「さすがはオルジフ大臣だな。こちらの動きに見事に対応してくるとは。やってきたフリオ君もさすがの人材だ。まさに資料室という人物だね」

「そうですね。すごい目をして地下の資料室に入っていきましたから」

「ちょっと怖かったねぇ」


 会議の場にフリオさんはいない。到着して軽く事情を説明し終えると、目を輝かせて地下にある資料室に飛び込んでいった。

 今頃、百年前の資料と格闘していることだろう。


「彼女の生活についてはこちらで面倒を見るよ。幸い、部屋も余っているしね。持ってきた書類に報酬面についても書いてあった」


 フリオさんはルグナ所長とドレン課長宛にも、それぞれ書類を持たされていた。おかげで移動手段以外は真っ当にピーメイ村の職員に加わることになったわけだ。


「さて、サズ君。フリオ君のことは良いとして、今後の話だ。私としては、オルジフ大臣がこれほどのことをしたのは、大事に捉えるべきだと思っている」

「そ、そうなんですか?」

「ピンとこないですねぇ。もともと、動く時はすごいことをやらかすと聞いている人ですし」


 微妙な反応を返した俺にドレン課長も同意して頷いた。


「二人の反応も無理はない。ピーメイ村にいれば、あの大臣のやりようを目にすることはないからな。私が思うに、あの大臣が、虎の子である魔女を使ったというのが問題だ。普通に派遣していては、時間が足りないと思ったのだろう」

「……つまり、思った以上に状況は早く動くってことですか?」

「私はダンジョン攻略に詳しくないのでわからないな。サズ君はどう思う?」

「……地下一階を攻略すればそれもあると思ってましたけど」


 昨日、イーファと今後の相談をしたけれど、あれは地下一階攻略と、採集品の噂が広まったのを仮定しての話だ。オルジフ大臣はそれが確実だと見込んでいる? なにか根拠があるのか?


「資料室の持つ情報から推測したんでしょうかね」

「あるいは、噂の頭脳から何かを弾き出したか、でしょうな」


 俺達が順調に攻略を進める中で、それなりに投資すべきだと判断する材料でもあったのかもしれない。あるいは、これが無駄になってもいいと割り切っているのか。


「素直に喜ぶべきなんでしょうか」

「現在、私とオルジフ大臣はことを構えていない。協力者だと思ってよいだろう。我々を急かす意図は……まあ、私がこうして気づくくらいのことは想定しているだろう」

「それに乗っかるわけですね。今は」


 ルグナ所長がこくりと頷く。それから、ずっと後ろに控えている護衛の子に目線を向けた。


「明日……いや、今日にでも出かけるかもしれない。準備をさせてくれ」


 護衛の子は静かに頷くと、室外へ出ていった。あの双子のメイドさんがすぐに準備を整えてくれることだろう。


「さて、サズ君。君なりに、我々がどう動くべきと考えてくれないか? 我々はダンジョン攻略は素人なのでね」


 楽しそうに笑みを浮かべながら、ルグナ所長が言う。この人が上司で良かった。あの大臣相手に気後れしない人なんて、この国でも少数派だろうから。


◯◯◯


 とにかく、今のピーメイ村には人が足りない。一時的でいいから、補充の人材をお願いすべきだ。

 考えられる手段としては、一番近くて大きなギルドのある町、クレニオンに助っ人をお願いすることだ。期間はなんともいえないが、数ヶ月でどうにか人を雇うのを目標にして、一時的にギルドを増員する。

 とりあえず、こんな風にすぐやる事は決まった。


 これをお願いするのは俺みたいな名ばかりの支部長でない方が良い。つまり、ルグナ所長の出番だ。


「ドレン課長、すいませんが数日留守にします。ゴウラ達への依頼はこちらにまとめて置きましたので」

「うん、わかったよ。気をつけてね」


 事務所の一画で作成した書類をドレン課長に提出する。内容はゴウラに攻略支部の手伝いや物資輸送の護衛を依頼するものだ。俺がクレニオンに行っている間、職員がイーファ一人になってしまうので、フォローをお願いしておく。


「イーファ君が忙しければ、こちらに仕事を回すようにするよ。時間をかけてもいいから、しっかり打ち合わせしてきなさい」


 ドレン課長のそんな言葉を受けて、慌てて準備を整えた。まだ俺が使っていた部屋が残っていて、荷物も置いてあったのが幸いだった。


「サズ様……少々お話が」


 外で所長を待っていると、護衛の子が音もなく現れて話しかけてきた。仕事は平気なのかな? とも思ったけど、双子のメイドさん達が近くにいる時は、たまに単独行動していたのを思い出す。


「なにかありましたっけ?」

「先日の謝罪を。イーファさんが心配で、つい感情が高ぶってしまいました」


 無表情でそう言うと頭を下げられた。


「気にしてないですよ。友達を心配するのは当然でしょうから」

「……トモダチ」


 一瞬、顔を赤くして呟く、護衛の子。なんだろうか、この反応。


「失礼。出発前に一つお聞きしたいことがありまして。サズ様は、イーファさんのご両親についてどうお考えですか?」

「それは……」

「裏世界樹の探索で見つかるのか、ということです」

「…………」


 俺の思考を先回りしての発言に、今度こそ黙り込む。


「……なんとも言えないな。それこそ、前例も資料もないから」


 イーファの両親は裏世界樹に接触して行方不明になり、今もダンジョン内のどこかにいる。生死は不明だ。不明ということにしている。

 ……これらはすべて、俺の想像にすぎないし、証拠もない。資料室のフリオさんが過去の記録を漁っても、似たような情報は出てこないだろう。


「やはりそうですか。失礼しました」


 失望した様子もなく、むしろ納得した様子だった。


「……私は、イーファさんに悲しい思いをしてほしくないのです」


 俺が何も言えずにいると、小さくそう呟いて、護衛の子はルグナ所長の所へと戻っていった。


 イーファの両親の手がかりが見つかるのか。そもそも、それが見つかるのが良いことなのか。どうなんだろう。下手に手がかりが出てくるほうが残酷にも思える。


 ルグナ所長がやってくるまで、俺は答えのない疑問についてひたすら考えることになった。

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