第111話:攻略開始5

 俺が探索に出ている間、イーファは凄くしっかり仕事をしてくれていた。

 それだけじゃない、地下一階の中枢を発見し、様々な採取品を手に戻ってくると、攻略支部の中にラーズさんが待っていてくれたのである。


「おかえりなさい! ご無事で何よりです! ちょうどラーズさんが来てたので同席して貰いました!」

「ど、どうも。こんにちは……」


 帰って来たのは俺だけじゃない。ジリオラさん達を前にして、ラーズさんは明らかに委縮していた。


「あの、ラーズさん。今回、珍しい植物が沢山ありまして。良ければ鑑定をお願いできますか? その……別の部屋で」

「喜んで! ちょっと奥の方をお借りしますね!」


 俺が取り出した袋を奪い取る勢いで手にすると、ラーズさんは建物の奥に消えた。


「なんか、怖がらせちゃったみたいだねぇ……」

「慣れてない人には大体あんな感じなんで気にしないでください」

「そっか。それよりイーファ、報告だよ! 遂に中枢部屋を見つけたよ!」

「やりましたね! じゃあ、詳しくお話を聞かせてください!」


 気を取り直してと言わんばかりに、詳しい聞き取りが始まった。


「おめでとうございます! 中枢発見ですね! 後は倒しちゃえば地下二階! ……植物が沢山採れる部屋の方は……どうなんでしょう?」

「ラーズさんの鑑定次第だな。もし無理だったら、少し時間をかけて専門家を呼ばなきゃだけど」

「頼むよ。アタシらにとっちゃ死活問題なんだから」

「承知してます。どちらにせよ、所長に頼んででも誰か来て貰います。それと買い取り屋もね」

「なら良し! じゃ、あたしの報告は以上だね」

「はい。中枢討伐についてはリジィさんも交えて相談しましょう。ゆっくり休んでください」

「サズもしっかり休むんだよ」


 一通り報告を終えると、ジリオラさん達は退出していった。俺達のことを信用してくれてはいるようだけど、それでも釘を刺されてしまった。


「先輩、これ、大変なことになるのでは?」


 冒険者達が去ったのを確認すると、イーファが引きつった笑みを浮かべながら言った。珍しい表情だ。職員として、色々わかってきた故のものだろう。


「そうだな。多分、採ってきた植物は相応の価値があると思う。それに、地下一階の中枢も倒せるだろう。……人が増えるかも知れないな。思ったよりも早く」

「ですよね。もし、沢山の冒険者が集まってきたら、受け入れが……」


 俺は頷く。仮定の話になるが、ラーズさんに鑑定して貰った植物に思った以上の価格がつき、ついでに地下二階が解放されたと噂が広がった場合どうなるだろうか。

 この裏世界樹ダンジョン攻略支部に来る冒険者が増える。喜ばしいことだし、向こうから冒険者が来てくれるのが本来の姿だといえばそうだ。

 でも、まだ準備が整っていない。建物も人も全然足りない。噂の広がり方次第だけど、あっさり支部で対処しきれなくなる可能性がある。

 ピーメイ村は辺境とは言え、王都から、ゆっくり来ても二十日かからない。アストリウム王国はそのくらいの広さしかない。冒険者が集まり始めると、早いだろう。


「……色んなところに相談しよう。最低限、鑑定と換金の人と設備だけは整えておかないと」


 霊薬を売ってくれているラーズさんに鑑定までお願いするわけには行かない。あの人の精神的にも無理だろう。報酬に絡むことになると冒険者はいつも以上に本気になる。


「中枢退治を少し先延ばしにするというのはどうでしょう?」

「言いにくいんだよな。地下一階だし」


 なんだかんだ言っても最初の階層だ。ベテラン冒険者ならとっとと突破したいことだろう。奥に行くほど報酬が期待できるなら尚更だ。「こちらの準備不足で待ってください」と言うのは信用に関わる。


「魔物討伐の時のように、一時的な増員の依頼。それと、資料室の人も早めに寄越してもらおう」

「この前、頼んでたやつですね」

「ああ。きっと、過去の記録が役に立つ」


 王都の資料室には少し前に手紙を送っておいた。裏世界樹を攻略するに当たって、人員を送って欲しいと。想像通り、ここが世界樹の裏側ともいえるものなら、資料調査のプロである資料室の人に過去の資料をあたって貰いたい。

 残念ながら、俺とイーファにピーメイ村にある昔の資料を分析する時間的余裕はないのだから。

 順調にダンジョン攻略が進むなら、きっと力になってくれるはずだ。


「えっと、まず、何からしましょうか」

「明日、ここの冒険者達と中枢討伐について相談する。それは進めよう。その間、俺は村に戻ってルグナ所長とドレン課長とで色々手配するよ。イーファが一人になってしまうけれど……」

「大丈夫です、任せてください!」


 イーファが胸を張って答えてくれた。嬉しいけど、いよいよ二人だけじゃ運営に支障が出そうだ。せめて、人員の目処をつけてから戻ってこよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る