第108話:攻略開始2
今日は外で雨が降っていた。ダンジョン攻略には関係ないけれど、休む理由としては十分だ。温泉の王の自宅に併設された宿泊施設一階にある食堂に行くとリジィさんが仲間達とのんびりしていた。
「おお、サズ君も休憩かい? いつも忙しそうだから心配してたんだ」
「はい。ようやく一段落つきまして。皆さん、今日はお休みですか?」
「ああ、温泉につかってゆっくりとね。雨の日って、ちょっとやる気がでないよね」
リジィさんの仲間達がそれぞれこちらを見て頷いた。それぞれ、何か飲んだり、トランプなどをしている。
「わかります。外を眺めて、のんびりしたいですね」
「まあ、のんびりするしかないんだけどね。ここだと」
窓の外を見ながら、リジィさんは軽くため息をついた。
「やはり退屈ですか?」
「まあ……さすがにね。ダンジョンに潜る分にはいいけど、暇を持て余してしまうかな。あ、でも、ここでの生活は快適だよ? 綺麗だし、過ごしやすい。何より温泉がいいね。元気になる」
途中で慌ててフォローしてくれた。やはり、良い人だ。
「気にしないでください。ここでお金の使い道がないのは確かですから」
「そうなんだよねぇ。いっそ、長めに休んでクレニオンにでも行ってみようかな」
「……できれば、地下一階を抜けた後くらいにお願いしたいんですが」
「ギルド職員としてはそうだよねぇ」
リジィさんの仲間達がそれぞれ自分の作業をしているが、しっかり聞き耳を立てているのがわかる。俺はここの支部長だ。規模が小さいとはいえ、運営していく権限がある。今、これからどうするつもりだ、と問われているわけだ。正直、こういうのは苦手だけど、これが仕事だ。王都にいる時に望んでいたこともでもある。
「ちょっと、何か考えてみますよ。さすがにここに街を作ることはできませんけれどね」
「へぇ、期待させて貰うよ。面白いものがあるといいなぁ」
「ご期待に沿えるかはわかりませんけど、できることをやってみますよ」
そう言って、俺は席を立つと事務所に戻った。
◯◯◯
「あ、おかえりなさい先輩。早いですね」
「リジィさんに色々言われてね。やっぱり休憩にはならなかったな」
「でも、話が聞けて良かったですね」
俺は軽く頷く。せっかく来てくれた冒険者達だ。モチベーションは何としても維持してもらわなきゃいけない。規模が小さいからこそ、こうして顔を出して意思疎通をはからなければ。
「とりあえず、方針は決まったよ。イーファ、雨の中悪いけど、村まで行ってくれるかな?」
「もちろんです! ひとっ走りしちゃいますよ!」
書類を書き始めると、イーファが棚の中から雨具を取り出し始めた。彼女の足なら、すぐにピーメイ村に行ける。本当なら荷馬車でもあればいいんだけれど、あれは今出払っている。
まあ、おかげで手が打てるんだけれど。後で当人に色々言われそうだな。
簡単な書類を書き終えて、サインをする。後は向こうでドレン課長が認めてくれるかだけど、大丈夫だろう。
「よし出来た。怪我しないように頼むよ。悪いね、使い走りなんてさせて」
「構いませんよ! たまには体を動かしたいですから!」
そういって書類を封筒に入れた上で鞄にしまうと、イーファは元気に駆け出していった。
◯◯◯
三日後、イーファは帰ってきた。二台の馬車と共に。
一つはピーメイ村所有のものだ。主に村のギルドと攻略支部、それとコブメイ村を行き来するもので、物資の輸送で大活躍をしている。
そしてもう一つはコブメイ村のもの。荷物を満載した、行商の馬車だ。
すっかり晴れて乾いた道を進む馬車を見て、俺は一安心だ。
「ただいま帰りました! 色々と持ってきたし、行商の方も来てくれましたよ! あ、あとゴウラさん達も元気です!」
「俺達はついでかよ! まったく……。ほら、約束通り話つけてきたぞ。報酬は頼むぜ」
馬車の護衛で歩いてきたゴウラが毒づきながら言ってきた。言葉とは裏腹に、表情に悪意はない。
ダンジョン攻略が始まって以来、ゴウラ達にはこうした輸送の依頼を受けてもらっている。本当はダンジョン攻略をして貰いたいんだけれど、信頼できる冒険者だからこそ、こういう仕事を任せられるのも事実だ。もう少し情勢が変われば、彼らもダンジョン攻略に行ってもらいたいが、現状ちょっと難しい。
「ありがとう。ちょうどゴウラがコブメイ村に行ってて助かったよ」
ゴウラはコブメイ村の出身で、頼りにされている冒険者だ。つまり、顔が利く。そんなわけで、行商の人に来てもらうよう交渉をお願いした。ゴウラ達への報酬もかなり多めにかかるけど、これは必要経費だ。
「そりゃ、交渉くらいするけどよ。平気なのか?」
まったく、本当に良いやつだ。今回、俺が結構無茶をしたと心配までしてくれている。
「金はかかるけど、やるべきことだからね。しばらく定期的にお願いすると思う。その分の予算の方は、なんとかなるよ。しばらく国もここの攻略に金を出すつもりはある」
「まあ、場所が場所だからなぁ」
俺から依頼完了の書類を受け取って、嬉しそうな顔をしながらゴウラが納得顔をする。
「コブメイ村の行商だけじゃなくて、他からも来てくれるか。それは攻略内容次第ってことですね」
「イーファもわかってきたな。そういうこと。まずは地下一階攻略まで定期的に頼まないとな」
それと、ラーズさんに手持ちのボードゲームでも出して貰えないかな。後で聞いてみよう。
「わかった。俺も協力するぜ」
「悪いな、ダンジョンに潜らない仕事ばかりで」
「俺はこっちのほうが性にあってんだ。気にするな。二人共、頑張れよ」
本当に気にしていないらしい、爽やかな顔をして、ゴウラはそう言ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます