第105話:攻略の準備1

 出張の結果。俺とイーファは無事、二つの冒険者パーティーを勧誘することに成功した。

 リジィさんとジリオラさん、どちらもベテランで、ダンジョン攻略に慣れた優秀な冒険者だ。仲間達と温泉攻略支部に来てくれれば、すぐにでも裏世界樹ダンジョンの攻略は始まるだろう。


「以上が、今回の出張の成果です」

「うむ。予想以上だな! さすがはサズ君達だ!」


 ピーメイ村の冒険者ギルド会議室。戻ってきた俺達は、ルグナ所長とドレン課長を交えて、今後についての話し合いを始めた。


「なんというか、運が良かったです。特にジリオラさん達はたまたま近くに居てくれましたから」

「運も実力の内というやつだ! 肖像画とサインの件も喜んで引き受けよう!」

「ありがとうございます! 良かったですね、先輩!」

「本当に良かった……ありがとうございます」


 ほっと息を吐いて一安心だ。ルグナ所長の性格的に快諾してくれるとは思っていたけれど、ベルお嬢様へのサインの件は勝手に約束したものだから、気になっていた。


「なに、気にすることはない。私のサイン一つで話が進むなら安いものだ。ところでそのベルお嬢様という子は、商人としても優秀なようだな。……いっそ、ピーメイ村に投資して貰おうか」

「投資?」


 イーファが怪訝な顔をしたのを見て、ドレン課長が口を開く。


「君達が呼んだ冒険者がダンジョンで成果をあげれば、噂が広まって沢山の人がやってくるだろう。昨年の間に色々と施設や人を増やしたけれど、恐らく色々足りないね」

「たしかに、ダンジョン攻略が始まれば、季節を問わず人が行き来することになりますからね。食料なんかも確保しないと」

「え、それって困りませんか? ピーメイ村には住んでる人達の分しか畑がありません」


 俺とイーファの言葉にドレン課長が頷く。畑については春から拡張しているけど、それも大規模なのは望めない。ピーメイ村は中央広場にある魔物避けの結界のおかげで安全が確保されているので、そこを出ると魔物に襲われる危険が増す。

 これは温泉攻略支部の周辺も同様で、あまり広い農地は確保し辛いのが現状だ。昨年、危険個体が出没したことを考えると、慎重な判断をせざるを得ない。


「そこで投資が必要なのだ。無いものは買うしか無い。てっとり早く、ピーメイ村に店を出して貰うのが良いかな? そうすれば輸送の仕組みまで整えてくれて、交通の便も増すだろう」

「護衛を受けた冒険者も来るかもしれませんね」


 それは更に何よりだ、とルグナ所長が頷いた。強かと言うか、行動力のある人だな。横の護衛の人が軽くため息をついているのが見えたけど、色々と大変なんだろう。


「時にサズ君、今、私が言ったことは実現可能だと思うかな? 『発見者』の目で見てきたんだろう?」

「さすがにそこまではわかりませんが、ルグナ所長のことはかなり尊敬しているみたいでした、可能性は高いかと」

「後はピーメイ村の将来性が商人としての目に止まるかだと思いますよ?」


 ドレン課長はそういうと美味しそうにお茶を飲んだ。村長であるこの人からすると、損することは何一つない話だ。


「こちらでも資料を用意しておきましょう。遅くともダンジョン攻略である程度結果が出れば、投資してくれるはずです」


 課長の片眼鏡がキラリと光った。これは、本気で村興しをする気だ。


「えっと、つまり、ダンジョン攻略が順調で、収益が上がれば、色々と捗るってことですね?」


 イーファの質問に全員が頷く。そう、これは場所も規模も人員も違うけど、王都西部ダンジョンで起きたことと同じだ。まずはダンジョンの攻略、それから収益を上げること。アストリウム王国において、ダンジョン攻略は最大の経済活動だ。必然的にそういう話になる。


「さて、そうなると。裏世界樹ダンジョン攻略でそれなりの結果が必要になるわけだが、サズ君、他に必要なものはあるかな?」


 ルグナ所長に聞かれて、俺は少し考える。この人は王族で、有名人。本気で動けば遺産装備まで引っ張ってきてくれる行動力がある。

 今、俺達に必要なものはなんだ? ダンジョン攻略をしてくれる冒険者は目処がついた。となると、後は持続的にダンジョンに挑める態勢づくりか。


「『癒し手』を持っている人がほしいですね。怪我人を治療できるかはとても大きいです」


 待っていればルギッタがリナリーと共に来てくれると思う。ただ、彼女達の到着がいつになるかわからないのが実情だ。しかし、『癒し手』はほしい。冒険者の怪我をいかに早く治せるかは攻略の速度と安全性に直結する。


「ふむ……『癒し手』か。クレニオンの副ギルド長にずっと来てもらうわけにもいかないしな。ドレン課長、あてはあるかな?」

「……少し、難しそうですね。この辺りはダンジョンが少なかったのもあって、神痕持ちが少ないですから」

「そうですよね」


 やはり、難しい注文だったか。


「そう落ち込むことはない。私の方で手配をしてみよう。すぐにとはいかないかもしれないけれどな!」


 改めてルグナ所長がそう約束してくれた。所長一人に色々動いて貰うのも悪いな。


「では、その間に俺達に出来る方法を取りましょう」

「なにか出来ることがあるんですか?」


 イーファの問いに頷いて、俺は答える。


「とりあえず相談役に相談してみよう」


 裏世界樹ダンジョンの近くには相談役の魔女が住んでいる。きっと、何かしらの知恵を授けてくれるはずだ。

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