第102話:冒険者集め5
「いやぁ、二人とも見事なものだねぇ。本当にギルド職員なのかい?」
魔物退治を無事に終えるなり、リジィさんは朗らかにそう言った。
「冒険者兼任で色々とありまして……」
「いっそ二人とも冒険者をやってもいいと思うよ。僕なんかよりよっぽど向いてる」
「そんなことないです。リジィさん、凄く上手な動きでした。さすがじゃ『迅速』の神痕です」
「そう?」
半信半疑と言った感じで聞かれた。この人、自己評価が不当に低いな……。
「さっき、ワームを落とした時の動きは凄かったですよ。無駄がなく、綺麗な動きでした」
「はい! とても不調とは思えない動きでした」
「そうかな? そうかも。僕は一発はないけど、こういうのが得意だったんだよね」
両手の武器を見ながら、自分に言い聞かせるように、リジィさんが呟いた。
「あの、それでピーメイ村に来て頂く話はどうでしょうか?」
「とりあえず、仲間達に話してみるよ。二人とも良い感じだし、いざとなれば助けてくれるんでしょ?」
「必要と判断したら、俺達も攻略に乗り出します」
それなら安心だ、とリジィさんは頷く。俺とイーファが冒険者専業にならないことについては、それ以上追求しない。有り難いことだ。
「記念すべき最初のパーティー勧誘成功ですね、サズ先輩っ」
「ああ、先は長いな。また実力のあるベテランパーティーを探さないと……」
「あれ? 僕たちが最初になりそうなの? おかしいなぁ」
不思議な話を聞いた、といった感じでリジィさんが言った。
「なにかあるんですか?」
「いや、ピーメイ村にダンジョンが出来たって噂を聞いて、必ず行くって言ってる人がいたんだよ。この辺りでは有名な人だよ、槍使いの女性でね」
「もしかして、ジリエラさんですか?」
昨年、ピーメイ村で中枢が発生した際に協力してくれた、ベテラン冒険者のリーダー格。それがジリエラさんだ。姉御肌の陽気な人で、イーファがとても懐いていた。
ピーメイ村のことを気にかけてくれていたのか。
「今、どの辺りにいるかわかりますか?」
「ここから北にある、リオラスっていう町にいるはずだよ。まだ依頼をうけているのかもね」
リオラスか、確か更に北にある国境の町との中継点のような所だ。人の行き来が多く、冒険者の仕事も多い。
「先輩」
「ああ、次の行き先は決まったな」
次の行き先はリオラスの町だ。
○○○
リオラスの町まではクレニオンから馬車で一日かからなかった。距離が近いというよりも、街道がしっかり整備されているおかげだ。
リジィさんと別れた俺達は、クレニオンで一泊、翌日にはリオラスの冒険者ギルドに到着していた。
受付で挨拶をして、事情を説明しつつ、ジリエラさんについて聞いてみると、すぐに別室に通された。
「まさかピーメイ村の噂の二人にお会いできるとは思いませんでした。遠くからお疲れ様です」
俺達の対応をしてくれたのは、穏やかな物腰の中年男性だった。リオラスのギルド内でジリエラさん達の担当をしている方だと言う。
テーブル上に彼が手ずから入れた紅茶が並ぶ。良い香りだ、趣味なんだろう。
「噂になってるんですか、俺達?」
「ええ、冒険者も兼ねる職員が活躍して、裏世界樹を見つけたって噂です」
「別に俺達だけで見つけたわけじゃないんですが……」
「色んな人達の力がなければ出来ませんでした!」
ニコニコしながらイーファが付け加えた。噂になってると聞いてちょっと上機嫌なのかもしれない。職員が有名になってもあんまり良いことないと思うけどな。
「さて、ジリオラさんとその仲間についてですね。この町に根を張って半年ほどになりますが、大変ご活躍しております。彼女達がピーメイ村に行くとしたら、少し寂しいですね」
「それについては……すみません。でも、冒険者の移動についてギルドは……」
「ああ、嫌味を言いたいわけではないんです。良い方々ですから、個人的な感想と言いますか。ギルドは冒険者を一箇所に拘束できませんからね。それはもちろん承知しています」
冒険者ギルドはよほどの理由がない限り、冒険者の移動を禁止できない。冒険者は拠点とするギルドを自由に変えることができる。冒険者の王様が起こしたこの国の、昔からの決まりだ。
ちなみによほどのこと、というのは戦争だとか、ダンジョンが危険な状態にある時のことを言う。
「こうして勧誘するのが迷惑になることは承知しています。けれど、せっかく見つけたダンジョンが攻略されないのは困ってまして……」
「大丈夫。その点については安心してください。実は、ジリオラさん達は裏世界樹ダンジョン攻略を考えているんです。可能なら、すぐにでも移動したいはず」
「それって、すぐに移動ができない理由があるってことですか?」
紅茶のカップに砂糖を沢山溶かしながらイーファが聞く。
「はい。実は、困ったことになっておりまして。本当に……」
心の底からそう思っているんだろう、文字通り困った顔をしている。
「ジリオラさん、なにかトラブルに巻き込まれたんですか?」
「それに近いです……。そうだ、様子見がてら、会いに行ってみませんか? もしかしたら、サズさん達が行けば状況が変わるかも」
「?」
どういうことだろう? 疑問が顔に出ていたんだろう。すぐに俺とイーファに対して事情の説明が始まった。
翌日。俺とイーファはリオラスのとある貴族の屋敷の中にいた。
厳密には、その敷地内に設けられた庭園の中だ。見たこともない花が咲き誇るその場所は、金と手間が惜しみなく注ぎ込まれているのが、ひと目でわかる「凄い庭」だった。イーファは目を輝かせてキョロキョロしている。ドロドロ系の話にはよく出てきそうだもんな、庭園。
その庭園の中心に設けられた屋根付きの小さな建物に俺達は案内された。
庭園の豪華さとは正反対の簡素ながら上品な建物の中に入ると、花の香りが一気に押し寄せてきた。
それが室内に並べられた花と、中にいた人の楽しむお茶の香りだとすぐに気づいた。いや、それ以上のものに、俺は出会った
「本当にここに居たんですね、ジリオラさん」
「おや、サズとイーファじゃないか。久しぶりだね」
穏やかな顔で俺を出迎えたのは、ティーカップを手に穏やかな顔をしたジリオラさんだった。
「あ、あの、そちらのお方は?」
イーファがやや慌てながら問いかけたのは、ジリオラさんと並んで座る人物についてだ。
清楚なワンピースに身を包んだ、栗色の髪の少女は、問いかけたイーファににっこりと微笑んだ。
どうやら自分から名乗るつもりはないらしい。それに気づいたジリオラさんが、困った口調で教えてくれる。
「……こちらが、この屋敷の主の一人娘、ベルお嬢様だよ。アタシの雇い主だ」
その言葉に、ベルお嬢様は満足げに頷いた。
ジリオラさんは、彼女に気に入られて。身動き取れなくなっているそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます