第101話:冒険者集め4

 ケイブキャンサーとジュエルワーム、二体の魔物はリジィさんが野営した場所からそう遠くない場所にいた。


「……ほら、あそこ。ちょっとジュエルワームが増えてるかな」

「なるほど。ケイブキャンサーを食べてるから動かないんですね」

「なんか石像みたいですね。一瞬、魔物だってわかりませんでした」


 森の一画にある、木々が途切れたちょっとした空間に魔物たちはいた。イーファの言う通り、ぱっと見た感じだと、ちょっと大きめの岩の塊があるように見える。

 しかし、よく観察すると岩の塊は巨大なハサミをもったカニの魔物だし、表面は蠢く岩色のイモムシが大量に張り付いている。

 寄生されて動けなくなった魔物と、苗床にしている魔物。ダンジョンの外ではまずありえない光景だ。


「ちょっとだけ周囲の地面まで広がってますね。ワーム。」


 リジィさんが見張っていてくれて助かった。そろそろケイブキャンサーの捕食が完了して、ジュエルワームが地面へと広がろうとし始めている。こうなると非常に危険だ。森の中で寄生先を見つけて際限なく増える。


「周りが広くて助かりましたね。これなら何とかなりそうだ」

「じゃあ、打ち合わせ通りにですねっ」


 俺は頷き、右手に持っているものを再確認する。そこには火の点いた松明がある。リジィさんが作ってくれたもので、この魔物退治には欠かせない。


「すごいねぇ。精霊魔法なんて初めて見るよ。いいなぁ」

「便利ですけれど、結構扱いが難しいんですよ」


 今回の相手で一番の問題はジュエルワームだ。こいつは近づくと結構な速度で飛び跳ねて襲いかかってくる。一度食いつかれると外すのは困難。なにせ、鉱石を食い破る口を持っている。できれば、近づかずにすませたい。

 そこで俺の精霊魔法を使うことになったんだけれど、どんな魔法にするかが問題になった。

 光は威力が少ないから駄目、地は地面に沈ませればいいけれど、それで倒せたか確認が難しい。洞窟系ダンジョンに出る魔物なので、下手をすれば生き延びるかもしれない。風は使ったことがないし、水はただの地面で上手く水没させられる気がしない。

 そこで出来れば火の精霊を使いたいということになった。これはこれで、森に引火しないよう気を使う必要がある。

 幸い、魔物の周りには空間があった。精霊に魔物だけ燃やすように頼めば、延焼せずにある程度始末できるだろう。


 作戦としては、まずは俺が火の精霊で可能な限りジュエルワームを焼く。全部焼け死ななくても、相当弱るはず、とはかつて退治経験のあるリジィさんの言葉だ。火の精霊が仕事を終えたら、全員で近寄って地道に後始末だ。一番硬いケイブキャンサーはイーファのハルバードにお願いする。


 作戦としては簡単だけれど、接近したときに危険はある。そこだけは気をつけよう。


「じゃあ、始めますよ。火の精霊よ、あの魔物だけを焼いてくれ。できるだけ森は燃やさないように頼む」


 手に持った松明の火から、小さな火球が分離した。そしてすぐさま、魔物に向かって飛んでいく。王都で練習したのもあって、火の精霊はそれなりに扱い慣れた。上手くやってくれるはず。


「よしっ」

「おー」

「さすがですっ」


 結果はすぐに出た。ケイブキャンサーに火球が到達したと思ったら、全身を覆う衣のように火が広がった。丁寧で、火力が強い。直ぐ側の地面が焦げているけど、それ以上燃え広がらない。成功だ。


「精霊がとどまれる時間はあんまり長くありません。しばらく見ていましょう」

「うん。油断せずにね」


 リジィさんの言葉にイーファがハルバードを構える。すっかり戦い慣れたな。

 火の攻撃を受けてジュエルワームが跳ね回ったり襲いかかってくるかと思ったけれど、そんなこともなく数分がたった。


 加熱され続けたおかげで、魔物の周りは空気がゆらめいて見える。熱そうだ。


「終わりましたね」

「よし、確認してみよう」


 鉱石系の魔物は熱に強い。ゆっくりと俺達は近づいていく。


「ジュエルワームは色以外はただの虫だから、熱で死んだはず……うわっ」


 リジィさんが小剣でキャンサーの表面を軽く突いた瞬間、ジュエルワームが跳ねた。生きてたか。

 慌てて対応しようとするも、それは必要なかった。

 リジィさんは小剣で軽く迎撃。跳ねたジュエルワームは地面に落ちて動かなくなった。

 

「あっぶな、弱ってるけどいくつか生きてるよ!」


 その言葉に俺とイーファが身構えると同時、生き残ったジュエルワームが一斉に飛び跳ねた。


「うわっ、なんか熱そうですし気持ち悪いです!」

「噛まれたら痛いじゃすまないから気をつけろ!」


 ワームは思ったよりも繁殖していたらしい。攻撃してきたのは合計八匹。獲物としては小さく、動きも早いので面倒な相手だ。

 通常ならば、の話だが。


「やあああ!」

「ほいほい!」


 小さくした遺産装備のハルバードをイーファが的確に振るい、リジィさんが右手の小剣と左手の短槍を素早く繰り出す。

 イーファの動きが的確になっている以上に、リジィさんの動きが凄かった。動きに無駄がない。それでいて『迅速』のおかげか早い。スランプなんて嘘なんじゃないだろうか。確実かつ手早く、ジュエルワームを迎撃していく。

 結局、大半をリジィさんが倒してしまった。俺なんか眼の前に来たのが一匹だけで、殆ど仕事がなかった。


「動けるのは全部倒したみたいですね」

「そうか。じゃあ、イーファさん、仕上げを頼むよ」

「わかりました。やあああ!」


 最後に残ったケイブキャンサーにイーファのハルバードが叩き込まれて、突発的な魔物退治は終わった。

 このカニ、寄生されて死を待つばかりだったんだな。ちょっと気の毒だ。いや、元気一杯でも困るし、退治しただけなんだけれど。

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