第100話:冒険者集め3
そこは、冒険者の野営地にしてはとても整っていた。簡易天幕に、石を積んで作った竈。その上に網を置いて調理までした後がある。
「いやあ、ダンジョン以外で冒険者をやるのが初めてだったから、つい盛り上がって荷物が増えちゃってね」
俺達にお茶を入れながら、柔和な笑顔でリジィさん――――裏世界樹攻略候補の冒険者はそう語った。というか、一人なのにカップを複数持っているのも不思議だ。
「ああ、このカップはね、仲間達と一緒にいる時用なんだよ。野外用の品物は色々あって楽しいねぇ」
のんびりとそう語る傍らには、小剣と短槍が置かれている。石の上に座っているが、すぐに動けるように全体重は預けていない。穏やかに見えるけど、しっかりベテラン冒険者だ。
『発見者』の案内するまま森の中を進んだら、リジィさんを見つけた。ちょうど休憩中で、お湯を沸かしている所に挨拶したら、そのまま和やかに迎え入れてくれたという流れだ。
仕事中の冒険者は少なからず緊張感があるものだけれど、この人の場合は良い意味で気が抜けている。俺はそんな印象を受けた。
「あの、魔物ですか?」
俺達は挨拶もそこそこに本題を切り出したら、帰ってきた返答がそれだった。
「うん。先にこちらの事情を話してごめんね。僕は護衛のついでに採取でここに寄ったんだけれど、森の中で厄介な魔物を見つけたんだ。ケイブキャンサーとジュエルワーム、知ってるかな」
「…………」
「鉱石系のダンジョンで見られる魔物ですね。キャンサーの方は鉱物で体を形作ったカニ、ワームの方はそういった魔物に寄生する軟体生物です」
イーファが「知ってますか?」と疑問符付きの表情で聞いてきたので、とりあえず答えた。そこそこ見かける魔物なんだが、王都のダンジョンにはいなかったやつだ。
「さすがだね。ケイブキャンサーは動きが遅いし、獰猛じゃないからいいんだけれど、問題はジュエルワームなんだ。鉱物系の魔物に寄生し、成長して、増殖する。ある程度数が増えたら、鉱物のない生き物にも寄生するんだよ」
「鉱物系の魔物じゃなくてもいいんですか?」
「大きくなると何でもいいみたいだ。凶暴で、生き物が近づいたら飛びかかってくるらしい」
そのほかの特徴としては、体内で宝石のような結晶体を生成し、倒すと手に入れることができること。鉱物系じゃない生き物に規制していると血の色をした結晶が出てくるとか。
「数が増えると手がつけられなくなるし、地元の人がうっかり近づいたら危険だと思って見張ってたんだよ」
「リジィさんは倒さないんですか?」
イーファの質問に、リジィさんは柔和な笑みを浮かべて首を横に振った。
「ケイブキャンサーだけだったら何とかなるんだけれどね、ジュエルワームがびっしりついていて諦めたよ。ちょっと、僕一人じゃ手に負えそうにない」
「賢明な判断です」
ジュエルワームに噛みつかれたら、凄い勢いで体液を吸われる。うっかり一人で挑んだら、あっという間にたかられて命はないだろう。
「様子を見つつ、人が通ったら伝言をお願いしようと思ってたんだけれど、誰も来なくてね。仕方ないから一度戻ろうかと思っていたところに君達が来たんだ」
お茶を飲みながら、リジィさんはのんびりとそう言った。足止めを食らった上に、危険な魔物と対峙し続けていたとは思えないくらい余裕の態度だ。大物かもしれない。
「俺達はピーメイ村という所のギルド職員でして。新しく発見されたダンジョンを攻略してくれそうな冒険者をあたっていたところなんです」
「リジィさんとお仲間も候補です」
ようやく本題を切り出せた。挨拶して自己紹介したら「魔物が」だったからな。
「へぇ、噂には聞いてるよ。そうだなぁ、ダンジョンか。どうしようかな。僕は『迅速』っていう神痕持ちでね。どうにも伸び悩んでたんで、気持ちを切り替える意味もあって、こちらの地域に来たんだけれど」
「伸び悩んでいたんですか?」
イーファが怪訝な顔をした。ギルドの情報だと、こちらの地域に来てからのリジィさん達の仕事ぶりは悪くない。むしろ優秀なくらいだ。スランプに陥っている冒険者とは思えない。
「僕はもともとのんびりやでね、『迅速』のおかげで人並みの早さで喋れるようになった、なんて言われるくらいなんだ。おかげで神痕の力を上手く引き出せてないみたいなんだよ。特に最近はね」
「神痕は思ったよりいうことを聞いてくれませんからね」
気持ちはわかる。俺も『発見者』が殆ど力を失った時は色々と試してみたし、それなりに絶望した。結局、ピーメイ村で温泉に浸かるまで解決しなかったわけだが。
「そうだ。ピーメイ村に来て温泉に入って見ませんか? 実は、俺も神痕持ちで、弱ってたんですけど、あそこの温泉に入ったら力を取り戻したんです」
「……そんなことがあるのかい?」
「本当ですっ。裏世界樹ダンジョンが関係してるのかもって一部で噂されてます」
イーファの言葉も嘘じゃない。あの温泉はダンジョンと何らかの関係があって、神痕に作用している……可能性がある。
「うーん。そうだなぁ……」
リジィさんはしばらく腕組みをしてから、笑みを崩さず答えを口にする。
「ちょっと興味があったし、行ってみようかな。仲間が許せばだけれど。ああ、その前に、やることがあるね」
俺とイーファの武器を見ながら、リジィさんは自身の小剣と短槍を手にする。
「はい。魔物退治、俺達に手伝わせてください」
予定外の仕事だけど、地域の人を危険に晒すわけにはいかない。せっかく武器を持ってきていることだし、駆除してしまおう。
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