第99話:冒険者集め2
クレニオンのギルドで紹介を受けた冒険者パーティー。そのリーダーの名前はリジィと言った。
前衛で『迅速』の神痕持ちの男性。速度を生かした戦いが得意だそうだ。現在は、クレニオンから近隣を回っている隊商の護衛をした上で、近くの町で採取をして戻ってくるという二つの依頼を遂行中。
採取の方はついでに頼んだ簡単なもので、護衛が終わればクレニオンに来るとのこと。
じゃあ、クレニオンで待って裏世界樹ダンジョンの話をしようかと思ったらそうもいかなかった。
リジィ氏が戻って来ないのである。
「ああ、リジィさんですか? 実はまだ帰ってきていないんですよ。おかしいですねぇ」
クレニオンからそれほど離れていない町にあるギルドの支部。到着した俺とイーファは受付で問い合わせると、そんな回答を貰った。
「あのあの! リジィさんは採取の前にこちらに顔を出したんですよね?」
「はい。護衛を終えた証書を確認して、改めて採取に向かいました。ちなみにお一人でしたよ。お仲間とは別行動みたいです」
長年受付をしている感のある女性が「不思議ですねぇ」と言いながら教えてくれた。
「採取の依頼って、近くのダンジョンですよね。一人で向かったんですか?」
「正確には、その周りの森ですね。うちの町のダンジョンは年に三ヶ月しか開放しないんで、今は入れません。でも、周りの森で珍しいものがとれるんですよ」
この町の近くには小さなダンジョンがある。普通なら攻略されてしまう規模だが、希少な鉱物が産出する関係で、維持管理されているというちょっと変わった場所だ。
「王都西部ダンジョンも、アレさえなければこんな風に維持管理されてたんでしょうか?」
「多分な。ヒンナルの判断がなきゃ、今でも維持されてたんじゃないかな」
俺達の関わったあのダンジョンは、最終的に鉱物の収益が凄まじいことになっていた。『暴走』の件さえなければ、ギルド本部は何としても維持管理したかったはずだ。
まあ、みんなで攻略してしまったわけだけど。代わりに裏世界樹ダンジョンが見つかったから良しとしてもらおう。……まだ収益どころか攻略も出来ていないけど。
「お二人共ごめんなさいねぇ。リジィさんに会うため、わざわざ来てくれたんでしょう?」
受付の方がすまなそうにしている。俺達がピーメイ村から来たと聞いて、事情を察してくれた。ギルド内では裏世界樹ダンジョンのことはそこそこ周知されているらしい。
「あの、採取で向かった先の場所を教えて貰えますか? 簡単な仕事なのに帰ってこないのが気になるんで見に行きます」
リジィ氏が受けたのは本当に簡単な依頼だ。だから、護衛との二重依頼にしたんだろうし、単独行動をとったのも理解できる。
「もしかして、ダンジョンに入っちゃったとかでしょうか?」
「ベテランの冒険者だから、そんな無茶はしないと思う。だけど、気になるな」
封鎖中のダンジョンに勝手に入ったら怒られるじゃすまない。冒険者でいられなくなる。リジィ氏の経歴を見たところ、そんなリスクをおかすようには思えない。
「助かるわ。実は誰かに様子を見に行って欲しかったんだけれど、依頼にするほどじゃないから、困ってたのよ」
そういいながら、受付さんは地図を取り出してくれた。
◯◯◯
クレニオンから歩いて一日ほどの町。そこから更に半日ほど歩いた先に、その小さなダンジョンはあった。周囲を森に囲まれた、慎ましいダンジョンだ。資料によると、ダンジョンが開放された期間だけ、周りに建物ができて賑やかになるらしい。
「ここも裏世界樹の影響でできたダンジョンなんでしょうか?」
「どうだろう。植物系じゃないっていうから可能性は低そうだな」
半日歩いて現地についた俺達は、封鎖されたダンジョンの入口を見てそんな話をしていた。
地下へと口を開ける階段……が存在するらしい入口は、頑丈そうな扉を閉めた上、鎖と巨大な錠で閉じられている。
「とりあえず、ダンジョンに入った形跡はないな」
「そうすると、森のどこかで遭難してるんでしょうか?」
「どうだろう。小さな森だからな……」
ここのダンジョンの規模に合わせるかのように、森の方も小さい。迷いやすい地形とも思えない。
「あとはうっかり野生の獣に襲われたとかだけれど……」
戦い慣れば冒険者でも、採取中に不意をうたれることはある。
ともかく、森の方を探さなきゃいけないな。
そう思って、周囲に目を向けたら、すぐに気になるものがあった。
「足跡があるな」
「え、あ、ほんとだ。人の通った跡ですね」
ついでに『発見者』が発動している感覚もある。これは案外幸運かもしれないな。
「イーファ、念の為警戒しながらいこう」
「はい!」
俺は長剣、イーファはハルバードを手に、慎重に森の中への探索を開始した。
それから十分後、あっさりリジィさんは見つかった。
「いやぁ、採取に来たはいいんだけれど、ちょっと気になるものを見つけてねぇ。それで、戻ろうかー、どうしようかなーと思って野営しているうちに、時間がたっちゃったんだ」
俺より少し年上に見える男性冒険者は、ゆったりとした口調でそう語る。周囲には、物凄く整った野営地つきで。
もしかして、野営を楽しんでた? いや、それよりも本題だ。
「気になるものですか?」
俺の問いかけに、リジィさんは少年のような屈託のない笑顔で答える。
「うん。魔物だよ。ちょっと面倒なやつなんだ」
なんか、表情とは裏腹に、不吉な言葉が口から出てきたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます