第98話:冒険者集め1

 ピーメイ村に接続する街道が良くなっている。昨年と比べて色々と変化があるが、その中でも特に喜ばしいことの一つだ。

 以前は昔の名残を感じさせる寂しい路面だったのが、狭いながらも石畳に変わっている。おかげで歩きやすい。それに昨年の後半に色々やっていた影響で、定期的に荷馬車がやってくるようになった。


 荷馬車の出発地点は隣のコブメイ村。ゴウラ達の元々の拠点であり、ピーメイ村よりも大分村らしい場所だ。俺達はここで乗合馬車に乗って一番近場の町であるクレニオンに向かった。


 そんな昨年と同じ道順で、俺とイーファは街道を歩いていた。


「ゴウラさんに聞いたんですが、コブメイ村もピーメイ村も畑を大きくしてるみたいです」

「ダンジョン攻略で人が増えることを見越してかな。……ちゃんと人が来るか心配になってきた」


 普通に考えて、ダンジョン攻略が始まれば人口が増える。冒険者だけでなく、それを支える商人も出入りするので経済活動が活発になる。それは、王都西部ダンジョンでも見てきたことだ。

 そうなると、人口十人程度のピーメイ村の畑では支えられない。近隣の村も含めて、増産体制に入っているわけだ。

 これを無駄にしないために、頑張らないとな。


「少なくとも、リナリーさんとルギッタさんは来てくれるんじゃないですか?」


 王都のダンジョン攻略でも一緒になった冒険者パーティ『光明一閃』の二人。俺の元同僚であり彼女達は、裏世界樹攻略に来てくれると約束もしてくれた。


「あの二人は優秀だからなぁ。王都のギルドが引き止めないか心配だ……いや、無理矢理にでもくるか」

「来ますよ。絶対」


 多分、ギルドの人が引き止めても強引に来る。そんな確信がある。


「でも、ちょっと時間はかかるだろうな。あっちに残した仕事があるって言ってたし」


 王都西部ダンジョン攻略後、リナリー達は王都内の依頼を受ける冒険者に戻った。冬の間、かなり活躍していたので、全部片付くまでもう少しかかるはずだ。


「リナリーさん達がいれば、評判になって沢山冒険者が来てくれそうですね!」

「そうだな。でも、攻略するなら、あとパーティー二つくらいは呼びたい」


 今、裏世界樹ダンジョン攻略支部にいる冒険者はゴウラ達だけ。彼らは村の雑用みたいな依頼をこなすのが得意なパーティーでダンジョン向きじゃない。実際、ゴウラもそう認識している。

 さすがにダンジョン慣れしていない冒険者を、裏世界樹なんていう曰く付きのダンジョンに放り込みたくない。交代とか救助も考えて、あと二パーティーは腕の立つ冒険者を見つけたい。


「人の確保だけを考えると、王都が懐かしくなるなぁ」

「でも、ヒンナルさんは、大分苦戦してましたよ?」

「あれはやりかたがな……」


 西部ダンジョンに人があまり集まらなかったのは、ヒンナルの初期対応が悪かったからだ。もうちょっと上手くやれば、王都という土地柄もあり人材が勝手にやってきたはず。

 いや、ここは俺も同じようなミスはしないように気をつけよう。初動で失敗するのは怖い。


「とにかく、人を探すなら、人のいるところだな」

「ですね。あ、本当に畑を広げてるんですね。コブメイ村のほうが先に町になっちゃいそうです」


 話ながら歩いているうちにコブメイ村が見えてきた。近くにある山の方まで畑を拡張中だ。

 土地的にはピーメイ村の方が平地があるんだけど、あっちは魔物が出たりするから畑を広げにくい。今後、コブメイ村が食糧供給源になるかもしれないな。


 そんなことを考えつつ、俺はイーファと一緒に馬車乗場に向かった。


◯◯◯


 クレニオンの町は、相変わらず賑やかだった。王都には及ばないけど、近くに大きな街道が繋がった影響は大きい。他国の人や見慣れない店などが増えて、以前来た時とちょっと違った印象を受けた。


 そんな町の一画にある冒険者ギルドの一室に俺とイーファはいた。


「お二人共、話は聞いております。できたら王都でのお話を聞かせて頂きたいのですが」

「先に仕事の話ですね」


 俺がそう言うと、そうですねと柔和な笑みを浮かべたのは、クレニオンの副ギルド長だ。『癒し手』の神痕持ちで、昨年の魔物討伐の時、とてもお世話になった方でもある。


「裏世界樹ダンジョンの件など、こちらでも事情を把握しております。正直、サズさん達が来るだろうと思っていました。ダンジョン攻略の経験がある冒険者をお探しですね?」


 さすがに話が早い。


「できれば、それなりのベテランが望ましいです。なにせ、相手が裏世界樹なんで」

「ふむ……やはりそうなりますか」


 うなずきつつも、副ギルド長が難しい顔をした。


「いい感じの人、いないんですか?」


 イーファの質問に、副ギルド長は更に難しい顔になる。


「……この地域は、景気の良いダンジョンが殆どない地域でして。ダンジョン攻略に長けた冒険者が少ない傾向にあるんです。大昔なら、沢山いたのでしょうが」


 この場合の大昔とは、世界樹がダンジョンとして稼働していた頃のことだろう。百年は前のことで今では見る影もない。経済活動としても、街道を使った交易の方が活発だしな。


「裏世界樹ダンジョンは大きな利益を生み出す可能性が高いです。誰か、良いパーティーを紹介して貰えませんか?」

「もちろん、我々としても裏世界樹攻略には期待しています。こちらを」


 そう言って机の上に置かれたのは、冒険者に関する資料だった。

 俺は素早く目を通す。書かれているのはとあるパーティーの経歴。


「半年前にこのあたりに来て、この辺りの採取とか害獣退治を主に……あれ? その前は東部の方で熱心にダンジョン攻略してますね」


 それも、実績を見た感じかなりのベテランだ。それが何故、この辺りで雑用みたいな依頼ばかりを?


「スランプ、というやつでしょうか。どうも、ダンジョン攻略中に何度か失敗して、気分を変えるためにこちらに来ているようです。腕は確かですし、ギルドとしてはダンジョン攻略をしていないのが勿体ない方々でして……」


 スランプか。怪我や不運が重なることもあるからな。わからない話じゃない。


「良ければ会って話してみていただけませんか? サズさん達と会えば、彼らもなにかが変わるかもしれません」


 副ギルド長の話を聞いた上で、俺はもう一度書類にじっくり目を通す。実績的には、ぜひ来て欲しい冒険者パーティーだ。クレニオンのギルドが面倒な人物を押し付けている、という可能性も一瞬浮かんだけれど、その可能性は低いだろう。そんな嫌がらせをする理由はこの人達にはない。


 隣のイーファを見る。すると、心得ましたとばかりに、笑顔で頷かれた。決まりだな。


「わかりました。一度話をさせてください」


 とにかく、まずは会ってみてからだな。


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