第97話:新支部長と課題

 ピーメイ村に春が来た。王都から帰る時期がそうなるように調整したというのはあるけれど、俺にとってはここで迎える二度目の春だ。

 昨年とは随分と状況が変わった。俺は冒険者と兼業になっているし、なんだかんだで王都に行ってダンジョン攻略に参加したり、もはや左遷なのか栄転なのか良くわからなくなっている。

 栄転。王都のギルドの人達はそんな言葉で俺を送り出してくれた。本当に色々あったな、本当に……。


「先輩、お茶です」

「ありがとう」


 その色々の内に、ピーメイ村で出会った後輩のことも含まれる。『怪力』の神痕を持つ、明るく元気な後輩、イーファ。彼女がいなければ、今の俺の立場はなかったといえる。


 そう、今の俺には立場がある。


「では、サズ先輩。支部長としての初会議をお願いします」

「支部長って……なんか慣れないよな」


 ピーメイ村西部、温泉の王の自宅近くに作られた、裏世界樹ダンジョン攻略支部。

 その建物の会議室で関係者を前に、俺は気の抜けた言葉を吐いていた。


「おいおい、お前がここのボスなんだからな。しっかりしてくれよ」


 呆れ顔で言ってきたのは冒険者代表として会議に参加しているゴウラだ。


「そうは言ってもな。帰って来ていきなり支部長なんて言われても、実感がないよ」


 冬の間に作られた攻略支部はなかなかしっかりした建物で、受付に小さな会議室、事務所に宿泊所まで完備している。食堂など煮炊きをする場所は、昨年の魔物討伐の際に作った施設を利用することができることもあり、冒険者ギルド支部としては既に稼働できる状況にある。また、不思議な温泉付きというのも見逃せない。


 設備が整っているなら後は人員とばかりに、帰ってきたばかりの俺は裏世界樹攻略ダンジョン支部の支部長に任命された。


「まあまあ、サズ君以上の適任者はいないんだよ。そこはわかっているだろ?」


 にこやかにそう言ったのはドレン課長だ。相変わらず穏やかな人で、仕事の方はしっかりする。

 ピーメイ村の冒険者ギルドは増員された。冬の間に補充された三名のギルド職員が、村の方のギルドで仕事をしている。ドレン課長はそちらの責任者。更にいうと、村長も兼ねていて、今後はそちらの方を重視するらしい。


 裏世界樹ダンジョン。俺とイーファが王都の皆やラーズさんと協力して見つけた新ダンジョンは、この温泉前の支部が中心となる。

 そこに、ダンジョン攻略の仕事を終えて帰ってきた俺とイーファが配置されるのは理解できる。勤続年数的に、俺が支部長代理に任命されるのも理屈では理解できている。


「俺もイーファも、王都でダンジョン攻略の業務に散々関わりましたし、冒険者も兼ねていますから」

「他に人もいないしね。サポートはしっかりするからよろしく頼むよ」

「はいっ、頑張ります!」


 元気よく返事をするイーファ。彼女としては、出勤先が家のすぐ側になったのは良いことだ。


「慣れない支部長なので色々とご迷惑をおかけしますが、全力を尽くします」

「ちゃんと休んでくださいね。無茶するとリナリーさんに怒られますよ?」


 いきなり釘を刺された。遺産装備や精霊魔法を手に入れたとはいえ、俺の『発見者』はあまり戦闘向きじゃない。無茶しないようにやっていきたい。


「それでサズ支部長。ここの方針はどうするんだ?」


 笑みを浮かべたゴウラに問われた。困ってる俺を見て楽しんでるな。まったく。いや、支部のスタートが見知った顔ばかりというのは気楽で助かる。少なくとも、方針や人間関係で揉めることはない。


「方針としては、裏世界樹ダンジョンの攻略に繰り出すことです。冒険者の支援をするため、情報や資材を集め、攻略支部らしくしていく。他と同じなんですが、問題があります」

「…………」


 俺の言葉にうなずきつつ、その場の全員が押し黙った。なので、俺は続きを話す。


「そもそも攻略してくれる冒険者がいません。現状だと、攻略すらできません」

「はい! 私と先輩とゴウラさん達でちょっと見てみるのはどうでしょう?」

「どうだろうな。サズ達はともかく、俺達はダンジョン攻略に慣れてねぇ。他二人に関しちゃ神痕もない。攻略パーティー一つで始めるのは危険じゃねぇか?」


 イーファの発言にゴウラが落ち着いた口調で反論する。


「俺もゴウラと同じ意見だ。今の攻略支部は『癒やし手』もいない。怪我をしたら大変なことになる。裏世界樹ダンジョンはかなりの規模である可能性もあることだし、慎重にいきたい」

「そうだね。ようやく見つけたからって焦って飛び込むことはないと思うよ。それじゃあ、ダンジョン攻略以外の活動をするということだね、サズ君」


 ドレン課長に頷いて、俺は今日のために用意してきた案を口にする。


「まずは、周辺の町などに行って、攻略する冒険者を募ります。そもそも、裏世界樹ダンジョンのことが全然広まっていませんから、人を集めましょう」


 ようやく発見された裏世界樹ダンジョンだけど、設備の確保でいっぱいいっぱい。広報的なことがまるでされていない。

 なので、支部長としての俺の初仕事は、まずは冒険者をここに呼ぶために四苦八苦することとなる。


「サズ先輩! 一緒に頑張りましょうね!」


 協力を申し出てくれる後輩の元気さが、一番の救いだな。


「ああ、まずは地道に一歩目を踏み出すのを目標に活動していこう」


 この日の会議は、これで終わった。次の会議にはもう少し具体的なことを話せるように頑張りたい。


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【後書き】

お久しぶりです。

少しですが書き溜めできたので更新です。


また、コミカライズ版の第2巻が5月10に発売となります。

ラーズさんが出て来て賑やかになる巻です。

手に取って頂けると大変ありがたいので宜しくお願い致します。

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