第96話:左遷先のはずだった場所で

 王都で冬を過ごし、春が来た。

 俺とイーファは予定通り、ピーメイ村に帰ることになった。荷物をまとめ、お土産と共に十日以上の旅路だ。

 驚いたことに、思ったよりも早く村に帰ることが出来た。


「先輩、ピーメイ村が! なんか、村みたいになってます!」

「イーファ、気持ちはわかるけど、元々、行政区分上は立派な村だよ」


 秋と冬、季節二つぶりに帰ってきたピーメイ村は様子が変わっていた。

 建物と人が増えている。いや、元々建物はいくらか残っていたんだけど、しっかり修繕されて、人の気配がある。

 いつも無人で過去の賑わいを偲ぶ存在だった広場にも人影がある。

 なにより変わったのはギルドだった。


「ただいま帰りました」

「ただいまです!」


 俺達が正面から入ると、一斉に複数の視線が注がれた。

 カウンターの向こうには数名の職員とドレン課長。室内には明らかな冒険者と思われるパーティーが複数。ゴウラ達じゃなく、初めて見る顔だ。


「二人ともお帰り。王都ではご苦労だったね」


 変わらない穏やかさで出迎えてくれたドレン課長に、イーファが興奮気味に話しかける。


「それよりも、村が変わっちゃってますけど、どうしたんですか!」

「ダンジョンが見つかったからね。税金が投入されたのさ。ここに来るまでに街道も直っていただろう?」

「ええ、おかげで早く戻って来れました」


 俺達が予定よりも早くピーメイ村に戻れたのは、街道が整備されていたからだ。百年以上前の全盛期とまではいかないが、足下が泥でぬかるまない程度にはしっかり整備されていた。

 クレニオンの町からピーメイ村だけでなく、道中いくつもそんな箇所があった。国として、ピーメイ村までの経路を再整備しつつあるようだ。


「裏世界樹ダンジョン攻略に備えて、色々と整えていてね。職員も新たに増えたし、色々やってくれる冒険者も滞在している」

「攻略前の下準備をしていたんですね」


 冒険者達を見ると、軽く会釈される。恐らく、彼らが冬の間色々な雑務をやってくれたんだろう。


「王様のところも変わっているよ。あそこが本格的な攻略支部になるからね」

「凄いです。賑やかになりますね!」

「それって、仕事が相当増えるってことですよね? ダンジョン前に村が増えるようなものですし」


 きっとダンジョン攻略以外にも冒険者の仕事はかなり増える。つまり、職員も多忙になるということだ。


「まあ、その辺りのことはおいおいね。今日の所は休んで貰おう。まだ歩けそうなら、王様のところに行って温泉にでも浸かっておいで。帰りは明後日でいいよ」

 一日休めと言われて俺たちは、喜んで王様のところに向かった。


○○○


 温泉の王の家にいったら、隣に立派な建物が建っていた。


「これ、なんだ……?」

「ピーメイ村冒険者ギルドの裏世界樹ダンジョン攻略支部みたいですよ! ほら、看板に書いてあります!」


 イーファの言うとおりのことが書いてある。

 温泉の王の家周辺も変わっていた。魔物調査討伐の時から更に増改築がされている。当時は突貫工事だったが、しっかり補強されていて、何年も使えそうな倉庫などができている。

 規模だけでいえば、去年俺が来たばかりの頃のピーメイ村よりも大きい。


「外が騒がしいと思ったら、二人だとはな」


 ドアを開けて温泉の王が現れた。


「王様がなんでギルドの建物に?」

「冬の間は我が管理していたのだ。近い内に二人が帰って来るのだから、掃除しておかないとな」


 そのまま流れるように、まあ、入りたまえと中に案内された。

 中は結構広く、見た目通りしっかりしたものだ。宿舎も兼ねているらしく、設備面も整っている。


「秋から冬にかけて、裏世界樹ダンジョン攻略のために建築された建物だ。作業には魔女殿も手を貸してくださったおかげで、手早く済んだ」

「ラーズさんが手伝ってくれたんですか?」

「うむ。あるものは全部使う感じで作業をしたぞ。ゴウラ達も冒険者というより、建設作業員のようだった」

「ゴウラさん……」


 ピーメイ村で冒険者として活動してくれている予定だったけど、まさか建設業に従事するとは思っていなかっただろう。


「さて、茶でも入れて王都の話を聞きたいところだが。大切なことを言わなければいけないな」


 振り返って王様は言う。


「おかえりイーファ。無事で良かった。サズ君も、色々と世話をかけたね」


 とても優しい声で、そう言ってくれた。


「ただいまです。王様! 王都で色々勉強してきました!」

「うむ。その成果はよく知っておる。おかげで家の周りが賑やかになりそうだ」

「わかってはいましたが、本格的に裏世界樹ダンジョン攻略が始まるんですね」

「うむ。ルグナ所長は大臣のコネまで使って色々とやっておるようだ。……なんだ、その嫌そうな顔は」

「オルジフ大臣はちょっと……怖いので」

「はいです」

「気にすることはない。二人はここで、ギルド職員として働くことになるだろう。大臣から面倒を押しつけられることはないと、ルグナ所長も言っていた」

「それは助かりますが。忙しくなるでしょうね」


 施設の規模も大きいし、大臣も絡んでいるなら、これから続々と冒険者が押し寄せるだろう。俺とイーファだけで対処しきれるか。ルグナ所長とドレン課長に人員の手配をお願いしないと。


「賑やかになりそうですね。先輩!」


 イーファがにこやかに言う。両親生存の可能性を知らされてから、少し様子が変わったが、相変わらずの元気さだ。

 この子にとっては、ここで仕事をし続けることが、希望に繋がる。


「そうだな。頑張ろう。そうだ、王様にもイーファの両親のことを伝えておかないと」

「む。何やら重要そうな話題のようだな。では、魔女殿も呼んで、ちゃんとお茶を用意しよう。イーファ、手伝ってくれ」

「はいです!」


 にこやかにイーファが王様と奥に消えていく。

 それを追いかけながら、新しい攻略支部内を見渡す。

 ここが次の俺の仕事場だ。

 

 左遷先だと思っていた場所で、まだしばらく俺は働かなきゃいけないようだ。

 正直、悪くない。



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今回で第二部完結となります。

実はこの辺りで物語を終わりにするつもりだったのですが、おかげさまで書籍化及びコミカライズ致しましたので、もう少し続きを考えてみようかと思います。


しばらく書き溜め致しますので少々お待ちください。

コミカライズの続刊が出た際に閑話などを投稿しようかと思っております。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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