第89話:5階中枢討伐(2)
「無理矢理孵化させてくるのは、本当に厄介だな!」
新たに戦場に現れた四体のデミウルフ。それが前線に加わり混乱をもたらす。
卵割りをしていた二人組はそのまま前線に加わりデミウルフを攻撃。こちらは予定通りではある。
問題は、一体のデミウルフが俺に向かって来ることだ。しっかり戦場を見ているな。
結構まずい状況だけど、不思議と落ち着いて観察できた。報告より小さいな。無理やり孵化させたということだろうか。
狭い室内、デミウルフの動きは直線的だ。俺は手早く精霊の矢を撃つ。距離はほぼ目の前だったので直撃。頭に当たって、土槍がそのまま体まで貫いて絶命させた。
小型とはいえ、俺が危険個体を一撃。精霊の矢は本当に凄い。
ちょっとくらいの危険個体の追加は予想していたし対処できる。『発見者』の調子もいい。
だが、それ以外の問題が発生しているとなると、話は別だ。
「卵が増えてる! 長期戦は不利だ!」
室内の水晶が増えている。さっきの咆哮は孵化を加速するだけじゃなく、これを増やすことも兼ねていたのか。長引けば長引くほど、こちらが不利になっていく。
とにかく増えた卵を潰しつつ、中枢をどうにかするしかない。クリスタルウルフはその巨体を生かした攻撃が中心だ。複数人で囲めば隙は生みやすい。
俺は精霊の矢で卵を潰しながら、前線に注意を払う。
「はあああああ!」
一際大きな叫びと共に、輝く剣閃。リナリーの「一閃」がクリスタルウルフの胴に直撃した。大きくふらつき、傷ついた体を晒したところに、イーファの追撃が入る。
「やああああ!」
今度は縦の一撃が首筋に直撃。ざっくりと切れ込みが入った。
流石に切断には至らない。採取されたクリスタルウルフの体毛は、金属のような硬さを持っていた。全身を覆う魔力の影響か並の鎧なんて目じゃない頑丈さだ。
だが、強力な攻撃を二度受けて、流石の中枢もたじろいだ。このまま押し込めるか。
そう思った時、再び咆哮が室内に響いた。今度は周辺の卵に影響は無い。かわりにクリスタルウルフの特徴である両肩の水晶体が輝き始める。
「っ! まずい! みんな、防御するんだ!」
俺は慌てて遺産装備の盾を構える。異常に気づいた冒険者達も、それぞれ防御態勢に入った。
次の瞬間、水晶体から無数の光が飛び出した。
魔力の塊だ。速度はそれほどじゃないけど、当たるとかなりの衝撃が体を打つ。一種の攻撃魔法。
俺の持つ遺産装備は魔力の攻撃に強い。おかげで、簡単にはじき返すことが出来た。
しかし、前衛はそうはいかなかった。いきなり無差別かつ広範囲の攻撃を受けて、全員がなんらかの傷を負った。
光の乱舞が終わった後、傷ついた冒険者達とクリスタルウルフは睨み合いの状態になってた。デミウルフがすぐ倒されたのが幸いだった。とはいえ、周辺の卵だっていつ孵化してもおかしくない。
「あの両肩の水晶を砕かないと……」
睨み合いは一瞬で終わり、目の前で再び戦いが始まった。冒険者側の動きは明らかに悪くなっている。淡く輝く両肩の水晶、あれを潰す必要がある。位置的にはなんとか狙えそうだ。
落ち着いて、精霊の矢を弓につがえる。攻撃は無難に土の精霊。威力は火の精霊が一番なんだけど、味方を巻き込みかねないので作っていない。
戦いは、リナリーが前に出て牽制し、周りが攻撃という形になっている。あまり長く持ちそうにない。
だが、リナリーの動きの癖を知っているおかげか、俺はクリスタルウルフの動きを追いやすくなった。
「今だ!」
精霊の矢を飛ばす。狙い違わず、右肩に命中。
だが、矢じりが光り、土槍が生まれたと思ったら崩れ落ちた。
「嘘だろ……。とんでもない魔力の塊なのかあれ……」
一瞬見えた、精霊の矢が発動した瞬間、水晶の中から溢れた魔力に吹き飛ばされたのが。
あれを貫くにはもっと強い魔法の矢が必要だ。でも、これ以上強い精霊魔法なんて俺には使えない。いっそ火の精霊を使ってみるか?
ふと、あることを思いついいた。俺は入り口の方へ振り返った。今なら魔法の専門家がいる。
入り口付近に向かって叫ぶ。
「エトワさん! この場で魔女の力を借りるのは大丈夫ですか!?」
「ん? えーと……」
魔女が直接手出しはできないけど、力を借りることは可能なはずだ。かつてラーズさんに力を貸してもらい、氷の精霊を作ってもらったことがある。
現場が目の前という違いはあるけど、これなら大丈夫なのでは?
「ちょっとずるい気がするけど、大丈夫かな。相談を受けて力を貸すだけだもんね。もちろん、内容によるけど」
にっこりと返事が来た。
ちょっとずるいかもしれないけど、突破口が開けるかも知れない。
俺は急いで、ラーズさんの元に向かった。
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