第88話:5階中枢討伐(1)

 中枢討伐当日は静かな朝だった。

 冒険者達は入念に準備を整えて、予定通り早朝に出発。

 それから順調にダンジョン内部を進み、早い段階で中枢部屋に到着した。

 消耗は殆ど無い。

 これはヒンナルが手配した冒険者達が事前に経路を確保してくれていたためだ。ここにきて彼のコネが役立っていた。


「着いたわ。入る前に確認するわよ。前衛がクリスタルウルフを抑えてる間に、周りの卵をできるだけ潰すこと。本格的な攻撃はそれから」


 今回の討伐編成のリーダーになったリナリーが険しい表情で中枢部屋の前で討伐隊に確認した。俺を含めた周りの冒険者は無言で頷く。

 戦いに加わっているのは全部で十人ほどだ。支部に登録しているベテラン冒険者はもっと沢山いるんだけど、部屋の広さ的にこれが限界だった。ただ、全員の腕が良いことは、俺もよく知っている。


「わたしは後ろから自衛させてもらうよ。アドバイスくらいしかできないけれど、ごめんね」


 エトワさんが申し訳なさそうに言う。実はすでに精霊の矢を作るのを手伝ってもらっているので、十分ありがたい存在だ。何より、ここで見てもらうのが一番大事な仕事でもある。


「中枢を倒した時、ダンジョンにも何かの変化があるはずです。お願いしますね」

「任せて。今日のためにラーズから観察用の新しい魔法をもらっておいたから」


 なんでもダンジョン分析用の魔法をラーズさんが作ってくれたらしい。あの人、本当に凄い魔女なんだな。今度会ったらしっかりお礼を言わないと。


「サズは後ろからの援護に集中して。変化があったらすぐ教えること」

「わかった。それと、危険と判断したら撤退だな」


 わかってるじゃない、とばかりにリナリーが頷く。


「じゃ、行くわよ。イーファはあたしと一緒にね」

「はいっ。頑張りますっ」


 それからすぐ、クリスタルウルフ討伐隊は部屋に突入した。


 室内の様子は以前と同じだ。水晶に照らされた自然洞窟。卵の数は減っているけど、景色に影響を与えるほどじゃない。

 そして、クリスタルウルフはしっかりこちらを睨んでいた。連日、様子見で攻撃を仕掛けた結果、警戒しているようだ。


「光の精霊よ、あたりを照らしてくれ」


 まず、光の精霊を生み出して室内を明るくする。これで内部の様子がよりはっきりする。意外と足下悪いからな。


「よし、前に出るぞ!」


 盾を構えた冒険者達が前に出た。俺は精霊の矢を用意。まずは中枢を押さえつつ、周囲の卵を潰す作戦だ。


「サズ、怪我をしたらすぐ撤退するのよ」

「無理しちゃダメですよ」


 リナリーとイーファもこちらに注意を促しつつ、中枢へと挑んでいった。


 すぐに雷めいた空気を震わす咆哮が響く。前衛が接敵した証拠だ。

 同時に周辺の卵、二〇くらいあるそれが輝き始めた。

 放っておくと、クリスタルウルフが任意のタイミングで孵化させる。厄介な存在だ。


「よし、我々も卵潰しに入るぞ」


 卵を潰すのは、二人組の冒険者と俺の役割だ。できるだけ手早く済ませたい。


「私はここで結界張ってるからねー」


 入り口近くにいたエトワさんが魔法を使って光り始めた。あの人は、このままじっくり戦いを見守ってもらおう。


「向こうに回り込む。サズ君は見える範囲をやってくれ」

「はい」


 指示を受けて、すぐに精霊の矢を水晶の卵めがけて発射。とりあえず、目の前、少し先にあるやつに矢が突き刺さった。

 すぐに土の槍が飛び出して卵を砕く。魔物の卵といえど見た目は水晶だ。綺麗な輝きをチラつかせながら崩れ、最後に青白い魔力の残滓を残す様子は、幻想的ですらある。


「よし、この分ならリナリー達の援護に回れそうだな」


 二人組も、中枢との戦闘から距離をとりつつ、いいペースで潰している。俺もクリスタルウルフとの距離に気をつけながら、次々に精霊の矢を放つ。

 早くも半分くらい潰したところで前衛に変化が起きた。


「なんだ? 動きを止めてる?」


 時々気にしているんだけど、今はリナリーとイーファを中心に攻撃を仕掛けて手傷を負わせていたところだ。

 それが、クリスタルウルフが下がって距離取って、一度停滞していた。


「――――ッ!」


 高音の咆哮が、部屋全体に響いた。耳を貫く、不思議な圧力を持った音だ。

 効果はすぐに現われた。周囲の水晶が活性化して、輝き、中身が出て来た。

 一瞬にして、デミウルフが四体誕生し戦場に追加された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る