第87話:討伐準備
予定通り、中枢相手にベテラン冒険者による様子見が行われた。
今回は俺も同行した。前に出ないという条件付きで。それと、精霊の矢は結構お金がかかるので、あんまり使いたくないので。
地道な作業を繰り返して、いくつかわかったことがある。
まず、中枢の中央付近、水晶の卵が並んでいるところに入るとクリスタルウルフが攻撃してくることがわかった。戦うと普通に早くて強くて手強い。
また、周囲の水晶の卵からは小型の眷属のような狼の魔物が出てくることが判明。クリスタルウルフが多数を相手にした場合、能動的に孵化させられるようだ。
デミウルフと呼称されたその魔物が、暴走すれば町に溢れることになるだろう。
強さとしては弱めの危険個体くらいなんだが、数が多いととにかく厄介だ。
また、周囲の水晶は毎日一から三個のペースで増えており、既に数は五十を超えている。
水晶の卵を攻撃すると中枢は物凄い勢いで襲いかかってくるが、部屋からは出てこない。
卵は一撃で破壊できればどうにかなる。リナリーやイーファを始めとした強力な攻撃をできる冒険者がなるべく減らすしかない。
また、孵化したデミウルフは部屋から出て周辺を守る危険個体になるので、あえて出現させて外で倒す作業を行った。この辺り、クラウンリザードの時と同じだ。
それらの情報を集めつつ、クリスタルウルフを討伐する算段を立てるまで三十日かかった。その間、ダンジョン自体の収益は上がり、黒字は確定だ。
「エトワさん、なんで討伐をする日がわかったんですか?」
「んー、そろそろかなーって思ったのよ」
俺達の目の前にはエトワさんがいた。討伐の日付が決まり、相談しようと思っていたら、ふらっと現われた。
王都の魔女は最初に会った時と同じ魔女姿で、手には大きな杖を持っている。金属製で、先端部分に複雑な装飾が施された、一目で並のものでは無いのがわかるものだ。
「ダンジョン前って面白いのねー。色々置いてあって目移りしちゃった」
エトワさんの見た目は目立つので、中の会議室で応対していた。とはいえ、ここに来る前に結構目立ってたけど、そのくらいはいいらしい。
「攻略が進むうちに色々増えたんですよ。賑やかになりました」
「それが無くなっちゃうのはちょっと残念ね。でも、魔女は約束を守るので、しっかり働きます」
しばらく話していたら、コレットさんがやってきた。
こんにちは、と挨拶してから、仕事の顔で話が始まる。
「ギルド側の中枢討伐の準備は整っています。エトワ様の方はいかがでしょうか?」
「もちろん。いつでも平気だよ。ただ、魔女の約束事で基本自衛くらいしかできないから、そこはお願いね。あ、死にそうな人を助けるくらいのサービスはしても平気かな?」
これ以上ないくらい有り難いサービスだ。感謝しか無い。
「承知致しました。では、詳しい打ち合わせも含めて三日後の決行でよろしいでしょうか?」
「はいはい。時間が空くと卵増えちゃうもんね。私はサズ君の手伝いで魔法的な分析をするだけだから、そちらの都合に合わせるよ」
この戦いで、俺達が王都まで来た仕事の結果が出る。ダンジョン攻略以外にも、多くの意味がある戦いだ。
「ありがとうございます。こんな不確かなことに付き合ってもらって」
「いいのいいの。むしろ、二人のこと、ラーズが心配してたから近くで見れて良かったくらい」
「じゃあ、ラーズさんにはお土産沢山買っていかないとですね」
「そうそう。あの子、甘い物好きだから、宜しくねー」
とりあえず、ここにはいない魔女に感謝をしておいた。
それから三日後、予定通り中枢討伐の日が来た。
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