第86話:中枢討伐の打ち合わせ

 アストリウム王国のギルド職員とはいえ、年に何度も中枢討伐に関わる者はそう多くない。それは稼働中のダンジョンの多くが資源を確保するために中枢討伐を控えていたり、深すぎて到達できていないためだ。

 ピーメイ村での突発的な中枢発生と、王都西部ダンジョンの暴走のある危険を伴った中枢。どちらも討伐するべき条件が揃っているのは珍しい。


「さて、中枢討伐を決めたはいいけれど、どうしたものかしら?」


 コレットさんが困った様子で言った。

 俺、コレットさん、リナリー、イーファの四人は、集まり慣れたギルドの攻略支部の会議室で打ち合わせをしていた。

 ヒンナルから「自分が責任を取るから中枢討伐の方針を決めてくれ」と頼まれて集まっている。

 驚いたことに俺達に手を貸してくれた彼だが、今も自分も出来ることをやるとばかりに各所に連絡へ走ってなにかやっている。人は変わるもんだな。


 コレットさんはこの場のギルド職員の中で一番役職が上だが、これまで中枢討伐に関わった経験はない。それどころか、ダンジョンの無い王都勤務で町の事件の依頼を回していた人なので実は専門外なのだ。ひたすら物知りで優秀なのである。


「ここは中枢に関わったことのある三人の意見を優先したいと思ってるんだけど」


 とはいえ、ベテランなのもあって、これまで立派に回して来れていたんだけどな。


「ピーメイ村の時は、中枢のクラウンリザードのお供を減らしてから討伐しましたけれど……」

「できるの? なんか、下手に刺激したら一斉に卵が孵って暴走が始まらないか心配なんだけれど」


 イーファとリナリーの心配はもっともだ。

 俺は資料室から貰った紙束を机の上におく。


「資料室の情報によると、可能性は低いらしい。むしろ、中枢部屋の卵が必要以上に増えた場合に暴走が起きるケースが多いとあるな」

「じゃあ、なにもしてない今の方が危ないってことじゃない」

「それも全部推測だからな、確かめなきゃならない」

「つまり、調査しなきゃいけないってことね。ベテラン達に少しずつ接触してもらいましょう」


 コレットさんがメモをしながら言う。さすが話が早い。


「まずは、中枢と戦闘に入った時、どんな動きをするかを確認しないといけないかな。討伐方法は、それに合わせて考えないと。倒すときにはエトワさんにも同行して貰いたいし」

「このダンジョンが世界樹と関係あるかの確認ですね、できるんでしょうか?」

「魔女は俺達よりも多くのものが見えるはずだから、いてくれるだけでも違うはずだよ」


 二つのダンジョンが混ざり合っているなら、そのうちの一つ、世界樹の根を見つけてくれるかもしれない。そこはお任せするしかないな。


「魔女に関しては信じるしかないわね。あとは、暴走しそうになった時だけれど、サズ、またあれをやれる自信はある?」


 真剣な問いかけに、俺は真面目に考えて答えた。


「無い。あれは偶然だし。もう一度できるって自信は無いよ」


 その答えリナリーが安心した様子になる。


「あの、先輩は前になにかしたんですか?」


 この場で事情を知らないのはイーファだけか。まあ、話すことでもなかったからな。


「俺の『発見者』が力を失った時のことだ。暴走を阻止するため、神痕が今までに無いくらい力を発揮して……ダンジョンの弱点が見えたんだよ」

「えっ、そんなものあるんですか?」

「わからない。ただ、俺の見えた場所をリナリーが斬ったら、暴走は止まり、ダンジョンが崩壊した。だから、弱点とか、核とか、そんなものを見たんじゃないかと思う」


 あの時のことは、今でもよくわかっていない。ギルド側からも、資料室からも情報不足ではっきりと答えがでなかった。

 ただ、目の前で暴走しようとする中枢と大量の卵を見た時、俺の神痕から強烈な力が流れ込み、両目が痛いくらい熱くなって、ダンジョンの中心ともいえる箇所を指し示した。


「もしかしたら、ダンジョンには構造や魔物を生み出す、中心部というか、起点みたいのがあるのかもしれないな」

「サズ君の『発見者』はそれが見えたってことね。再現できるなら、切り札になるんだけれど」

「絶対やらせないわよ。あの後、大変だったんだから」


 その後、俺は力を失いギルド職員へ転職。「光明一閃」も半解散状態になった。リナリーとしても良い思い出はないだろう。そういえば、あの時も大怪我したなぁ。


「では、極力サズ君が今のままでいられるように頑張るということで良いかしら?」


 その場の全員が頷く。


「先輩が無理しないでいいように頑張ります」

「そうね。あたし達で倒してしまいましょう」


 イーファがぐっと腕に力を込めて言った。

 今はあの時以上に頼もしい仲間がいるし、俺も精霊魔法も使える。無茶するようなことにはならないはずだ。


「まずは情報だな。今度は怪我もなく帰ってきたい」

「当たり前でしょ。あんた、どれだけイーファが心配したと思ってんの」

「そうですよ。今度こそ、後ろから援護してくださいね」


 冗談交じりで言ったら、なんか普通に怒られてしまった。 

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