第83話:懸念
俺の予想通り、五階中枢についての攻略については情報を集めつつの様子見。つまりは現状維持になった。
「会議の内容は思ったとおりでした。しばらくはこのままですね」
「終わるの早かったものね。仕方ないわよ」
攻略支部の休憩室。コレットさんとイーファを相手に、俺はついこの前参加した会議について話していた。
議題は当然、五階中枢の討伐についてだ。ヒンナルは約束通り話を通してくれていて、ちゃんと俺も呼んでくれた。
ただ、結果の方は振るわなかった。これは仕方ないとしかいえないな。
「冒険者の皆さんは、ここは実入りが良くなったって最近は喜んでますね」
「それは良いことなんだけどな……」
やはり、あの水晶の卵が気になる。だけど、俺一人の報告では圧倒的に情報が足りない。
「やっぱりサズ君としては卵? らしきものが気になるわけね」
「ええ、もう少し上を説得できる材料を増やさないと……」
実はそれについては見当がついている。
王都の魔女、エトワさんだ。魔法使いであるあの人に、五階の中枢部屋を見て貰うのが一番早い。全てが俺の杞憂か、それとも何かあるのか、判断してくれるだろう。
「む、先輩、なにか思いついてる顔してますよ。良ければ話してください」
「聞いていいことなら、聞けるわよ」
表情だけで見抜かれていた。『発見者』でもないのに、イーファも鋭くなったな。まあ、コレットさんも魔女のことは知っているから、話してもいいだろう。
「魔女、魔法使いの人に中枢部屋を見て貰えば早いかなって」
「なるほど。たしかにそうですね」
「でも、それって難しいのよね。たしか、魔女って余程のことがないとダンジョンに潜らないって聞いた事あるわよ」
さすが、長いことギルド職員をやっているだけあるな。コレットさんは色々知っている。
魔法使いの中でも、とりわけ魔女はダンジョンに関わりたがらない。その強大な力を使えばダンジョンにおいても有用だけれど、目立つことを嫌う彼女たちは自ら関わろうとしないのだ。あるいは、他にも重大な理由があるのかも知れない。
「そうなんですよ。仮に魔女に手伝って貰えるあてがあっても、上手く説得する理由が必要でして」
「サズ君が難しいって言うなら、その案はできたらでいいわ」
暗にいけそうならやれと言われた。一応、考えはある。
「今回は資料室も調べるのにも時間がかかってますし。あとできるのは報告に目を配るくらいですね」
いつもは凄い早さと精度で情報をまとめてくれる資料室も今回は時間がかかっている。中枢部屋という特殊な環境のせいだろうか。あるいは、こちらからの情報不足かもしれない。
「実際にダンジョンに潜ってるイーファさんはどう? なにか変わったところない?」
「うーん。そうですねぇ……そういえば、リナリーさんと話してたんですが、水晶が増えてる気がするんですよね」
何気ないイーファの一言だったけど、物凄く気になった。初耳だ。
「詳しく聞かせてくれないか? どの辺りの水晶が増えていた?」
横のコレットさんがメモを取り始めている。有り難い。
「どの辺りかというと、全体的に? 地面とか天井から出てる水晶が増えてるし。中枢部屋もちょっと大きな水晶が増えてる気がするんですよ」
これは重要な情報だ。まだ報告書にもあがっていない。あからさまに増えているわけじゃないんだろう。潜っている者だけが気づいている、ちょっとした違和感だ。
「通常のダンジョンでは、鉱石なんかを採取できる場所で再生するくらいで、そこらじゅうで鉱物が増えることはない」
「そうね。私も聞いたことないわね」
「じゃあ、これはどういう状況なんでしょう?」
少しずつ増える水晶か……。なんだろうな、変化するダンジョンなんだろうか。あるいは成長? 成長か……。
そういえば、そもそもこのダンジョンは植物系と鉱物系が混ざったものだった。
もしかすると……。
「もしかすると、あの水晶も植物なんじゃないか?」
「でも先輩。あれは明らかに水晶ですよ。ほら、精霊の矢にも使えています」
そう、たしかに鉱物であるには違いない。説明を変えないといけないな。
「つまりサズ君は、これまでと同じく植物系の特性を持ったダンジョンのままだって言いたいのね。植物の蔓のかわりに、鉱物が成長しているみたいな」
「なるほど」
コレットさんがわかりやすい説明をしてくれると、イーファがぽんと手を叩いて納得した。
「そうです。あくまで推測ですけれど。ダンジョンの特徴自体は変わっていないと思えば、結構説得力があるかな、と」
「まず、本当に五階の水晶が増えてるか確認しないとね」
「私、しっかり確認します。他の冒険者さんにも積極的に報告して貰いましょう」
「俺はこの推測を資料室に相談してみます。なにかヒントをくれるかもしれない」
よし、一応、次の方針が決まったぞ。あとは上手くエトワさんに接触できれば、魔法使い視点の情報も貰えるかも知れない。
情報集めをするのは変わらないけど、漠然とした方向を見ながらするよりは全然いい。
「五階に関する報告書も見返してみましょう。ちょっと忙しくなるけれど、サズ君の懸念は私も気になるからね」
コレットさんも協力してくれることになり。俺達なりに業務の範囲内で動き続けることが決定した。
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