第82話:一段落

 西部ダンジョン五階の中枢への懸念はすぐに報告した。

 ヒンナルと、念のため近くの西部支部にも報告書は提出しておくことにした。この事態は、あくまで支部である俺達だけで抱えていいことじゃない。

 ただ、今回のことはあくまで俺の懸念にすぎない。最悪、握りつぶされても文句はいえない。

 そう思っていたら、驚いたことにヒンナルが会議にかけると約束してくれた。


 会議ですぐに中枢討伐の話がまとまるとは限らない、それに上手く話が進んでも中枢を倒すには時間がかかるだろう。

 それでも、できるだけのことはしておきたい。

 俺は資料室に調査を依頼し、自分でもこれまでの五階攻略の情報を再度まとめる作業に入った。


 こうして振り返ると少ないけど、仕事の合間にこなしたので三日ほどかかった。

 そして、一段落して、疲れた頃にちょうど休日がきた。


 晴れた休日、俺は宿舎近くの喫茶店でのんびりしていた。

 王都西部の通り沿いに作られた新しめの喫茶店。ここは最近のお気に入りだ。

 落ち着いたたたずまいで、値段はそれなりだけど料理が多い。最初、軽食のつもりでサンドウィッチを頼んだら、すごくでかいのが出て驚いた。


 ダンジョン近くの雑多な感じも嫌いじゃないけど、町中の落ち着いた感じも悪くない。

 最近、ようやくゆったりとした時間の使い方をようやく覚えた気がする。これもピーメイ村にいたおかげかもしれないな。この店、いつも程よく空いているのも良い感じだ。

 お茶を楽しみつつ、穏やかな気持ちでいたら、聞き覚えのある声が聞こえた。


「あら、サズじゃない、なにしてるの?」


 見れば、リナリーとイーファが目の前にいた。

 二人はそのまま自然に目の前の席に座った。


「こんにちは、先輩もお休みですか?」


 にこやかなイーファは明るい色の私服姿だ。どうやら二人も休日らしい。いや、イーファの休日に合わせて、リナリーが休んだという感じだろう。リナリーの方は動きやすそうな落ち着いた色合いの服を着ている。スラッとしているから、何を着ても様になるな。


「休みだから、少しゆっくりしてただけだよ。することもないしな」

「相変わらずね。ま、仕事してるよりはいいけど」

「二人はどこかでかけてたのか?」

「はい。お買い物で歩き回って疲れたので、ここで軽く食べていこうということになりました」

「軽く……そうだな」

「余計なことを言わなかったのは評価するわ」


 そう言ってリナリー達は注文をした。すぐにお茶と結構な量の料理がやってきて、二人が食欲を満足させるまで、俺は静かに見守ることにした。


「それで、五階の中枢のほうはどう?」


 食事が終わると、今度はいきなり仕事の話をされた。


「報告して資料室に調査を依頼した。今はそれだけだな」

「そうじゃなくて、あんたは今後どうなると思ってるの?」

「多分、しばらく様子見だな。あれが暴走に繋がるっていう材料が少なすぎる」

「やっぱりそうなるのね。……どうにかできないかしら」

「リナリーさんはすぐにでも中枢を倒すべきって考えてるんですね」

「そりゃそうよ、ここは王都よ。魔物が溢れだしたら大変どころじゃすまないじゃない」


 リナリーのいうとおりだ。ダンジョンから魔物が溢れ出れば、夥しい数の死傷者がでるだろう。下手をすれば国が傾く。

 しかし、今のところ状況証拠すらなく、俺の推測だけでしかないのも事実だ。経済的な理由もあって、ギルドはすぐに中枢討伐の判断はしないだろう。


「サズ先輩もやっぱりすぐに討伐すべきだと思ってるんですか?」


 その問いかけに、俺は頷いた。


「気持ちとしては、すぐにでも討伐をしたい。俺一人で倒せるなら、やってるんだけどな」


 ダンジョンは王国の産業。国が存続する上で必要だと割り切ってはいる。でも、暴走だけは駄目だ。何としても食い止めなければならない。

 ただ俺にそこまでの力はない。その事実は、昔も今も変わらないのが残念だ。


「……サズ、自分一人でどうにかしようとするのはやめなさいよ」

「わかってるよ」

「みんなで頑張りましょうっ」


 リナリーに釘を刺されるまでもない。俺にとれる選択肢は多くないんだ。できるだけ、確実に仕事を進めよう。


 とりあえず当面は中枢の様子を見つつやっていこうと話した後、仕事の話はこれで終わりとなり、それからは二人の王都で安くてたくさん出る料理店の話を聞き続けるはめになった。

 どうも、今日の買い物というのは食べ歩きのことだったらしい。

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