第76話:サズのともだち
四階攻略の結果、ダンジョン攻略はより盛況になり、攻略支部近くも賑やかになった。
簡素だがすぐできる建物が増え、飲み食いする場所にも困らなくなったのはありがたい。
リナリー達に説教された日、業務を終えた俺はそのうちの一店で夕食をとることにした。
「そうか、それは大変だったな、サズ。酒飲むか? いや、こっちの肉でも食うか?」
「俺のチーズ少し分けてやるよ、元気出せよ」
俺はそこの皆に慰められていた。
イーファをはじめ女性と仕事をすることが多いように見られることが多い俺だけど、実際は意外とそうではない。受付業務で知り合ったり、顔見知りの冒険者もいる。
こんな風に、たまに帰りがけに彼らと飲食を共にするのは珍しいことじゃない。
ここに来た当初は、リナリーやイーファと一緒にいることで、一言いってくる男性冒険者もいるにはいたが、次第にそう言うのは減っていった。
「リナリーとコレットさん、おっかないからなぁ。イーファちゃんも、普段明るい分、怒ると怖そうだ」
「たしかに……。明るく容赦ないこと言ってきそうだもんなぁ」
「俺も前組んだ時、リナリーさんに怒られたわ。あれ怖かったなぁ……」
一緒に飲んでいた男性陣が口々に経験を語る。こういう時は俺も少しだけ酒を口にすることにしている。泥酔しなければ、悪いものじゃない。
リナリーとコレットさんに関しては、本人達の性格がその……ちょっと強気なところもあって、男性冒険者から恐れられている。感情が表に出やすいリナリーよりも、静かに怒るコレットさんに皆、怯えてる感じだ。
イーファも当初はあの性格もあって可愛がられていたんだけど、戦いぶりを何度か目撃されてから、変な声かけをする者が減った。リナリーの訓練を受けるようになってからは、彼女と同等の扱いをされるようになったようだ。
そのため、この西部ダンジョン攻略支部において、もっとも穏やかで男性陣から指示されているのは『癒やし手』のルギッタだ。
穏やかな性格と、その能力もあって人気が高い。そして「ルギッタさんに余計な負担かけんなよ」という意識が共有され、極力余計なちょっかいをかけない暗黙のルールすら生み出されているのだ。
実は、ルギッタにはちゃんと彼氏がいるんだが、俺はそれを喋らないことに決めている。酒を飲みながら「彼女は癒やしの天使だ……」とか言ってる冒険者を見ると、真実を告げることが、時に残酷な刃になることを意識せずにはいられないからだ。
「まあなんだ。サズが同行禁止になるのはいいんだよ。職員なんだし、俺達の獲物持ってかれちまうしな」
「そうだな。これ以上大怪我されちゃリナリーさん達もたまらんだろうよ」
「……そうですね」
俺の同行禁止については、彼らも同意見のようだった。大怪我して寝込んでいる間、ちょっと心配されていたらしい。それに、職員が攻略を進めることはあまり歓迎されないものだ。俺も冒険者だったから気持ちはよくわかる。自分達の稼ぎをギルドが横から持っていくのはよろしくない。
「それはそうとよ、ヒンナルの奴は景気が良くなって大分顔色良くなったよな。この前なんか、爽やかに挨拶を返されたぜ」
「ま、こっちも儲けさせてもらってるからな」
話題は自然と俺を慰める流れから、ダンジョン攻略のことになった。
彼らの言葉の通り、五階攻略が始まってから、ヒンナルの機嫌がとても良い。
それはもちろん、新階層から算出する数々の鉱石が結構な収益を上げているからだ。
これまで赤字を垂れ流していたダンジョン攻略に黒字転換の目が出てきたのだから、それは気分がいいだろう。
「儲かるのはいいけど、危険はないんですか? 魔物が結構強くなってると聞きますけど」
「そりゃ、ダンジョン攻略に危険は付きものだから仕方ねぇだろうがよ」
当たり前だろとばかりに答えが返ってきた。それもそうか。じゃあ、質問の仕方を変えた方がいいな。
「危険なことをしている冒険者はいますか?」
冒険者にも色々いる。ダンジョン内に入ればギルドの目も届かない。こうして冒険者と親交を持つのは、情報を得る上で大事なことだ。
質問に答えてくれたのは、ずっと静かに鶏肉の焦げ目をより分けていた冒険者だった。
「……若いパーティーがちょっと危なっかしいな。誰も神痕を持ってないから、雑用で同行でついてくるんだけど、たまに無理してやがる」
「無理、ですか?」
「自分達だけで四階で採取した後、こっそり五階に入ってるんだよ。同行は下見だな」
その冒険者パーティーなら見当がついた。ヒンナルと親交のある一団だ。礼儀正しいが上昇志向があって、少々危なっかしいとギルド内でも話題になったことがある。
なにより良くないのが誰も神痕を持っていないということだ。
神痕のあるなしは、冒険者としての一生を大きく左右する。この西部ダンジョンにしても四階以降は神痕がなければ攻略は推奨されていない。
ここで話をややこしくしてくるのが、神痕を得るためにはダンジョン内で戦う必要があり、危険な状況ほど、その可能性が高くなると言う統計的な事実だ。
つまり、未熟な新人が危険をおかす理由は十分にある。
「ギルドとしては注意を促すことしかできませんね……」
残念ながら、そこが限界だ。いちいちダンジョンに潜った後の冒険者の動向まで事細かに監視するのは不可能なんだから。
「それよりもサズよ。自分は大丈夫なのかい? ダンジョンに潜れなくて困るんじゃ無いのか?」
また話が俺に戻ってきた。心配してくれているようだけど、実はこれはそれほど問題じゃ無かったりする。
「いや、問題ないんですよ。そもそも俺は職員ですからね。それに、ダンジョンに入るなら情報が出そろってからの方が色々助かりますし」
「結局潜るつもりなんじゃねぇか。また怒られるぞ」
そう苦笑しつつ、冒険者の一人が俺の前にエールの入った杯を置いてくれた。馴染みの人物で、今でも俺を冒険者扱いしてくれる人だ。
「あんまり目立った出番はいらないと思ってはいるんですけどね」
俺の目的は世界樹とダンジョンの関係性の証明だ。そのためには情報を集め、最終的には確認のためにまたダンジョンに潜る必要が出てくるだろう。
できれば、今度は安全にいきたい。大怪我は本当に辛いんで……。怒られるし。
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一応、サズさんも女性陣とばかり関わっているわけではないのです。
というお話です。
『左遷されたギルド職員』、コミカライズ一巻発売中です。宜しくお願い致します。
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