第75話:反省会
今、俺は非常に居心地が悪い場所にいる。
リナリー、イーファ、コレットさんの三人がいるギルドの会議室。使い慣れた部屋のはずだが、テーブル越しの無言の女性陣から伝わる威圧感で空気が重い。
今から俺はこの三人に説教される。
四階中枢攻略後、気づいたらベッドの上だった。全身の打撲と酷い火傷を負った右腕の治療は完了していた。
ルギッタの『癒やし手』のおかげだ。文字通りダンジョン近くの治療施設に担ぎ込まれ、そこで二日ほど寝ていたとのこと。
傷は治ったが安静にした方がいいということで三日ほど休んで出勤したら、いきなりここに呼ばれた。
三人の中で、特にリナリーの顔が凄い。怒りを隠そうともしない。感情の起伏が激しく、表情に出やすい彼女だが、これほどまでのは珍しい。
「サズ、あんた、あたし達が怒ってるってわかってる?」
「一応は、わかっているつもりだ」
「そう……ならいいわ」
そういって無言になると、手元にあった水差しから大きめの杯に水を入れて一気飲み。
荒っぽい動作で杯を置くと、俺の方を睨んで口を開いた。
来るな。怒りが。
「いいわけないでしょうが! なんでいきなり突っ込んで危険な魔法使ってんのよ! 大怪我してるじゃない!」
「……多分、これで倒せると思ったから」
「実際倒せたけど、大怪我したでしょうが! 失敗したらどうすんのよ! イーファが運んでルギッタが治してくれなきゃ、あんた死んでたのよ!」
「リナリーなら、適切な判断を下せると思った」
「……っ。本当は後ろに控えるあんたがそういう判断を下す役でしょうが! 普段落ち着いてる癖にいきなり無謀な行動とるのやめなさいよ!」
「……申し訳ない」
「………………」
頭を下げて謝ると、こちらを睨んだままリナリーが黙った。絶対納得してない顔だ。
彼女の言い分はもっともで、こうして態度で示すしかない。これで行けると思って、危険な行動をとってしまった。
「あ、あの、リナリーさん。中枢は倒せたわけですし、先輩も元気なわけですから……」
「甘いわよ、イーファ。こいつがいきなり無茶なことするのは昔からなんだから、しっかり言っておかないと。きっとそのうち同じ事されるわよ」
「……そういえば、村で中枢と戦った時も大怪我してましたね」
「……本当に申し訳ない」
ごもっともなので、もう一度謝っておいた。冒険者としてもギルド職員としても、短慮は良くないことだ。
「い、いえ、でもあれは私を庇っての怪我でしたから。むしろ私が未熟だっただけといいますか」
「落ち着いて考えなさいイーファ。その時も今回も、やろうと思えば一時撤退できたんじゃない?」
「……たしかにそうですね」
イーファはあっさり説得されてしまった。たしかにそうなんだよな。
リナリーが怒るのも無理はない。後から振り返れば自分でもわかる。たしかに中枢は倒せたけど、それで瀕死になってれば世話がない。イーファが運んでくれて、素早く治療できる態勢がなければ危なかったのも事実だ。
「考えてみたら、リナリーさんが怒る理由がわかってきました。なんで危ないことするんですか! 私とリナリーさんが前に出てるだけじゃ不安だったんですか? たしかに凄い魔法だったですけど、死んじゃうところだったんですよ!」
話に納得してから口を尖らせて怒るイーファだが、本人の気性と怒り慣れてないためか、あんまり怖くない。リナリーの迫力がありすぎるだけだな。
「……先輩、ちゃんと聞いてますか? 私、本気で怒ってますよ?」
そんなことを考えていたら、聞いたことのないような低い声と座った目で睨まれた。意外と迫力があるな……。
「思いつきとはいえ、危険を侵したことは反省してる。本当にごめん。次からは、無理に前に出ないようにする」
「それなら……」
「信用できないわね」
真摯な気持ちで今一度頭を下げたら、イーファとリナリーが正反対の反応をした。
言葉通り、明らかに不信の目で俺を見ながらリナリーが宣言する。
「昔から何度も前に出て怪我してたし、今回もまただわ。あたし達と違って、身体強化が弱い神痕なんだから、前に出て来て貰っちゃ困るのに」
「それはわかってる。だから今後は落ち着いて行動を……」
「とりあえず、無理に前に出ない戦い方を考えなさい。それをあたしが見て、納得できるまでダンジョンへの同行は禁止させてもらうわ」
あまりに一方的な言い分だった。いくらリナリーでも、俺にそこまで制限をかける権利はない。
「いや、それはやりすぎだろ? 第一、俺はギルド職員で「光明一閃」のメンバーじゃないんだぞ?」
「承知したわ。ギルドの方でもそういう風に対応します」
「コレットさん!?」
ずっと黙っていたコレットさんが、口を開いたと思ったらにこやかに承諾した。
「……っ!」
思わずそちらを見て、俺は絶句した。
俺と目が合ったのは、明らかに作り込んだ業務用の笑顔を貼り付けているコレットさんだった。
強引に笑ってる。知っている。こういう時、この先輩職員は、滅茶苦茶怒っていることを。
「サズ君。大怪我しないような戦い方をするまで、ギルド職員としての本分に集中しましょうね?」
「……はい」
反論する気力も沸かなかった俺は、素直にその笑顔に向かって首を縦に振った。
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どちらの発売も、読んでくださる皆様のおかげです。
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電子でも紙でも、手に取って頂けると、非常に嬉しいです。
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