第72話:特訓と挑戦
精霊魔法はちょっと特殊な魔法だ。ラーズさんやエトワさんといった魔女の魔法は神痕由来のものだけど、精霊は違う。
精霊を見ることができるかどうか。ただその一点で精霊魔法の使い手になれるかどうかが決まる。
俺の場合はラーズさんによって見えるようにして貰ったけれど、多くの場合は生まれつきの才能だ。ごく稀に後天的にある日突然見えるようになるらしいけれど、非常に稀だという。
精霊魔法を上達する方法は、とにかく地道に精霊と付き合うこと。そうすることによって、いつしか自分の思うままに精霊が力を発揮してくれるようになる。
例えば俺の場合は光や地の精霊の力を借りることが多いので得意と言える。だいぶ器用に力を調節できるようになってきている。
反面、火の精霊は別だ。殆ど使う機会がなかったので、付き合いは浅い。
いきなり中位精霊ともなると、さらに扱いは難しい。前に氷の中位精霊を使ったことがあるけれど、あれはラーズさんが用意したものだから特別だったと考えるべきだろう。
そんな事情で、俺の特訓はちょっと大変だった。エトワさんに教わった日の夜、遅くまでイーファと一緒に特訓を続けたが、あたり一面焼け野原にしてしまった。
このままダンジョン内で使えば味方を巻き込むのは確実だ。
これは仕事の片手間で習得できることじゃないと思ったので、俺は三日ほど仕事を休んだ。それからエトワさんの家の前で朝から晩まで、とにかく火の中位精霊を使い続けた。
いや、使うというよりも、理解するという感じだ。光の精霊も地の精霊もいつの間にか、扱う感覚がわかっていた。本来、精霊魔法はそんな風に自然と精霊と親しくなって上達するものなんだろう。
だが、今回はちょっと急ぎなので集中して特訓した。とにかく、中枢ゴーレムの内部に巣食う植物を焼き払えるようになればいい。
「火の精霊よ……中から焼き尽くせ」
焼け野原となったエトワさんの家の前、俺は目の前の焚き火から火の精霊を呼び出して、お願いをする。
焚き火から飛び出した炎の矢はまっすぐに少し先に置いた丸太に直撃。しかし、すぐに丸太は燃え上がらない。
炎の矢は中央部分に穴を開けて内部に入り、その後しばし沈黙。
時間にして一分ほどして、丸太が突然炎に包まれた。
内側から吹き上がった炎によって。
「よし……なんとかなったな」
「さすが先輩です。たった三日で中位精霊を使えるようになってます!」
「これは『発見者』のおかげだな。火の精霊を扱ってるうちに、なんとなくコツが掴めたんだ。どうも派手好きみたいだ」
火の精霊に燃えたがる性質があって幸いだった。俺は何度も何度も、エトワさんの庭先を焦がしながら、少しずつ俺好みの火力を精霊に伝え、狙ったような焼き方ができた。
二日目の終わり頃には何となく、精霊がいうことを聞くようになってくれた。こういう時、『発見者』は頼りになる。
「細かい調整は難しいけど、ゴーレムの中だけを焼くくらいならやってもらえそうだな」
「十分です。リナリーさんも準備をしていますし、これで私達も中枢討伐に参加できますねっ」
「他の冒険者に比べると出遅れたから、頑張らないとな」
既に他の冒険者パーティーは色々と工夫を凝らして中枢攻略に乗り出している。リナリーなんか、結構気にしてそうだな。
「頑張りましょう。でも、リナリーさん、先輩のことを心配していましたよ。こういう時、無理するからって」
「……なんだか意外な反応だな」
正直、戸惑う。昔はもっと血気盛んで俺をけしかけたものだけど。何年もたてば人も変わるということかな。
「リナリーさん、優しい人ですからね。先輩、あんまり心配かけちゃ駄目ですよ?」
「どちらかというと、俺が心配する側だったんだけどな」
話しながら、俺達はエトワさんの家の前の片付けに入った。
丸太の残骸を片付けて、地の精霊で整地したら、あとは魔法使いにお任せしよう。
○○○
「よっしゃあ! 今日こそは! ついに! あのしちめんどくさいゴーレムもどきをぶっ倒すわよー!」
「ぶっ倒しましょう!」
「おー!」
実際に顔を出したら心配どころか、すぐさま好戦的な笑みを浮かべて準備を始めたリナリーだった。
火の精霊特訓を終えた翌日、リナリー達と打ち合わせて一晩ぐっすり眠った俺達はダンジョン前に集合していた。
周囲の景色から浮いた自然石の階段。その西部ダンジョン入り口を囲むように作られた柵と、周囲に作られた見張り用の建物。光る石の輝く光源が各所に配置され、夜でも明るい攻略地点だ。
これから俺達は、四階中枢の討伐に向かう。
今回討伐に向かうのは俺、イーファ、リナリー、ルギッタの四名だ。ヒンナルが手配した『癒やし手』によって、彼女もまた戦線復帰が可能になった。
「少しメンバーが違うけど、「光明一閃」復活よ。さあ、行くわよ。みんな!」
「あんまり張り切りすぎない方がいいですよー」
「イーファとちゃんと連携してくれよ」
「……二人まとめてのツッコミも久しぶりね。イーファ、これは真似しなくていいからね」
「勉強になりますっ」
それぞれの装備を身につけ、俺達はダンジョンへと潜っていく。
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