第70話:四階中枢討伐(打ち合わせ編)

「ダンジョン四階を攻略しましょう。下の階層があるのがわかっているから消失の危険はありません。上手くすれば更に収益が見込めます」


 エトワさんと会った数日後、ギルド内の会議において、ヒンナル自らの決断において、四階中枢の討伐が方針として正式決定した。

 俺達職員も、現場の冒険者も異存はなかった。集まる冒険者の質と量も増え、階層的にもほぼ探索し尽くした。日々上がる報告を見たところ、今回は隠し通路などはなし。

 このダンジョンの特殊なところとして、王都との距離がある。

 稼ぎが良いという噂が広まるのが早く、人手がどんどん増える可能性は高い。そうすると、冒険者同士で獲物の取り合いになってしまう。つまらないことが起きる前に、探索可能範囲を広げておくのは望ましい。

 そんなわけで、西部ダンジョン支部にしては珍しいくらい満場一致、順当に決まった四階中枢討伐だが、驚くほど進まなかった。


「……あれ、どう倒せばいいのよ。サズ、同行して弱点見つけなさいよ」

「普通のゴーレムならいけると思うけど、これはどうだろうな……」


 コレットさん、イーファとリナリーで打ち合わせをしながら俺は微妙な返事を返していた。

 俺達に限らず他の冒険者パーティーにも担当がつき、それぞれ打ち合わせをしている。きっと同じく頭を抱えているだろう。

 さすがに全員じゃない、神痕を持っていて、中枢を倒せる可能性があると判断されたパーティーのみの話だ。

 残念ながら、ヒンナルお気に入りの新人達はその中には入れていないようだった。ついでに言うと、ヒンナル自身は「専門家じゃないから」と中枢討伐の会議にはあまり出てこない。せっかくだから話くらい聞けばいいのにとちょっと思う。


「植物が中から生えているストーンゴーレム。思ったよりも厄介ね」


 コレットさんが書類を見ながら軽く息をつく。そこにはちょっと可愛い絵柄で岩に四角い手足を生やした人型が描かれている。特徴は体の各所から植物の蔓が伸びていることだ。頭や胸、関節などに特に多い。


 また、注意書きによると、これらは全て冒険者が攻撃を加えた箇所であることがわかっている。


「破損した箇所から蔓がみっしり生えてきて、しまいにはうっすら岩に覆われちゃうんですよ」


 困り顔でイーファが言った。彼女は既に一度、中枢と交戦済みだ。三パーティー合同で挑み、胸部に強烈な打撃を加えたとある。しかし、結果は芳しくなかった。


「内部の植物が修復してる感じか。……報告書を見た感じだと、ゴーレムを守るために植物が動いてるように見えるな」

「凄い能力ですね。……さすが中枢」

「コレットさん、鉱物系でこういう回復機能を持ったやつ、聞いたことありますか?」


 感心するイーファを横目に聞くと、コレットさんは頭を横に振った。


「ないわね。いわゆる鉱物系の魔物っていう奴の中には回復する能力を持つのもいるけど、大抵はもっとこう……魔法? みたいな感じで修復するはずよ。中に植物飼ってるやつなんて、初めて聞いた」


 俺よりも長くギルドに勤め、多くの情報に接しているコレットさんも知らない。それなりに調べ物をしている俺も知らない。中枢とはいえ魔物には規則性があるものだけれど、これは大分特殊だ。


「サズ、あなたの推測を教えてちょうだい。自信がないから言わないだけで、なにか考えてるんでしょう?」


 リナリーが真っ直ぐなこちらを見て言った。冒険者時代も、よくこういう風に話を向けられた。俺のことをよくわかっているな。それなりの根拠がなきゃ話しをしたくないんだけど、こうなると断りにくい。


「このゴーレム、中に植物の魔物がいる複合型なんじゃないかと思う。確か、中に寄生するタイプの魔物がいたはずだ」


 まだ情報室での結果は出ていないが、俺はこのダンジョン自体が複合型なんじゃないかと確信している。なら、魔物がそうであってもおかしくない。


「ゴーレムに寄生する植物か。たしかに、それなら自分を守るために外部を修復したりするのもわかる気がするわ」


 推測にすぎないというのに、リナリーが納得顔で頷いた。横のイーファもだ。


「寄生というか共生ってことかもね。ゴーレムが植物を、植物がゴーレムを守ってるとか」

「ありそうですね。すると核もかなり厳重に守ってるかもしれない」


 コレットさんも特に異論はないようだ。共生、そういうのもあるのか。すると実質二体の中枢を相手にしなきゃいけないわけだ。……凄く大変だな。


「とりあえず、サズの推測を元に攻略法を考えましょ? どうする?」


 完全にこちらに投げられた。昔からこうだ。しっかりしてるのに、たまに俺に丸投げする。


「まず、植物をどうにかしたいな。ゴーレムの核を隠しちゃってるのはこいつなわけだから。蔓をどうにかして、それからゴーレムの核を見つけるのが基本方針になる」


 ゴーレムには核と呼ばれる宝石のような器官がある。わかりやすくそれが弱点で、見つけて潰せばいいんだけど、今回はそれも難しい。


「じゃあ、ゴーレムの岩部分を壊しまくって、リナリーさんが斬る感じですね!」

「中枢ゴーレム、大きいからあたし達だけじゃ無理ね。他の冒険者達とも組んで……」

「大仕事になるわね。怪我人も多いから、ルギッタさんにも戦線復帰して貰わないと……」


 女性陣が次々に打ち合わせていく。方針が決まると早いな。


「そうだ。サズの精霊魔法。火の精霊で蔓を一気に焼けないの?」


 ふと思いついたらしいリナリーが聞いてきた。

 俺も考えなかったわけじゃないけど、その案にはちょっと問題があった。


「火の精霊はあんまり使ったことがないから自信がないんだよな。それに蔓は生木みたいなもんだから、煙が凄いかもしれない」

「それだと駄目ね。なんか、お話に出てくる魔法みたいに凄い火力で一気に焼き切れないの?」

「焼き切るか……。できるかわからないけれど、時間をくれ」

「なにかあてがあるの? どんな方法?」


 リナリーが興味深げに聞いてきたけど、大したことじゃない。


「とりあえず、魔法に詳しい人に聞いて、練習してみるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る