第68話:ギルド前の小休止
リナリーと一緒にダンジョン攻略に加わることになったイーファだが、別に顔を合わせなくなった訳じゃない。毎日支部には顔を出すし、近くで訓練をしている姿もよく見かける。
そもそも、リナリーは連日ダンジョンに潜るような冒険者ではなく、意外と慎重に情報を集める傾向がある。ギルドで進捗を聞いて、攻略方針を決めるという手堅いこともする。
そんな感じなので、イーファとは適時情報を交換しているし、ダンジョンに潜らない日は受付にいることもある。
この日は、支部に設けられた訓練場でハルバードを振るう彼女を見かけたので話していた。
「なるほど。他から来た冒険者さんが中枢を見つけちゃったんですね。リナリーさん、悔しがるでしょうか?」
「そのまま倒されたわけじゃないから気にしてないだろうな。むしろ、見つけてもらって助かるくらいに思ってるかもしれない」
話題は最近発見された四階の中枢についてだ。更に下に潜る階段も確認されていて、攻略支部全体がそれで盛り上がっている。
「そういえば、私と潜ってる時も、あまり積極的に未踏の区域に入りませんでしたね。慎重派です」
「実績のある冒険者は実力があっても、無茶はしない人が多いよ。昔から、そこは押さえてた気がするな。意外に」
「意外って聞かれたらきっと怒られちゃいますよー」
にこやかに言いながら訓練用の丸太をハルバードで両断するイーファ。報告によると、四階に出現する鉱物系の魔物を次々と撃破しているらしい。
俺の見たところ、中枢を見つけたのは他の冒険者だけど、そこまでの道を少しずつ広げたのはイーファとリナリーだ。
たまたま腕のいい冒険者が増えたので先に到達しただけだ。それがなければ彼女達が中枢を発見していただろう。
「イーファは動きが大分良くなったな。ムエイ流っぽくなってる」
本当に、見違えるように変わっている。これまでの彼女は俺やゴウラが教えた王国流の直線的な動きが中心だったけど、今は別物だ。リナリーほどではないけど、柔らかく流れるような動作でハルバードを高速で振り回せるようになった。日頃の訓練と実戦経験の賜物だろう。
「ホントですか! 嬉しいです、でもまだまだリナリーさんみたいにはいきませんねぇ。できれば”一閃”も使えるようになりたいです」
「それはなかなか難しいだろうな。そもそも、あの技って剣以外でもできるのか?」
”一閃”はムエイ流開祖の技で、あくまで剣による手段しか伝えられていないはずだ。そもそも、リナリーが開祖と同じ『剣技』の神痕を持っているからできているわけで、『怪力』のイーファに可能なのだろうか。
「リナリーさんはできるって言ってましたっ。神痕から力をもらって強くなってるんだから、それをブワァっって、武器から出す感じだそうです」
具体性がまるでない、非常に感覚的な話だった。
ただ、俺も含めて神痕持ちの多くは感覚で運用しているので、案外そんなものかもしれない。
「コツさえ掴めればイーファならできるかもな。『怪力』でしっかり武器まで使いこなしてるし」
「はいっ。あ、そうだ、それと、リナリーさんに「光明一閃」に誘われたんですが……」
既に引き抜きまでしていた。なんと目ざとく抜け目のない女だろうか。イーファはピーメイ村の大事な職員だぞ。
「それは、イーファが決めることだな。冒険者の仕事も、ギルドの仕事も両方知ってるだろ? どちらも良し悪しだ」
「今回はお断りしました。少なくとも一度ピーメイ村に戻らないといけないですし。まだまだ、世界樹のことを調べ終わってませんから」
「……しっかりしてるな、イーファは」
本当にしっかりしている。リナリーと組んで冒険者をすれば、今よりも収入面は大きく上がるはずだ。イーファはかなり強いし伸び代が大きい。冒険者という仕事は危険だけど、彼女には既に何度も実戦経験がある。やっていけそうな実感はあるはずだ。
それでも、故郷や今の仕事をちゃんと考えて決断できるというのがイーファらしさだろう。
「それとは別に、今度の休み、リナリーさんとコレットさんと出かけて来ますね。色々と美味しいものを食べるんです」
「楽しんでくるといいよ。ただ、リナリーに服を選ばせない方がいいかもな。……変わったものを選ぶ傾向がある」
言外に俺は来なくていいのか聞いているみたいだったが、ここは女性だけで出掛けるべきだろう。というか、これがあるべき姿な気がする。
とりあえず俺は、リナリーが過去に服でやらかしたこと、コレットさんが悪酔いすることなど、注意点をいくつか伝えておいた。
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