第59話:再会と確認
久しぶりに会ったリナリーは、記憶の中とほとんど変わらなかった。
短く切り揃えた赤い髪。実用重視の飾り気のない服装だけど、すらりとした体型と姿勢の良さが様になっている。凛とした佇まいというのだろうか、そんな感じだ。大切な剣はいつも通り腰から下げていて、それが当たり前といった自然さで収まっている。
「なるほどね。一応は把握したわ。ピーメイ村のギルドは宿屋も兼ねてるのね」
客間のテーブル越しに睨みながらリナリーが言った。なぜだか知らないが不機嫌になった彼女に状況を説明するのはちょっと大変だった。
何を勘違いしたのか俺とイーファが同居してると思ったようで、二人がかりで説明をしてどうにか村の事情を理解して貰えた。イセイラ先生が「なんだ。ちょっと残念」と言っていたけど、それは気にしないことにした。
「昔は沢山の冒険者が寝泊まりしてたらしいよ。一緒の建物といっても俺とイーファは別棟だし、他の職員も寝泊まりしてる」
「……その他の職員ってのもちょっと気になるけど、サズがイーファさんに変なことしてなさそうなのは伝わってきたからいいわ」
変なことってなんだ。
「温泉もあるし、職場も近いし、建物も頑丈なんですよ。リナリーさんも機会があれば是非来てください」
「……あたしがピーメイ村まで行くこと、あるかしら?」
「ちょっと思いつかないな。今は仕事もないだろうし」
リナリーは「光明一閃」という冒険者パーティーのリーダーだ。今は王都を中心にダンジョン攻略に励んでいる。アストリウム王国は全地域的にダンジョンがあるから、移動を重ねて攻略を繰り返す冒険者パーティーもいるんだけれど、「光明一閃」はどちらかというと、一箇所にとどまるタイプなので、移動は考えにくい。
「いきなり怖い顔して、ごめんなさいね、イーファさん。ちょっと様子見に来たら、ろくに連絡も寄越さない男がいたもんだから……」
こちらを睨みながらリナリーが言った。俺に対してはまだ機嫌が悪いみたいだ。
「いえいえ、全然気になりませんからっ。むしろ、先輩のお友達と会えて嬉しいです。冒険者としても職員としても、色々とお世話になると思います」
「二人して、ギルド職員兼冒険者か。人手不足なところって大変なのね。まあ、こっちの職員さんも大変そうだけど」
「そうだ。西部ダンジョンの方はどうなってるんだ? 明日からそっちに行くんだけれど」
久しぶりの本業だし、ここで情報を得ておけるのはありがたい。特にリナリーは現地の最前線で戦っている冒険者だから、こうしてゆっくりと時間を取れるのは貴重だ。
「仕事の話ですね。では、私は子供達の様子を見てきます。お茶のおかわりは自分で淹れてくださいね」
話が変わったのを察したイセイラ先生が席を立った。去り際、イーファに「後で本の貸し借りをしましょう」とにこやかに話しかけるのも忘れない。
「全く、すぐに仕事の話なんて。向こうで何があったのかもうちょっと聞かせてくれてもいいじゃない……」
「それはそれで長くなるから後にしよう」
ピーメイ村の話となると、温泉の王とか魔女とか世界樹のことで長くなる。多分、リナリーからダンジョンの現状を聞く方が早いと思う。
イーファがお茶のおかわりを用意すると、リナリーが仕事の顔になった。
「初めに確認するけど、あなたの神痕、復活してるのね?」
「ああ、それは間違いない。実際に発動してるし、冒険者としても問題なく動けてる」
これはついさっき村のギルドについて話した時、一緒に伝えた。それでも、再確認せずにはいられないんだろう。俺の神痕が力を失った時、リナリーは本気でショックを受けて寝込んだくらいだ。
「そう。なら助かるわ。今、ダンジョン攻略が停滞してるのよね。下層に降りる階段が見つからなくって」
「そんなことあるんですか?」
怪訝な顔で聞くイーファにリナリーが頷く。
「基本、ダンジョンっていうのは上下のどっちかに移動する階段なり通路があるんだけれど、西部ダンジョンは三階より下の道がどうしても見つからないのよ」
「隠し通路があるんじゃないのか?」
床や壁に仕掛けがあって、正しい道が現れる。よくある話だ。
「もちろん、そう思って調べてるわ。それこそ、壁の一部をぶっ壊したりしてね」
当たり前でしょ、とばかりにリナリー。
「すると、ベテランの冒険者さんでも見つけられないくらい巧妙に隠されているということですか?」
「そうそう。イーファさんはよくわかってるわね。私達だってそれなりの経験があるんだから、できることはやってるわよ」
微妙に鋭い視線を投げながら言われた。いや、俺だって何もしてないとは思ってなかったんだが。
「なるほど。そうすると、先輩はこういう時に最適ですね」
「そうなのよね。こういう時は頼りになるわ」
「ですよね!」
なぜかイーファが胸を張って嬉しそうに肯定した。あまり期待されても困るんだが。『発見者』は情報が出揃わないと上手く発動しないことも多いんだよ。資料室じゃ、密かに落ち込むくらい反応なかったしな………
そんな俺の心情に気づかず、リナリーは俺にとっては聞き慣れた、呆れ気味の口調でいう。
「まったく、王都にいるならもっと早く連絡くれれば良かったのに」
「……色々と事情があったんだよ」
話しにくいこともあるので、俺は微妙に言葉を濁しながらそう言うのが精一杯だった。
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