第52話:王都捜索
すいません。更新する話を間違っていたので上げ直しです。
とりあえず56話まで毎日更新して、なろうに追いつくようにします。
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終わりかけの夏が、気持ちの良い日差しを投げかける午前中、俺とイーファは自然溢れる公園の中を歩いていた。
気持ちよく歩けるのは、園内を流れる小川と周辺に設けられた木陰のおかげだ。
ここは、北東部にある、王都一大きな公園だ。古くに整備された場所で、小川どころかちょっとした森まで存在する、都会とは思えない自然豊かな場所である。
子供達が走り回ったり、ベンチに腰掛けゆっくり過ごす老人など、人出も多い。
歩きやすい川沿いの煉瓦で舗装された綺麗な道を行きながら、イーファが元気よく俺に向かって語りかけてくる。
「なるほど。あの日の夜は大臣さんが来てたんですか。ずるいです。私もお会いしたかったです」
「いや、会わない方がいいと思う。あれは本当に恐かった……」
得体が知れない存在と話してるみたいだった。余計なことを聞いたら後悔するような情報が出て来そうだし、いつの間にか陰謀に組み込まれてそうで恐い。ルグナ所長の下にいる限りそれはないって言ってたけど、どこかに異動すれば迷わず目を付けるってことだろうしな。
「でもでも、オルジフ大臣さんといえば、現代で王都が舞台のお話だとよく出てくるすごい有名な方なんですよ」
「小説に出てくるのか……、どんな出番なんだ」
それは純粋に興味がある。世の作家は、あの人をどんな風に描写しているのか。
「大体、物凄く悪い黒幕か、実は良い人だった場合のどちらかですね。ご本人もあくまで創作だと本に書いてくれれば良いみたいで、楽しんでいるって、ある本の解説に自分で書いてました」
「意外と創作に寛容なんだな……」
自分を出して悪役扱いされても平気とか、ますますわからない。あるいは、創作物も利用して印象操作でもしているのかもしれない。
「実をいうとな、さっき食べた食事はその大臣さんのお勧めなんだ。帰り際に、「イーファ君が会えなくて怒るかもしれないから、詫び代わりに良い店を教えよう」と言われたんだ」
最初、わけがわからなかったが、この状況を想定しての話だったんだろう。
「……それって、私の好みを把握してたってことですよね?」
「俺達の神痕どころか、どういう人生を送ってきたのか、なんなら好き嫌いまで全部把握してそうだったな」
「……会わなくて良かったかも知れません」
ようやく恐くなってきたのか、イーファが珍しく不安げな顔をした。
「ルグナ所長の部下だから、俺達に変なことはしないと信じよう。それに、この魔女捜しは本当に困って俺に回してきたみたいだしな」
「そうなんですか?」
歩いているうちに、小川から外れ、俺達は公園の外れに到着していた。
順路から外れた人気の無い小さな森の中。周りに人はおらず、石造りの小さな小屋みたいな建物がある。
「イーファにも資料を見て貰ったけど、情報の精度が凄く高い。それでいて、発見できずってなってるだろ?」
「それで、一番可能性の高そうな所から当たるわけですよね」
ここに来るまでにオルジフ大臣に貰った資料は読み込んでいる。魔女のいそうな地点はかなり良い感じに絞り込まれ、あとは調べれば見つかるんじゃないかなという風に見えた。
にも関わらず、この話は俺達に回ってきた。大臣本人が直接依頼する形で。
「事情があるのか詳しく書いてなかったけど、一度は自分達で見つけようとしたんじゃないかな? 大臣もなかなか見つからないみたいなこと言ってたし」
「そうすると、普通の方法じゃ見つけられなかったってことですよね。なるほど、先輩の出番ですね」
「期待されるのも恐いんだけどな」
『発見者』はあてにならないことがある。とても自在に使いこなせてるとはいえない。
行き当たりばったりだ。そんなことを思って歩きながら、小さな建物の前に到着した。
一見、公園の施設みたいだけど、ここは地下通路の入り口だ。
「これは建国時に作られた、脱出用の地下道に通じてるらしい」
「昔は治安が悪かったって聞くけど、こんなものが必要なほどだったんですねぇ」
多くの事例に盛れず、この国も建国時は大変だったらしく、その苦労話がいくつも残ってる。
王都の地下道も、外部からの襲撃などに備えて作られたものだ。幸い、出番は殆どなく、近年は冒険者に見回り依頼が出るくらいの場所である。
「ここから入れる地下道は、工事が中断して行き止まりになってるらしい。調査だと、そこを魔女がいじって居住してる可能性が高いと書いてあった」
「先輩の精霊魔法みたいので地面を掘って住んでるんでしょうか?」
「それくれいなら簡単に見つけられそうだからな。なにかしらの魔法が使われてるんだろう」
ピーメイ村で元気にしているはずのラーズさんを思い出す。どうやってるかわからないけど、あの人はいないはずの精霊を作ったり、一瞬で引っ越したりと、凄いことができた。
なら、王都の魔女も、大臣直属の調査員でも見つけられないくらいの隠蔽工作をしてもおかしくない。
「準備はいいな」
「はい、もちろんです!」
背負っていた遺産装備のハルバードを持ったイーファが答える。
大きさは縮小済みで、バトルアックスくらいになっている。
もしかしたら戦闘があるかもしれないので、今日は冒険者としての装備を調えてきた。
アストリウム王国は冒険者が多いので、完全武装していても奇異の目で見られない。
資料と一緒に貰った鍵を取り出し、扉を開ける。
扉を開けてすぐ、地下への階段が現れた。
「光の精霊よ、俺達の足下を照らしてくれ」
いつもより多めに光を生み出し、中に入る。
地下から流れれてくる空気は冷えていたが、カビのような臭いが混ざってあまり気持ちよくは無かった。
ただの地下通路とはいえ、念のため警戒しつつ進む。
しばらく行くと、あっさりと行き止まりに到着した。
「行き止まりですね。うーん。普通の行き止まりです」
待っていたのは、事前情報通り、石壁の行き止まりだ。
だけど、俺はすぐに気づいた。久しぶりの感覚だ、『発見者』が発動している。資料室じゃ全然だったのに。
「光よ、少し強くしてくれ。……やっぱりな、少しだけど、この辺の石に動かした痕跡がある」
「ほんとだ、本当にちょっとだけ色が違います。あ、それにこすった痕もありますね」
イーファがじっと見て驚いていた。だが、このくらいは慣れていれば誰でも見つけられる。
調べてわからなかったのは、この先のことだろう。
「魔女はこの向こうにいる。ただ、開き方がわからないってことなんだろうな」
「無理矢理壊しちゃうのは駄目なんですか?」
小型化したハルバードを手にイーファが言った。
「魔法で閉じられてるから、手順を踏まないと駄目だとか、単純に破壊して入ると魔女が怒るとか何かあるのかもしれない。……いや、いくつか石を抜いたところもあるな」
「掘ろうとしたけど駄目そうだったってことですね。すると、なにか手順があるってことでしょうか?」
「ここが扉だとすると、鍵があるってことだろうな……うん?」
見れば、頭上で浮かんでいる光の精霊がふらついていた。
見慣れない挙動だ。精霊がなにかをしようとしているんだろうか?
珍しい、下級精霊はあんまりこういう主張をしないとラーズさんに聞いているのに。
いくつか浮かんでいる光の球に向かって、試しに言ってみる。
「好きに動いていいぞ」
すると、小さな光の球が石壁の向こうに消えた。
「消えましたっ。大丈夫なんですか? あ、出てきた?」
見ていると、頭上の光のいくつかが、石壁を出たり入ったりしはじめた。
動きは段々激しくなり、いつしか石壁の各所に光の筋が走るようになった。石を積んだ合わせ目が輝いているのかと思っていたら、光の線が全貌が表した。
時間にして数分後、人一人通れそうな、光る扉が目の前に出来上がっていた。
「あの、これは何が起きたんでしょうか?」
「……多分、扉を開けてくれたんじゃないかな?」
精霊魔法を使えるといっても、あんまり詳しくないので説明できない。
どうしたものかな、と光る扉をしばらく見ていると、いつしか輝きが治まり、石壁が消えて、向こう側が見えるようになっていた。
「わぁ……」
「凄いな……」
向こう側を見た俺達は、そう短く感想をいうことしかできなった。
石壁の向こうにあったのは広い空間。
しかも、殺風景な洞窟では無く、緑と光が溢れる、田舎の景色があった。
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