第56話:送り出し

 王都には食事ができる店が多い。単に人口が多いというだけじゃ無く、海と陸、双方から物資が大量に流れ込み、一緒に様々な地域の料理が入ってくるというのも関係している。

 資料室近くにあるちょっと高めの店。高級というほどではないけれど、俺の給料で進んで入らないような店。

 そこで、俺達は夕食をとっていた。


「ふぅ、ごちそうさまでした」


 そして、イーファが本領を発揮して、沢山食べていた。


「……あの、室長。良かったんですか?」

「安心するのじゃ。この店で奢るくらいの給料は貰っておるわい」


 エトワさんを見つけ出してから二日後、俺達は室長から食事に誘われた。話が全部ついた記念ということで、店でごちそうになっているという流れだ。

 そして、イーファに「遠慮するな」とすすめた結果、沢山食べた。本当に……。


「若者が食べる姿を見るのは気持ちよいものじゃ。ちなみに、戦闘向きの神痕持ちは食事量が多い傾向がある」

「それは確かに、そうですが」

 

 たしかにそれは事実だ。イーファはよく食べるし、俺の知り合いもだいたいそんな感じだった。


「さて、腹も落ちついたことじゃし、本題じゃ。二人とも、ご苦労じゃった。エトワ殿が大臣と会って無事に話がついたのでな、ささやかながら送り出しの祝いじゃよ」


 食後のお茶を飲んで一息つくと、室長は楽しそうな口ぶりで言った。


「直接行って驚かせてやるって言ってましたけど、その通りになったんですね」

「オルジフの奴が驚いたかはわからんが、お前さん達に感謝しているのは確かじゃよ。すぐに資料室の人員を戻す手配をして、お前さん達は西部ダンジョンでの仕事を任されておる」

「な、なんか流れが早くないですか?」

「前から準備だけはしていた、ということですね」


 室長は頷いてそれを肯定。俺達が王都に来る前から色々用意されてたんだろうな。


「さっそく明日から西部ダンジョン支部に向かいなさい。それと、すまなかったな。孤児院にも顔を出して良いぞ。オルジフめが実家への顔出しを禁じた詫びだといって、預けられたものもある」


 そう言って、テーブル上に封書が置かれた。封蝋は大臣の紋章。本物だ。


「……開けるのに勇気がいる手紙ですね」

「悪いことは書いていないはずじゃ。敵対していない限りは、細かく気が利く男じゃしな」

「俺達みたいのにまで気にかけてくるのは、ちょっと恐い気もしますが」

「あやつはルグナ姫のことを気に入っているからのう。ついでとばかりに面倒を見ただけじゃよ。面白いことをしているのも事実じゃからな」


 変に目を付けられなくて良かった。とりあえずは安心しておこう。


「お前さん達の仕事はここからが本番じゃぞ。気づいておると思うが、資料室の本質は情報機関じゃ。優秀な人員を各地に散らし、あらゆる出来事を精査する能力がある。それが、全面的に協力できる状態になったわけじゃ」


 つまり、それなりに結果を求められるということだろう。なんか、責任がかかってきて恐い。


「大臣は最初から、こうやって俺達のための状況を作るのが目的だったんでしょうか?」

「見定めたかったんじゃよ。わしが認める程度には仕事が出来るか、エトワ殿を見つけるだけの実力はあるか。答えは出たと言うことじゃのう。……二人とも、そこは自信を持って良い」


 口元で軽く笑みを作り室長は言った。


「結果を出せるかは別ですよ」

「そこは仕方ないじゃろ。世界樹の根については何ともいえん。オルジフもそこは期待しとらん。最低限、西部ダンジョンの攻略を手伝って結果を出せばいいじゃろう」


 なるほど。世界樹の方まで期待されてたら困っていたところだ。助かる。

 

「サズ、今後必要な情報があったら遠慮無くわしらを使うんじゃ。王国で一番確実な情報を届けてやるからのう」


 俺が「宜しくお願いします」と頭を下げると、室長は何度目かの首肯をした。


「ところでエトワ殿はどうじゃった? 相変わらず見目麗しかったかの?」


 そこで仕事の話は終わりとばかりに、打って変わって明るい様子で王都の魔女のことを聞かれた。心なしか、目つきがいつもと違う。


「すごい元気でした。あと、お茶をご馳走になりました。それで大臣さんのことを……」


 イーファが返事をすると、室長が楽しそうに思い出話を始めた。室長的には、こっちを詳しく聞きたかったらしい。


 室長もまたエトワさんと付き合いが古く、憧れの存在だったようだ。

 エトワさん、魔女だから歳をとらないんだろうか。聞くと怒られそうだからやめておこう。 そのまましばらく、室長の話す、「話して問題なさそうな昔話」で盛り上がった。

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