第50話:疑問と回答
更に二日ほど経過して、資料整理はかなり進んだ。
室長に許可をとりつつ、一階に空いた棚を用意して、二つ分の資料がそこに並んだ。
そしてひたすら、イーファと二人でダンジョンの攻略記録の詳細を順番に精査だ。
その甲斐あって、「これは世界樹の根と関係があるのでは」という、ダンジョンをいくつか見つけることができた。
「ここと、ここもか。結構怪しいところがあるな。攻略が終わると同時に、ピーメイ村の魔物が減少してる……」
「考えてみれば、世界樹の根っこって、一つのダンジョンだけに影響を与えてるとは限らないわけですよね」
「そうなんだよ。もしかしたら、複数のダンジョンに影響を与えてたのかもしれない。ただ、どれも小さなダンジョンですぐ攻略されちゃってるんだよな」
おかげで今はただ跡地になっている。小さいダンジョンと世界樹みたく何かが残ることもなく、ほとんど更地になってしまう。痕跡すらないだろう。
それらしい情報を選別しつつあるが、今度は追跡調査が難しくなりそうだ。
「そもそも、簡単に攻略されちゃっただけということもありそうです。小さい規模だと、一月もあればなくなることが多いみたいですし」
資料を見まくったおかげでイーファもダンジョン攻略に詳しくなっている。
王国内では結構な頻度で新ダンジョンが見つかるが、ギルドが本腰を入れると手早く攻略されてしまうのだ。それでもダンジョンが尽きないことこそ、世界樹との関連性を指摘できそうだけれど、調査方法も証拠らしいものも見当がつかない。
「……これ以上に詳しい資料だと、現地のギルドにいって記録を調べるしかないな」
「凄い時間がかかっちゃいそうですね……」
イーファの懸念はもっともだ。移動に時間がかかるし、資料探しだって難しい。この資料室ほど情報が整理されてない可能性も高い。
もしかして、資料室の人は、こういう流れがあって各地に飛んでるんじゃないだろうか。案件ごとに王国内を飛び回ってるなら、結構大変な仕事だ。
「せめて、俺の神痕が反応してくれれば話が早いんだがなぁ」
相変わらず『発見者』はほとんど反応する気配がない。まだ情報不足ということだろう。道は遠そうだ。
ピーメイ村で気軽に思いついたけれど、もう十日以上調査していて、ちょっとわかりかけてきた。
俺もイーファも、基本的にただのギルド職員であって情報分析の専門家ではない。その問題が明確になりつつある。
正直、少しだけ焦りを感じる。
「……これは、俺達だけの手に負えないかもしれないな」
「なんというか、答えに辿り着くための方法がわからない感じに思えます」
イーファの言うとおりだ。手段を得るための手段が欲しい。
事務所ではなく、自分達で作った資料が並んだ部屋でそんな話をしていると、マテウス室長がやってきた。
「頑張っているようじゃな。感心じゃ」
「お疲れ様です。室長」
律儀に立ち上がって挨拶したイーファに続いて、俺も会釈する。
「その様子じゃと、また途方にくれていたようじゃな。まあ、なんじゃ、お前さん達が一月もしないで回答に辿り着けるようなら、とっくに解決してる問題じゃよ」
笑いながら、室長は資料を整理した棚を見る。
棚に並べた資料類は必要に応じて簡単な表紙つきにしてまとめてある。室長はいくつか、それを開いて軽く中を見ると頷いた。
「うむ。さすがは『発見者』じゃ。良いコンビのようじゃのう」
そういってから、室長は俺の方に向き直った。
「サズ、今夜、この前と同じくらいの時間にここに来なさい」
いつもと雰囲気の違う、緊張感を含んだ声音に、横でイーファが驚いた。
どうやら、室長の言う仕込みが終わったということらしい。
「わかりました」
なにが出てくるかわからないけど、乗るしかない。本来の資料室の人達の力を借りられるなら、とてもありがたい。
「あの、私は行かなくていいんですか?」
「女の子が夜に出歩くのは駄目じゃ。いくらこの辺の治安が良いといってものう」
「えぇ、先輩ばっかりずるいですよ」
この場合危ないのは、イーファによからぬことをする輩だと思うが、あえて何も言わなかった。
「これは俺の仕事ってことで納得してくれ、イーファ」
「……わかりました。後で何があったか教えてくださいね」
不満そうだが、頭を下げたら何とか納得してくれた。仲間はずれみたいで申し訳ないな。
「それは内容次第じゃろうなぁ」
にこにこしながら室長に言う。
本当になにが待ってるんだ……。
○○○
その日の夜、指示通りに俺は資料室を訪れた。宿舎を出るとき、微妙に恨めしげな目をしているイーファに見送られながら。
「よく来たのう。ほれ、客人が待っているぞい」
事務所に行くと、室長がいつも通りの様子で出迎えてくれた。
中に入ると、別の人影に気がついた。
昼からそのままにしている光の精霊に照らされて、椅子に座ったまま、その人物はこちらに語りかけてきた。
「はじめまして、サズ君」
そこに待っていたのは室長と同じく老人だった。痩せた白髪の老人だ。目つきは鋭く、座って俺を見ているだけなのに、不思議な迫力があった。
年齢から来る人生経験以上に、数々の修羅場を潜り抜けている。そんなことを一瞬で悟らせる人物。
いや、俺はこの人の名前を知っている。とんでもない有名人なんだから。
「オ、オルジフ大臣……」
絞り出した声に、老人は静かに頷いた。
王国最高の権力者とも言われる、ある意味、俺の左遷の遠因となった人物。
それが、なぜか目の前にいた。
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