第40話:事件のその後
クラウンリザードの女王を倒したからといって、すぐに事が全て収まるわけじゃない。
討伐を終えて、温泉支部に報告した俺達は、その後十日ほど情勢を様子見した。
嬉しいことに魔物の出現数は減っていき、それに合わせて徐々に冒険者も減っていった。
十五日後、温泉支部は一時閉鎖が決定。それに伴い、クレニオンから来ていたギルド職員達も戻ることになった。
最終的に、ゴウラ達のパーティ以外の全員が退去し、派遣の職員も元の職場に復帰。
元のピーメイ村に戻るまで、三十日ほどの時間が掛かった。
「終わって一安心ですが、ちょっと寂しいです」
すっかり静かになった村の事務所でイーファがいう。派遣の職員が帰る前に綺麗に掃除してくれたおかげで、事務所内はこざっぱりしていて、少し寂しい。あの賑わいが嘘のようである。
今日は、ピーメイ村の職員が全員出勤していた。『癒し手』の副ギルド長も昨日帰り。ほぼ元通りだ。
俺の左腕の怪我は『癒し手』ですぐに治療して貰い、すでに痛みも無い。来て貰っていて良かった、医者のいないピーメイ村では治療するのが難しいくらいの怪我だった。
ちなみにゴウラ達がまだ残ってるが、これは念のための警戒用で、基本的に村の雑務をやってもらっている。今日は仕事もなく、外でのんびりしていた。昨日なんか、温泉に浸かりいって、すっかり落ちついていた。
「賑やかだったからね。大きな怪我人もなかったから、お祭りみたいなもんだよ」
「物騒なお祭りでしたけどね」
「私は普通のお祭りが好きです」
課長にそれぞれ反応を返す。賑やかだった時は忙しそうにしていたが、今が本来の姿という感じだ。
たしかに、祭りというに相応しい騒ぎだった。特に、女王討伐後、連日温泉支部で繰り返される宴会は凄まじかった。派遣されてきた冒険者、あの宴会で今回の報酬を相当使ったんじゃないだろうか。
「うむ。村が静かになったのは少々残念だが、魔物の脅威がなくなったのは良いことだ。というわけで、会議を始めよう!」
自席でのんびり紅茶を飲んでいたルグナ所長が宣言する。心なしか、横の護衛の子も落ちついた表情をしているのが少し前との違いだ。
報告書は既にまとめたが、今日はピーメイ村ギルドの中で調査討伐を振り返るという名目で会議をする日なのだ。まあ、暇だし。
「まずは全員、今回の件はご苦労だった。所長として、末席だが王家に連なるものとして礼を言う。冒険者相手だったらなにかしらの報償を与えているところだ」
「そうか。この場合、俺とイーファってどうなるんでしょうね?」
別に報償が欲しいわけじゃ無いが聞いてみた。兼任だとどう処理されるんだろ。王都時代もそういうのは見たことないな。
「冒険者としての報酬は出るから安心してほしい。あとは、王家からなにかあるかどうかは、所長次第かな」
ドレン課長がいうと、ルグナ所長がにこやかに頷いた。
「一応、私の方で交渉中だ。期待してくれ」
「お、恐れ多いですね。先輩っ」
「まさか、本当にあるとは……」
びっくりしているのを見て、笑みを深くする所長。驚かせるのが好きな人だな。横の護衛の子がちょっと申し訳なさそうにしてる。
「では、次は村としての報告だね。まず、温泉野営地だけれど、このまま温泉として稼働できないか王様と相談中だよ」
課長が言うのは、気になっていたことだ。
「作った施設を生かすってことですよね? でもあれ、突貫工事もいいところですよ?」
温泉の王の家周辺は、大急ぎで要塞化されている。年単位で運用を考えていない、安普請ばかりで長く使えるとも思えない。
「実は今回の事件で冒険者と行商人からの評判が良くてね。定期的に入りに来たいと言われたんだ。予算を確保して建物を整備してみるよ」
課長は嬉しそうだ。そもそも、村長としての色合いが強い人だ、村おこしらしいものが始まったのは本望だろう。
「温泉の王はそれでいいんでしょうか?」
言いながらイーファを見ると、頷かれた。
「王様、人が来るのは楽しいみたいでした。宿をするなら食べ物とかも手に入りやすくなるし、王様もラーズさんも得なんじゃないでしょうか?」
そうか、ラーズさんも助かるのか。まあ、温泉の王が了承してるなら問題ない。仕事が増えるが、これは村おこしが一歩前進したと思おう。
「これからピーメイ村が賑やかになることを期待しよう。人が増えれば、私も道の整備なんかを領主に頼んでみるぞ!」
所長が頼りになる宣言をしてくれた。
「村の報告は以上だね。それでは、本題。今回の魔物発生だ。……なんでクラウンリザードまで出てきたんだろうね?」
「…………」
課長の言葉には、誰も答えられなかった。
この地域に定期的に発生する魔物。なにか原因がわかればいいんだが、全然辿り着けない。あの後、クラウンリザードがいた場所も調べてみたが、何も発見できなかった。ただの荒れ地が広がるばかりだ。
「一つ言えるのは、かつてのダンジョンとしての機能は生きてるらしいってことですね」
中枢や危険個体は昔の世界樹をなぞったものだった。なんらかの理由でダンジョンとして活性化したのは間違いない。
「じゃあ、その原因はと言われたら、ちょっとわからないんですが……」
俺が言うと所長も含めて全員が無言で同意する。本当にそこがわからないんだよな。
「これは今ここで結論を出せるものではないな。なにか発想の手がかりになるものを探しながら仕事をするとしよう。サズ君もあまり気負わないように」
「わかりました」
所長なりに俺に言ったことを気にしてくれているらしい。実際、気にしてはいるんだけれど、いきなり元世界樹の謎について迫るのはやはり難しい。
なにか手がかりでもあれば、調べることができるんだが。
いや、今は目の前の仕事に集中すべきか。
「ちょうど今日からラーズさんのところに御礼で遊びにいく予定です。温泉の王も一緒なので、色々と聞いてみます」
「魔女への報酬は仕事扱いにしておく。イーファもゆっくり過ごしてくるといい」
そんなわけで、俺達は魔女の家で泊まり込みで遊びに行くことになった。
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