第41話:世界樹の根
イーファと共にラーズさんの家にいくと、歓待の用意がされていた。どうやってかわからないが、温泉支部が開かれている間、商人から調達したのだろう。家のリビングに物が増えているし、用意されたお菓子類が前より種類が多い。
なんだか魔女ということを忘れそうになるけど、本棚に見たこともない文字の本とか置いてあってたまに現実を思い出す。実に不思議な人だ。
「ふふふ、さあ、ラーズさん、出せるカードはありますか?」
「うぅ……イーファちゃんが恐いですぅ。普段はあんなに可愛いのにぃ」
その日の食後、カードゲームで盛り上がっていた。トランプのババ抜きが変形したようなゲームで、俺と王様は先抜け。イーファとラーズさんの一騎打ちとなっていた。
ちなみにこの魔女、内気ながら表情にすぐ出るので、滅茶苦茶この手のゲームに弱い。そしてイーファはたまに強い。
「結構駆け引きが得意なんですよね、イーファ。意外な面……でもないのか」
「趣味で読んでる本の題材があれだからか、変に腹芸のようなものを覚えてしまったのだ」
どろどろ人間関係の貴族もの小説で学んだらしい。王様はちょっと落ち込んでいた。親の苦労を感じさせる。思春期の女の子ならそういうのが好きでも仕方ないか。町のギルドで聞いてみたら女性読者が多いらしいし。
「ふふふふ、私の負けです……」
「やったー! かちましたー!」
傍目にはイーファの方が情勢が良さそうだったが、勝ったのはラーズさんだった。意外と得意なだけで、いつも出し抜けるほど手練れでもないということか。
「あー、楽しかったです。ちょっと休憩しましょうかー。ほら、皆さんも魔物退治の疲れが抜けてないでしょうから、沢山食べて飲んでくださいねー」
そう言って、奥から追加のお菓子を持ってくるラーズさん。夕飯も豪勢で今日はかなり食べている。……確実に太るな。
「そういえば、魔物調査討伐の時、近くに結構人がいましたけど嫌じゃ無かったですか? 王様は結構楽しそうにしていましたが」
小休止でお茶を飲んでいると、自然と先日までの討伐依頼についての話題になった。
「うむ。久しぶりに世間話をする楽しさを思い出させて貰った。今後は温泉に定期的に客が来てくれると嬉しいな。そして疲れを癒して欲しい」
社交性の高いスライムだ。しかも優しくて紳士だ。
「私は頑張って隠れているので、気になりませんよ。むしろ行商人さんが来てくれるから生活が助かるくらいです」
ラーズさんのこっそり買い物の技能は相当なものだ。俺は一度も気づけなかった。
「賑やかなのが終わると寂しいものだな……」
「あのくらいなら良かったですねー……」
ちょっとしんみりしてるのは、二人ともそれなりに楽しんでいたからだろう。
「そういえば、お二人はここが活性化した理由、わかりませんか?」
ギルドの報告会でこの二人にも相談するというのを思い出したのか、イーファがそんな風に話題を振ってくれた。
「それがわからないのだ。我としては、事前に察知できれば早めに村に連絡して対策をしたいのだが……」
王様は無念そうに語る。たしかに、察知してれば教えてくれるよな、この人の場合。
「そうなんですよねー。現場に来て調べれば、なにか手がかりがあるかと思ったんですが。ここには特に気になるものがなかったんですよねー」
ラーズさんも怪訝な顔だ。
「つまり、ここ以外の場所になにかあるってことですか?」
その言葉に、ラーズさんが腕組みして少し唸る。
「近くにある二つのダンジョンが影響し合うって話は聞いたことありますけれどねぇ。この辺りにそういうのは、無いように思えます」
たしかにその通り、ピーメイ村付近にはダンジョンはない。ごく近くのダンジョン同士が影響し合って不思議なことが起きた事例はあるが、その可能性は低そうだ。
「世界樹の根……裏世界樹ともいえるものが発見できれば理屈もつくのかもしれぬがな」
王様がぽつりと付け達した。世界樹の根、この村に来てから何度か聞いているが、あくまで伝説とか噂話で、誰も発見していない存在。あるのはあくまで可能性だけ、それが厄介だ。
「残った部分の樹皮だけであれだけ大きいんですから。根っこも大きいんでしょうね。世界樹」
イーファがそれとなく言った一言。
それが、酷く気になった。思考が連続して、形になっていく。肩が熱い、明らかに神痕が発動している。
……『発見者』によるものと思われる思い付きを、俺は口にする。
「普通、木の根って、結構深かったり広かったりするんですよね?」
俺は土地の開墾などで樹木を相手にしたことはない。人づての情報だ。木の根というのは深く、広く広がるという。
「木の種類によるが、ものによってはかなり広がるものもあるな。それがどうかしたかね?」
じっと考え込んだ俺を見て、王が怪訝な様子で聞いてきた。
仮説に仮説に、更に仮説を重ねるような話だが、思いついた。
「もしかして、世界樹の根はもう見つかってるんじゃないでしょうか。王国中に広がるダンジョンとして」
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