第36話:遺産装備

 クラウンリザードのついての調査はベテラン冒険者が行われ、このために呼ばれた二つのパーティーは非常に手堅い仕事をしてくれた。


 まず、過去の記録を頼りに数減らしを試すことにした。中枢にひしめくクラウンリザードを少しずつ誘導して倒す、地道な作業だ。だが、効果は大きい。魔物が増える速度よりも早く退治できれば、確実に楽になる。


 その間、俺とゴウラ達と協力してイーファの訓練を行うことになった。

 ベテラン冒険者から見ても規格外の力を持つイーファはまさに切り札だ。


「うわああ。凄いですよ先輩! これ、こんなに大きいのに軽いです!」


 嬉しそうに声をあげながら、イーファが自分の背丈以上の長さのハルバードを振り回す。

 これこそ、今回の戦いのためにルグナ所長が手配した新装備である。

 長い柄の先端に斧と槍の刃がついたハルバード。きっと、イーファの『怪力』で凄まじい破壊力を見せてくれるだろう。


 なにより、この銀色の輝くハルバードは量産品と一線を画している。

 遺産装備。ダンジョン内で見つかった特殊な武具だ。ものによっては神痕を持つ者が振るうことで特殊な力を発揮するともいわれる、貴重な逸品である。


「よくあんなもんが手に入ったな」

「所長が交渉して、この地域の城の倉庫に眠ってるのを出して貰ったらしい。誰も使っていなかった名無しのハルバード。詳しい解析もされてないから、切れ味と頑丈さが凄い以外は謎の遺産装備だそうだ」


 感心するゴウラに資料にあった情報を説明する。詳細不明の遺産装備でちょっと不安もあるけど、量産品ではイーファの力に耐えられないので頼りになる。


「遺産装備なんて大抵が本当の機能なんてわからないから問題ないだろ。さすがは王族だな。二つも眠ってる装備を引っ張り出してきたんだから」

「まったくだ。まさか俺の分まであるとはね」


 俺の手には銀色の盾があった。小さめの流線型の盾で、軽くて非常に頑丈だ。籠手のように填めることもできて、使い勝手が良い。やはりこちらも名無しの盾で、地域の倉庫に眠っていたもの。


 なんでも、見た目がいいので貴族が道楽で保管していたものを、過去に接収したものらしい。貴族は最終的に道楽すぎて破産したとかなんとか。

 そしてこちらも本来の機能は不明なままだ。一応、何人かが使ってて危険はないと判断されている。


「俺の盾はいいけど、問題はイーファだな。遺産装備を使わない手はないけど、武装が変わる」


 頼めるかという俺の言外のアピールにゴウラが頷く。


「俺達でできるだけ教えよう。場所が平地で相手がでかくて幸いだな。イーファがあれを振り回すだけで真っ二つにできる」


 遺産装備は鋼鉄なんて目じゃないくらい頑丈だ。まず壊れないし、切れ味も鋭い。中枢相手でも威力は申し分ないはずだ。


「あ、見てくださいこれ! ちょっと神痕の力を込めたら、柄が短くなって、刃も小柄になりましたよ!」


 驚いて見てみれば、短くなって斧みたいなシルエットになった名無しのハルバードが見えた。


「……これは当たりじゃないかな」

「遺産装備は主人を選ぶって噂話、信じたくなったぜ」


 獲物の大きさが自由にできるのは聞いてないが、取り回しやすくなるので助かる。ゴウラのいうとおり、遺産装備は持つ者によって力を発揮するというから、相性が良かったのだろう。

 ちなみに俺の持つ盾の方は特に反応無し。そう都合良くはいかない。


「さて、イーファ。申し訳ないがそいつは素振りに使ってくれ。練習はこれだ」


 言いながらゴウラが長い棍棒をイーファに渡す。


「うう、練習用とはいえ、可愛くないです……」

「我慢してくれ。さすがにあのハルバードの攻撃を受ける度胸はないぞ」


 ちなみにあのハルバードを手にしたイーファがその辺の岩に一撃叩き込んだら真っ二つになった上で、地面にめり込んだ。人間が受けちゃいけない攻撃だと思う。


「俺が盾に慣れる練習でもあるから、よろしく頼むよ」

「はい。わかっています。ハルちゃん。あとで振り回してあげるからね」


 名残惜しそうにハルバードを置いて、イーファは長い棍棒を構えた。ハルバードはバトルアックスより長い。獲物の間合いに慣れてもらわなきゃいけない。


「じゃあ、始めるぞ。イーファを強くするのが大事なんだからな」


 ゴウラが言いながら、イーファと向かい合う。

 この後で俺も交代の予定だ。この盾に少しでも慣れておきたい。


「よし、はじめるぞ」

「はい! お願いします!」


 先発した冒険者が戻ってくる三日後まで、訓練は続いた。

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