第37話:相談役

 中枢を調査したベテラン冒険者達の報告を受けて、ピーメイ村冒険者ギルド温泉支部では会議が開催された。

 今回の会議メンバーは豪華だ。ルグナ所長にドレン課長、それと『癒し手』持ちのクレニオンの副ギルド長。それと俺とイーファだ。

 天幕の中でピーメイ村ギルドの主立った面々が集まって話すのは、中枢への対処方法。

 色々と調査してくれた冒険者パーティは現在温泉で療養中で、彼らが来る前にギルド内の意見をまとめておく、という方針である。


「過去の情報と動きが違うところもありますが、今回の調査で三匹を討伐できました」

「うむ。クラウンリザードは優秀な冒険者なら倒せるようだな。問題は数だが」


 さっそく作成した報告書を読み上げると、所長が頷いた。


「こちらが減らす数と向こうの増える数、どちらが多いのか気になるねぇ……。サズ君、どう思う?」


 ダンジョンの魔物は自然発生。クラウンリザードも同様だ。そして、既に過去の記録よりも多く出現しているので、増加数は今から確認するしかない。


「冒険者に狩って貰って検証するしかなさそうですね。思ったよりも楽に狩れそうなんで、ある程度は減らせると思いますが」


 幸いなことに、ここは第一階層にあたる場所だから、クラウンリザードはそれほど強くない。問題は数と女王だ。

 第一階層とはいえ女王はそれなりに強い。数匹だが、親衛隊とかいう強めの個体も従えているらしい。できれば取り巻きを減らしてから落ちついて挑みたいところだが。


「あの、昔の資料だと数を減らすと出てこなくなって引きこもっちゃったって書いてありました。それで仕方なく、冒険者を投入して強引に殲滅したとか」

「そうだよね。残り少なくなったら守りに入るよね。そうすると、どうやって一気に殲滅するかだけれど」


 イーファの発言に頷きながら、ドレン課長が腕組みする。課長は村長としての仕事は得意だが、ダンジョン探索についてはあまり明るくない。


「当時の資料ですと、女王とクラウンリザード十匹を同時に相手にしたらしいです」

「今回は戦場が外で数が増えてるからもっと多いかもしれないですね。仮にクラウンを二十から三十残して戦うとすると……」


 単純に数の脅威を考え、その場が重い雰囲気になる。今いる全戦力でどうにかするのは難しいかもしれない。

 その時、黙っていたクレニオンの副ギルド長が口を開いた。


「トカゲ型の魔物は大抵低温に弱いものです。サズさんは精霊魔法を使えると聞きますが、氷の精霊は扱えないのですか?」


 全員がこっちを見た。申し訳ないと思いつつ、首を振る。


「俺に使えるのは光と大地、それと水の精霊が少しです。それに、この辺りに氷の精霊がいないので、難しいかと」

 

 今の季節は春、というかもう初夏だ。氷の精霊はちょっと見つからない。


「まさか今から北国に派遣するわけにもいかんしな」

 

 所長が腕組みをしながら唸る。冬なら氷の精霊もそこらじゅうにいたかもしれないんだけどな。


「…………」

 

 場を沈黙が支配した。

 手詰まりだろうか。このままだと、犠牲を覚悟で突撃するか、もっと増援を呼ぶか。どちらかになる。


 クラウンリザードが冷気に弱いのは過去の資料にもあったので本当だ。

 いっそ氷の魔法がかかってる遺産装備でも所長経由でお願いできないか……。

 いや、魔法ならあるじゃないか。聞くべき相手が。


「一人、この話を相談すべき相手が居ます。それも近くに」


 なんで忘れてたんだと思いながら、俺は思いつきを口にした。それを見て、イーファも気づいたらしく、手をぽんと叩いた。

 所長達も気づいたろうが、視線だけこちらに向けた。俺に言わせるつもりらしい。

 俺は氷の精霊を使えないが、なんとかできそうな人がこの近くに住んでいる。影が薄いので忘れていた。


「魔女のラーズさんに相談してみましょう。こういう時のための相談役ですから」

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