第35話:切り札

 状況は更に変わった。再び停滞だ。中枢を見つけた以上、ギルドとしてはその対応に集中しなければならない。


 冒険者達に今まで通りの退治と調査の依頼は出すが、このために呼ばれたベテランパーティーなどは一時停止だ。ギルドと共に詳細を確認しながら、いかに討伐を果たすか攻略案を練るという段階になった。


 温泉野営地は、人が更に増えてより賑やかになっている。

 ギルドからの交代要員も来たし、ピーメイ村に待機していた『癒し手』もこちらに常駐。外に作られた炊事場は常に稼働しているし、行商人まで来ている。


 元々ピーメイ村中心地くらいあった温泉の王の地域が、今では小さな村くらいの規模になってしまった。

 ちなみに王は喜んでいる。村と行き来する道が整備されたし、温泉に柵ができたし建物が増えたのが良いらしい。生活が便利になると好評だ。


 また、魔女のラーズさんは全然でてこない。人見知りなので仕方ないが、たまに俺に食べ物を催促したりゲームの相手をさせにくる。


 そんな温泉支部には、余った倉庫用の資材で建築した休憩用の場所がある。

 壁のない屋根だけの休憩所、そこに冒険者が集まっていた。


 俺とイーファはよくそこにいる。冒険者と話すのは大事なことだし、イーファにとっては、貴重な経験をするまたとない機会だ。


 俺達はベテラン冒険者達とゴウラを中心とした輪の中にいた。

 話題は当然、中枢についてだ。


「クラウンリザードってのを見つけたはいいけど、これからどうするかね? ありゃ、百はいたよ」


 ベテラン冒険者の中心人物である女冒険者が言う。

 ちなみに彼女が中枢の第一発見者である。


「群れになってるって話は聞いてたけど、ありゃあ驚くな。昔はダンジョンの中であの数だったのか?」

「見た目は頭に模様があるオオトカゲなんだが、大きさと数がなぁ」


 彼女の仲間達がぼやいた。

 クラウンリザードは白い体色をした人間大のトカゲだ。頭に王冠のような模様があるのが特徴で、オオトカゲという似たような魔物より手強い。

 問題は数だった。百というのはかなり多い。昔の資料では多くて二十匹で、俺もそういう想定でいた。


「数については、こちらの想定外ですね。もしかしたら、長いことあの場所にいて増えたのかも。それに、今は空間も広いですし」

「魔物も繁殖するんですか? ダンジョン内で勝手に生まれてくるって聞いてますけど」

「繁殖はないだろうねぇ。もしかしたら、場所が広いから数を増やそうと変化したのかもねぇ」


 魔物は基本、繁殖しない。いきなりダンジョン内で生み出されるのだ。ゆえに、魔物は地形に影響されやすい。女冒険者の言う通り、世界樹時代と地形が違うので、増えたのかもしれない。

 

「ダンジョンの形に合わせて、魔物の出現法則が変わることはありますから。考えられますね」


 俺が言うとイーファ以外もほう、と唸った。王都時代に沢山みた資料にそんな記述があった気がする。まさか、自分が目の当たりにするとは思わなかったけど。


「それじゃあ、昔の倒し方は通じないってことですよね? どうしましょう?」

「方法はともかく、女王という個体を倒せばいいらしいよ」

「数が多すぎて見分けられなかったけれどね」


 女冒険者が俺の言葉に付け加えた。

 女王はクラウンリザードの特殊個体だ。一回り大きく、体色に金色が混ざっている。この前のブラッディア以上に強く、火まで吐くらしい。

 クラウンリザード討伐の方法は、この女王を倒すことだ。世界樹時代は女王を倒すことで第二階層への道が拓かれたという。


「イーファの言うとおり、通じるかわからないけれど、まずは昔のやり方だね。たしか、ダンジョン内で少しずつ誘い込んで数を減らしたんだっけ?」

「ええ、記録ではそうなってますね」


 クラウンリザードはここでしか確認されてないので、他に参考になりそうな討伐方法はない。まずは様子見しつつ、誘導して少しずつ数を減らす。記録だと、女王以外は物凄く強いわけではないので、なんとかなるはずだ。


「とりあえずはそれだね。それとイーファ。もう少ししたら装備が届くらしいから、状況が整ったら手伝って貰うよ」


 女冒険者がイーファを見る。彼女はイーファをすごく気に入っていて、よく稽古をつけてくれている。戦力としても、ギルド職員としてもイーファにとって懇意の冒険者は大事な存在だ。

 自分も討伐に向かえと言われたイーファが俺の方を見た。


「もちろん、俺達も冒険者ですから。参加しますよ。毎回とは言えませんけれど」

「それで十分さ。特にイーファはこちらの切り札だからね。あたし達がいない間も戦い方を教えといてくれよ」


 女冒険者がそう言うと、全員が一斉にイーファを見た。


「わ、私が切り札ですか!? ただの新人ですよ」

「新人だけど、ただ者じゃあないねぇ」


 この場の全員が、イーファがただの新人の枠を越えていることを認識している。

 この子をボスの下にうまく届けることができるかが、勝負に掛かっているのだ。

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